3-12:隠されたメッセージ
僕らはとりあえず、騒がしい商館の外へ出る。
この場所に敵が隠したメッセージ。もしそれを見ることができたら、奴隷商人の拠点や、次の取引日時がわかるかもしれない。
3人で身を隠した曲がり角は、商会から数十メートルしか離れていない。でも、人通りはぐっと少なくなる。おかげで作戦会議はしやすかった。
まずミアさんが壁に背を預けて、口を開く。
「要は、魔法で刻まれたメッセージってことだろ?」
じゃらりと鎖を揺らして腕を組んだ。
「そんなことできんのか?」
「研究はされていますね。普通の手紙と違い、例えば『合言葉』を知らなければメッセージが浮き出てこなかったり、色々な工夫ができます。今、最も有望視されているのが――」
フェリクスさんは僕の方を見た。
「魔石にメッセージを刻むこと、です。王国でも研究段階ですが、奴隷商人側はもう使っているのかもしれませんね」
僕は魔力探知した光の大きさを思い出した。
「ええと、物の大きさは、タマゴくらいでした」
「魔石の可能性が高そうです」
ミアさんがぐしっと赤髪を掴む。
「サフィを連れてくるか?」
鍛冶屋さんサフィは、先に神殿に入って僕達を助ける準備をしていた。鍛冶道具とか、砥石とか、色々と備え付けるものがあるらしい。
「今はまだ早いでしょう。まずは、そのメッセージを手に入れなければ」
フェリクスさんは少し顎に手をやって、細い目を針みたいに鋭くさせていた。
僕とミアさんを含めた3人の中で、一番奴隷商人を追ってきたのはフェリクスさんだ。知識や経験があるのだと思う。
「……断定はできませんが、メッセージを刻まれているのが『魔石』だとすれば、やはり商会の引換機能を利用している可能性が高い」
それというのも、とフェリクスさんは指をひとつ立てた。
「説明した冒険手形は、もともとは、忙しい商人が冒険者とアイテムをやりとりするための仕組みです。提示すれば、商館が代わりに品物を渡してくれます。そしてその品物にメッセージ付きの魔石が入っていても――」
ミアさんがぱちん、と指を鳴らした。
「渡す相手が冒険者なら、怪しまれない、か」
「はい。いちいち顔を合わせるリスクを、商会の仕組みで回避しているのですね」
敵のやり方ながら、僕は感心してしまった。
魔物が人間の仕組みを利用するなんて、少し変な気もするけど。
「敵には商売上手がいますね。魔物か、協力している人間かはわかりませんが」
フェリクスさんが肩をすくめる。
僕もちょっと考えた。こういう知識も、立派な『力』だって思うから。
「フェリクスさん。それだと、手形がないと商会は魔石を出してくれないってことですか?」
「そうなりますね」
手形が引換券のようなものだとすれば、同じ券がいくつもあるとは思えない。
フェリクスさんは両手を開いて僕に見せた。
「河賊も持っていないようでした。捨てていなければ、手形自体はまだ受け取れていなかったのでしょう」
「まだるっこしいやり方だね」
口を曲げるミアさんに、フェリクスさんは苦笑した。
「おかげで我々は苦労するわけです」
ごくっと喉が動く。
考えてみると、僕は今まで奴隷商人達に先手を取られてばかりだった。でもようやく、僕やルゥを襲った敵の動きを掴もうとしている。
まだ、ほんの切欠に過ぎないけど。
フェリクスさんはさらに続けた。
「経験上、商館にも協力者はいると思います。よくできた仕組みですが、不測の事態に備えて、それなりに実力のある者を1人は商館に潜らせているでしょう。ま、メンテナンス係ですね」
「なら、なおさら慎重にいかないと、ですね」
フェリクスさんは僕を見下ろして、ほほ笑んだ。
「そう。この協力者を捕らえる好機でもあります。泳がせるよりは、捕まえたい」
僕はお腹で呼吸を整えた。
目を閉じて、状況を整理してみる。
「僕らは、魔石を出してもらえる手形を持っていない。そうなると、たとえば戦士団の名前を出して、無理やり倉庫を見せてもらうことも考えられますけど、その場合は……」
「協力者が邪魔をするでしょう」
ミアさんが赤髪をかいた。
何度も首をひねった末、とろんとした目になる。
「…………八方ふさがりじゃねぇか?」
「事実、騒ぎにしては商館の協力者が騒ぐでしょう? メッセージのある魔石を破棄され、その協力者に姿を隠されれば、全てが振り出しです」
フェリクスさんが言い終えると、みんな口を閉じてしまう。
金貨が震えたのは、そんな時だった。
『聞いたよ、リオン』
ソラーナの声がしてから、神様は口々におっしゃった。
『はは、情報戦ってわけだな?』
『ロキも面白くなってきたよ!』
『皆さん、慎重に』
そうそう、と一際に爽やかな声がした。
狩神ウルの声だ。
『斥候や前衛が、連絡に工夫するのは変わらないね。こういう時、狩人はどう駆け引きすると思う? 獲物が穴に潜って、出てこない時さ』
にやり、と笑う茶髪の神様が見えた気がした。
『猟犬をけしかけるんだよ!』
与えられたヒント。
頭にちらついたのは、猟犬に驚いたウサギが、巣穴の別の出口から逃げ出そうとする情景だった。
「あ……!」
僕は浮かんだ考えを話す。
今度こそ、ミアさんとフェリクスさんが揃って指を鳴らした。





