表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
30/205

1-30:魔物の侵攻

 火の手は城門からだった。

 屋根から梯子を駆け降りる。その間にも、遠くから悲鳴が聞こえた。

 まだ夜は始まったばかり。だというのに、恐ろしいほどの騒がしさ。


「冒険者は、城門へ! 城門へ!」


 いつも陽気な物売りさんまで声を枯らしている。


「冒険者は、城門へ!」

「城門へ!」

「早く、早く来てくれぇ!」


 準備を急ぐけど、手は震えた。

 革で胸と関節を補強したいつもの衣服に、青水晶の短剣を持つ。父さんの赤いスカーフが壁で揺れていた。


 本当は、短剣は採集用で、少しでも軽いものを選んでいるだけ。冒険者として本当に強くなろうと思ったら、『剣』がいいといわれていた。

 攻撃も防御もこなせる長剣は父さんも使っていた憧れだ。でも、今の僕には、短剣にしか手が届かない。

 慣れた武器でいくべきだろう。


「リオン」


 玄関から振り向くと、母さんがランプを持って立っていた。


「行くの?」

「うん。何か起こったみたいだから」


 そう、と母さんは短く言った。2階からルゥが下りてくる。


「お兄ちゃん、帰ってきてね」


 既視感。

 こんな光景を、昔に――2年前に見たような。

 今の光景は、父さんが死ぬ前の、最後の出発と同じだった。

 違うのは僕が見送られる側にあるというだけ。


「いってきなさい」


 母さんは落ち着いた声だった。


「あなたが思うとおりに。今まで頑張って、努力してきた。振り返らずに駆けてらっしゃい」


 神々の加護を。

 そう言う母さんに頷いてから、泣きそうなルゥへ身を屈める。


「必ず帰るよ」


 コインに封印解除を施した。



 ――――


 <スキル:目覚まし>を使用しました。


 『封印解除』を実行します。


 ――――



 ルゥにだけは、朝日のように輝く女神さまの姿が見えているだろう。


「黙ってたけど……僕には、女神様がついてるから」


 母さんは不思議そうな顔をしているけれど、ルゥは息をのんでいた。やっぱり今も妹には神様が見えている。


「お兄ちゃん、あの人……」

「いってきます」


 僕は家を出た。

 軒先はいつもと同じしんと冷えた夜。でも空気が違う。焦げ臭いんだ。

 ソラーナが金髪をなびかせて空へ舞い上がる。


「東は大火事だ」

「た、大変だよ、それ……!」


 冬で空気は乾燥しているし、雪だってしばらく降っていない。

 密集した王都の木造建築には大惨事の予感しかなかった。


「それに魔物の声もした。とんでもなく強い気配も……」


 ソラーナは宙を舞いながら言った。


「リオン、迷わずスキルを使え。わたしを盾にしていい」

「た、盾って」

「できることをやるんだ」


 言葉を失ったまま足を回した。

 起こし屋で行き来した街が、もう見納めになるかもしれない街が、視界を過っていく。

 そんな風に辺りへ目が泳いでいたからだろうか。視界の端にあったものを、僕は見逃さなかった。


「……鴉の戦士団?」


 灰色のマントに負った、2頭鴉の紋章。

 裏路地にたたずむその人は、僕に気づかない。

 戦士は夜空を見上げてすぐに壁を登りだした。屋根上に敵でも見つけたんだろうか。


「どうしてここに……」


 ルゥ達が待つ家も近い。

 僕はどうしようもなく不安になった。戻って、家族だけを守りたくなる。

 でも鴉の戦士はすでに見失ってしまったし、追いつくこともできないだろう。腕利きの身体能力は僕とは段違いだ。


「……追おうか?」

「いや。行こう、ソラーナ」


 今できるのは、魔物の進軍を食い止めること。

 母さんの言う通り、振り返らずに駆けよう。


「ソラーナ、力を節約して」

「わかった」


 コインに神様が舞い戻る。

 さらに駆けて大通りへ出た。そこは想像を絶する光景だった。


「……ひどい」


 城門や冒険者ギルドへと通じる大通り。でも今は、左右どちらの建物にも火が放たれていた。城壁でも兵舎が燃えて、煙が月を隠している。

 叫び声がした。


「た、助けてくれ!」


 人がゴブリンに襲われてるっ。

 体当たりし、魔物が起き上がる前に首を刺し貫いた。


「ありがとう!」


 その人は逃げて行ったけれど、かなりの魔物が城壁を超えているようだ。熱に揺らぐ前方から、数十体の影がやってくる。

 冒険者の数は限られていた。必死に見回しても、ここに集まったのは10人にも満たない。


「他の人は……!」


 覚えのある声が魔物の列を吹き飛ばした。


「城門だとか、他の区画だとか、あちこち散ってるよ! それか、逃げちまったかだな!」


 ミアさんだった。

 鎖斧が一閃。魔物達を退ける。


「だが、城門が破られたせいで敵の数が多い。それに」


 赤髪を揺らして見つめるのは、都の中心にある王城。


「指揮するやつがいないんだ。冒険者ギルドはめちゃくちゃだし、東ダンジョンの冒険者はもともと頼りになんないだろ」

「それは……まずいですね」

「ああ、まずい」


 ごくりと喉が動いた。

 次の希望は、王都の衛兵や騎士だ。貴族は強い戦闘スキルがある。


「言っとくけど、王都の騎士だとかしばらく来ないだろうさ」

「これだけ燃えてるんですよっ?」

「どうせ、やつら今日もパーティーだ。宴会を切り上げて、隊長だか大臣だかを引っ張り出す。で、そいつら貴族が出動にサインする――それまで出てこないさ」


 ミアさんの言葉は絶望そのものだった。こんな大惨事なのに、僕らは僕らだけで――?

 『起こし屋』として駆け回った街並みが焼けている。ダンジョンから外へ飛び出した魔物達は、見慣れないオモチャを壊すように、火をつけまくっていた。


 コボルトやゴブリンは僕らが目に入ってるはずだけど、町への放火を優先してる。

 明らかにダンジョンの魔物とは違った。

 より邪悪に、狡猾になっている。


「封印のせい……?」


 ダンジョンが魔物を閉じ込めておくためのものなら。

 解き放たれた魔物は、かつての知恵さえ思い出すのかもしれない。


『リオン!』


 ソラーナに呼びかけられて、はっとした。


「ミアさん、やりましょう。少しでも、魔物が遅くなるように」

「ああ! 囲まれないよう、背中は任せる」


 鎖斧を回し、ミアさんが応じた。

 ゴブリン、スケルトン、コボルト、ワーグ。次々とやってくる敵に対する、壁になった。

 頼りになるのが、魔法だ。


「わん!」


 クリスタルに宿る精霊は、魔力ゼロで使える。僕は次々と空気の壁を叩きつけた。

 周りから声。


「すげぇ……」

「リオンかあれ!?」

「外れスキルじゃ――なかったのかよ!?」


 冒険者達が驚き、たじろぐのがわかる。


「あなたたちも、戦ってください!」

「だが俺たちは……なぁ?」


 弱いから。卑屈な笑みに、叫んだ。


「じゃあ、できることを! 避難呼びかけたり、燃えそうなところを助けたり!」


 冒険者たちは顔を見合わせたけれど、幾人かは助けを求める声に駆け出していく。その中には、僕が落とし穴に落ちたのを助けた人もいた。

 魔物は次々と押し寄せる。大波が飲み込んでくるように。

 短剣を振るい、鎖斧がなぎ倒し、風がはじき返す。

 息が切れかかった時、魔物の層が薄くなるのを感じた。


「これなら……いけるっ」


 息を吸った。


「ミアさん、前進しましょう! 今なら、城門へ押し返せますっ」


 あたりが急に暗くなった。

 月が、欠けた?


「よけろっ」


 ミアさんに叫ばれなければ死んでいた。

 鉄塊。そうとしかいいようがないものが、跳び去った地面に打ち付けられる。

 轟音と振動。立っていられない。


「ぐぅっ」


 呻きをこらえて、体勢を立て直した。自然とミアさんとカバーに入る。

 状況はまだ分からない。それでも、体が勝手に戦闘体勢に入っていた。

 恐れをなしたような、短い息。

 僕のものかと思ったけれど、隣にいるミアさんからだった。

 ゆっくりと、その何かは身を起こす。


「巨人……?」

 

 月を背負って立つ巨体。黒光りするのは鎧と、城壁のような大盾。

 あまりに大きすぎて、一瞬、それがヒトガタだって気づけなかった。

 身長は3メートルはあるだろうか。

 頬まで裂けた口がはっきりと笑う。


『狼骨、スコル……』


 ソラーナが言った。東ダンジョンの地下にいた魔物の将だ。

 スコルは空に向かって声を放つ。まるで遠吠え。

 怖気が全身を這い上がり言葉が漏れた。


「あの氷の中にいた……」


 ソラーナが金貨の外へ飛び出した。

 さっき<目覚まし>をしたからまだ時間は残っているだろうけれど、負担になることは変わらない。

 それでも上空へ舞い上がり、様子を告げてくれる。


「周りでも魔物がもっと暴れてる。あいつが、スコルが現れて、魔物が昂っているんだ」


 スコルは裂けた唇を吊り上げた。


「懐かしい気配がすると思えば、お前……!」


 声で空気が鳴動する。


「あの、太陽の娘がいるじゃないか! あの女神の娘かよ!」


 大盾が構えられる。砦に挑むような気持ちになった。


「うまかったぜ……極上だった! 女神の力ってのは、すげぇもんだった……」


 ソラーナのお母さんを倒し力を吸収した相手――つまり、神殺しをした魔物。

 短剣の切っ先が定まらない僕を、ソラーナは守るように立っていた。


「ソラーナ、周りに人は……」

「目の届く範囲には。わたし達以外は、スコルを見て散ったのだろう」


 戦うしか、ない。

 神殺しをなしたこの魔物と。

 この人を置いて逃げることだけは、絶対にしてはいけない。


「戦おう、一緒に」



 ――――


 <スキル:太陽の加護>を使用します。


 『黄金の炎』……時間限定で身体能力を向上。


 ――――



「屍狼と同じように、最後に一撃をお願い……!」


 ソラーナが金貨に戻ってから、僕は前に踏み出した。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
新作始めました! もふもふ可愛く、時々アツい、王道ファンタジーです!
転生少女は大秘境スローライフを目指す ~スキル『もふもふ召喚』はハズレと追放されました。でも実は神獣が全員もふもふしてた件。せっかくなので、神獣の召喚士として愛犬達と異世界を謳歌します~

【書籍化】 3月15日(水) 小説第2巻・漫画第1巻が発売します!
コミック ノヴァ様でコミカライズ版は連載中です!

4vugbv80ipbmezeva6qpk4rp5y4a_ba7_15w_1pr_on12.jpg

書籍サイトはこちらから!

小説家になろう 勝手にランキング
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ