表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
67/205

2-34:アルヴィースの迷宮


 アルヴィースのダンジョンには、他のダンジョンにはない特徴がある。

 それは本当の『鉱山』であるということ。


 『踊る小人亭』で準備を整えてから、僕らは迷宮へと向かう。

 入り口は鉱山の中腹にぽっかりと口を開けていて、馬車が何台もすれ違えるほど立派だ。石造りなんだけど、まるでさっき切り出されたみたいに岩の表面はすべすべしている。


「ここ……」


 フェリクスさんの背中で、サフィが声を出した。

 小人は目を引いてしまうだろうから、迷宮でもサフィはリュックに隠れている。

 『守護の指輪』のおかげで、しばらくは封印にも対応できるはずだけど……。


「どうしたの? なにか変?」

「な、なんでもない……」


 もっと問いたかったけれど、迷宮内部に目を奪われてしまう。


「わぁ……!」


 高さ10メートルはある天井。そこに魔石灯がたくさん吊られて、ダンジョンなのに真昼のように明るい。

 見渡すほどの大広間には、売り買いの声が響いている。

 なんと、馬車で乗り付けて買い物している人もいた。


「こ、ここ、ダンジョンの1層目ですよね?」

「そうさ」


 ミアさんはにんまり笑う。驚かせたのが楽しいみたいに。

 でも、こんなのキョロキョロするなっていう方が無理だよ。


「アルヴィースのダンジョンは、1層目に市場がある珍しい迷宮なんだ。スライムぐらいは出ることあるけど、みんな承知さ」

「えっ……え!?」


 フェリクスさんが補足する。


「なお、冒険者ギルドもオーディス神殿も公認です」


 父さんから少し聞いていた。けれど、現実は想像を超える。

 だって太い柱の周りには、店を開いている冒険者がいて。

 その合間を馬車が横切っていて。


「どいてくれえ!」

「道を開けろぉ!」


 採掘されたであろう超大型な斧が、台車に乗ってやってくる。引いているのは屈強な冒険者達だ。

 ドォン!と一際高い舞台に巨大斧が置かれた。

 人がわっと集まる。

 壇上の人は、太いお腹と腕で存在感抜群だ。


「さぁさぁ! アルヴィースの第2層から発掘された、このゴーレムサイズの巨大斧! 材質はグラン鋼、現代の技術では精製不可能、溶かして鋳固めるだけで逸品確実なレア物だぁあ!!」


 口上はここまで響いてくる。手を打ち合わせる音が甲高い。


「では8万ゲントから!」


 せ、競り、だ――!

 ここ、ダンジョンから出た遺物を、ダンジョン中で競りに出しちゃうんだ!

 呆然としていると、歩いている冒険者パーティとぶつかりそうになる。


「第5層では(ヌシ)が出たらしいぞ」

「ちょっと早いな」

「魔物の強さが上がってるのか?」

「全体メッセージどおりだな……」


 耳がそんな会話を拾ってしまう。

 盛況にみえるこの迷宮でも、『巨人の遺灰』で魔物の強さが変わってきてるんだろうか。

 『終末』を予言した神様の全体メッセージも、ここではカルマルよりも切実に捉えられているみたいだ。冒険者の街だからだろう。


『……遺灰の気配はする。かなり下の方から、とても強く』


 ソラーナが金貨から教えてくれた。


『サフィが目覚めた時に感じた嫌な気配というのは、これかもしれないね』


 巨人がいるかもしれない迷宮ってことになるよね……。

 事前情報で予想はしていた。でも冒険者の声を聞くと、差し迫って感じる。

 賑わいと、危機。


「はい! 10万ゲント! 10万ゲントで妥結です!」


 競りが終わる声で、現実に引き戻された。

 ミアさんが笑っている。


「魔石はギルドが買い取るし、鉱石なんかも別に市場がある。だけど、迷宮でとれた掘り出しものなんかは、ここですぐに鍛冶場が買い上げちまうのさ」


 馬車に巨大斧が積み込まれ、あっという間に入口へ消えていった。

 あのまま鍛冶場に直行しちゃうんだろうか。


「……なんというか、すごい、ですね」

「ああ、すごい。最上の原料を誰より先に手にしたい――そんな鍛冶屋のコダワリってやつだろうね」


 ダンジョンから武具を見つけて、誰かが売って。

 それをまた誰かが買って、ダンジョンに潜る。

 武具を使うのも、生み出すのも、この迷宮ってことか……。

 フェリクスさんが杖をついた。


「さて、我々も下へ向かいましょう」


 僕は両頬を叩いて、浮わついた自分を叱りつけた。

 顎を引いて応じる。ここからは実戦だから。


「修行ですね」

「しゅ、修行?」


 フェリクスさんはちょっと驚いたみたい。だけど、すぐに肩をすくめる。


「確かに。修行ですね」

「ええと。2日を迷宮での修業に費やして、最後の1日で最下層つまりボス層へ向かう……そうですよね?」


 事前に決めた予定(ルート)を確認した。

 攻略に3日をかけるのは少し悠長にみえる。

 ルゥを守るための力がここに眠っているかもしれない。サフィの仲間だってきっといる。

 本当はすぐにでもボスに挑みたい。

 でもそれを制するのが、フェリクスさんとミアさんの経験だった。


「リオン、焦るなよ。最初は特にだ」


 見上げると、ミアさんの目は真剣だ。

 フェリクスさんも額の小冠(コロネット)を直す。


「ここは火を使う魔物が出ます。リオンさんのレベルは20ですが、最低でも22、高望みでは25くらいまでは上げて挑みたい。迷宮の推奨レベルが25ということもありますが――」


 フェリクスさんは言葉を継いだ。


「魔物の炎は本能を刺激します。つまり『熱』です。恐怖に平常心を失い、恐慌、動きが乱れて死んでしまう――実際に起こりうる話なのです」

「それで装備も変更なんですね」

「その通り」


 僕達は、アルヴィース・ダンジョン用の装備に切り替えていた。

 ガントレットはルゥからもらったものをそのまま身に着けている。ただ、左手甲にあるクリスタルは色が赤く変わっていた。

 小人の鍛冶屋さんサフィの仕事だ。


 旅用のマントも、炎に強い素材へ替えている。さらに防具にも、サフィは魔法の文字(ルーン)を刻んでいた。

 『(ケン)』と『(イス)』――炎よ停滞せよって意味らしい。


「このダンジョンには、最下層のボス以外にも、中間ボスという大物がいます。実力を試す意味でも、事前に戦うといいでしょう」


 そこで、僕達のところに男女の冒険者が歩いてきた。

 がっしりした男性は大きなリュックを背負っている。もう片方の女性は、何も負っていない。

 2人は足を揃えて止まった。


「フェリクス殿」

「到着しました」


 突然でびっくりした。でも、よく見るとどっちも旅で一緒だった、鴉の戦士団だ。

 ダンジョン用の装備になっているから分からなかった。

 フェリクスさんが紹介する。


「彼らはここで合流します。サフィも背負ってもらいましょう」


 言いながら、フェリクスさんはサフィの入ったリュックを2人に任せた。


「ここでは魔石以外にも、重たい鉱石や遺物が出ます。そのため、アイテム運搬――いわゆるサポーターが2人いることも珍しくはない」


 サポートの専門家ってことかな。階層が深いダンジョンでは、そういう人が必要になるって聞いたことはある。

 僕はぺこりと頭を下げた。


「よろしくお願いします」


 さて、準備は整った。

 いよいよ探索開始。

 左腰の短剣を確かめる。サフィは武器にも魔法文字(ルーン)を刻んでいた。

 神様の声を思い出すと気持ちが奮う。



 ――――


 青水晶の短剣〔(ラド)


 ――――



 小人の加治屋さんは、宿った精霊と同じ風の魔法文字(ルーン)を武器に授けてくれたんだ。


「行きましょう!」


 戦闘層へ降りる。

 新しい迷宮で、神様や仲間からもらった新しい力を試そう。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
新作始めました! もふもふ可愛く、時々アツい、王道ファンタジーです!
転生少女は大秘境スローライフを目指す ~スキル『もふもふ召喚』はハズレと追放されました。でも実は神獣が全員もふもふしてた件。せっかくなので、神獣の召喚士として愛犬達と異世界を謳歌します~

【書籍化】 3月15日(水) 小説第2巻・漫画第1巻が発売します!
コミック ノヴァ様でコミカライズ版は連載中です!

4vugbv80ipbmezeva6qpk4rp5y4a_ba7_15w_1pr_on12.jpg

書籍サイトはこちらから!

小説家になろう 勝手にランキング
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ