第15話 文化祭(後編)
文化祭当日。1年生が作ったアーチを潜り抜けると、校庭や校舎の裏まで模擬店が並んでいる。模擬店の位置は事前のくじ引きによって決められ、委員長が一番人気の校庭の場所を引き当てた。
本田先生にテントの組み立てを手伝ってもらった後、色とりどりの飾りつけをしたものの、衣装にお金をかけたこともあり、周りと比べると若干地味であった。
「いらっしゃいませ、ご主人様」
可愛らしい化粧とウィッグをつけて男の娘メイドになっている男子生徒と共にメイド服を着て、並んでいる生徒たちに焼きそばを配っていた。なお、作っているのはメイドさんではなく、ハチマキを身につけた森くんが汗水をたらしながら作っている。
「私が働くのは2日目だ。貴様らはそこでせっせと働くがよい」
「さすがに昼は人が凄い」
昼の客がピーク時、焼きそばが飛ぶように売れる中、ときどき注文が入ってくるパンケーキに注文間違いする人が現れる。来年、模擬店するときはメインだけの勝負にしようと固く誓った。
「えっ~と、パンケーキ頼んだのは確か、この人……」
「違いますよ、この人は焼きそば3人前とコーラとお茶2つ。あの人がパンケーキ2人前とオレンジジュース2つです」
そんな慌ただしい中、里奈がみんなのオーダーミスをカバーしながら働いている。伊達に喫茶店のアルバイトしているわけではないと感心したが、その思いはこの忙しさの前にあっという間に流される。
昼も過ぎて、客がまばらになってきたころの休憩時間に真央が戻ってきて、手にはネギ焼き、アゲシュー、フランクフルトなどを持ってきて、私たちのところにやってくる。
「よく働いた貴様らに下賜してやろう。受け取るがいい」
「……やっぱり真央は魔王に向いてない」
「どこがだ!? 労働した者にはそれなりの功績を与えるのが上の身分の役目だろうが。部下に功績を与えない貴族はただの豚だ」
「日本のお偉いさんに聞かせてあげたいよ」
「異世界でもそういう輩がいるのは困る。いずれは私が統治してやるのだからな」
「どうやって?」
「この世界では選挙で合法的に王になれる。こういう場合、違法的な手段は最後までとっておくのにかぎる」
「選挙に出る魔王様……」
真央(あくまの姿)が選挙に出て、車の上から「清き一票を」と言っている姿を想像してしまう。その光景に思わず吹き出してしまう。
「何がおかしいんだ!?」
「だって……ねぇ」
「まったく失礼であろう。これだから異世界人は……今度は校舎内の見世物でも回るとするか」
真央が口の周りについているソースをふき取り、校舎内へと戻っていく。私もひと踏ん張り頑張って、明日の休憩時間にはお礼も兼ねて差し入れを買わないと。そう思って、タイムセールと評した値下げやトッピングメニューの追加で、1日分の売上ノルマを達成しようとした。
文化祭2日目。今日は私たちがお客さんとして各店舗を見て回る日だ。隣を見ると、うきうきを通り越して臨戦態勢の里奈がいた。
「今日の私の財布の貯蔵は十分です。慢心はしていません」
「いい? 私たちはダイエットした。ここで食べたら戻るのよ」
「覚悟はできています。もうこれでスカートが入らなくても良い。私は食いしん坊姫と言われようとも……食べます!」
里奈がロケットのように模擬店に向かって飛び出していく。パクパクと食べる里奈を見ながら、私も財布のひもを緩め、同じように食べてしまう。少しくらいなら大丈夫だよね。
色々な模擬店を回っている里奈に対し、私は自分のクラスの模擬店の様子を見に列を並んだ。私のところに来たメイドさんは真央だ。
「今日はトッピングメニュー最初からあるんだ」
「2日目だからな。パンケーキが思うように売れなかったこともあって、初手から追加した。さあ、全種買え」
「しょうがないな……パンケーキとトッピング焼きそば、コーラ1つ」
「ご主人様、パンケーキとトッピング焼きそば、コーラ1つずつ」
「ちょっと、ご主人様はこっち!」
「ふっ、こういう趣向も面白いだろう」
そう言い残して、真央は林くんから焼きそばとパンケーキを受け取り、クーラーボックスの中に入れてあるコーラを紙コップに注ぐ。
「ごしゅじん、料理を持ってきたにゃん」
「キャラ変わりすぎ!?」
「にゃん? さっきからこう喋り方だったにゃん。さっさと食べて元気に出ていけにゃん」
「言っていることは辛辣!じゃあ、頂きます」
モグモグと食べていると校庭の真ん中の特設ステージで生徒会によるヒーローショーがやっている。そういえば、初めて里奈が戦った時、ヒーローショーもどきとして処理したことを思い出し、まだ半年も経っていないんだなぁとしみじみと感傷に浸る。
そんなとき、1匹のゴブリンがステージに乱入する。よくできたきぐるみだなと思っていると、バトル形態の里奈も乱入する。何やっているの? まさかだとは思うけど、あのゴブリン、本物なの?
「悪い魔物はここで成敗です。バルキリーブレェェェェド!!」
ゴブリンが一刀両断され、霧散していく。前回の修学旅行の時といい、今回の文化祭といい、シャドウとシャドーマン、うちの学校と関わりすぎよ!
「貴方は一体……」
(こんなの台本になかったぞ)
「私はとある人物を倒すため、セイトカイジャーに雇われた身。名乗るほどではありません。しいて言うなら、イセカイジャーホワイトとでも名乗りましょう」
「イセカイジャー、本部から別働隊がいると聞いたことがある。まさかここで出会えるとは思いもしなかった。一緒に暗黒元帥ダークコーチョーを倒そう」
(ええい、どうにでもなれ)
私は生徒会長のアドリブ能力の高さに感心していた。きっと物語はすでに破たんしているはずなのに、つじつまだけは合っている。もうこれ以上、シャドウが出てきて台本を書きかえられたら生徒会長の胃が持たなさそう。
「フハハハ、イセカイジャーホワイト、今日こそお前の命日にしてくれるわ」
「貴方は暗黒元帥の右腕、シャドーマン!」
シャドーマン、あんたもか!なんで出てくるのよ、ノリ良いし!見てよ、生徒会長が変身スーツを着ているのに顔色が青くなっているのが丸見えじゃない。
そんなことはほっといて、二人が互いの剣を交えて、火花を散らす。だが、何の事情も知らない生徒に被害を及ばないように戦っている里奈に対し、そんなことをお構いなしにシャドーマンが距離を採りつつ魔力弾を織り交ぜながら攻めてくる。
当然、里奈は生徒を守るため、防御魔法を唱えて生徒の前にバリアーを張っていく。だが、それが隙となって、里奈に重い一撃が斬りつけられ、鎧が破損してしまう。
「里奈!」
「大丈夫です。まだいけます」
「全く、騒がしいと思ったら……コホン、イセカイジャーホワイト、苦戦しているようだな」
「貴方は暗黒元帥の手下だったダークブラック!」
「それは昔の名だ。今は貴様と共に戦うイセカイジャーブラックだ」
「セイトカイジャーは生徒たちを避難させる。イセカイジャー、君たちにここを任せても構わないか」
「もちろんです」
「無論だ」
真央の乱入に合わせて生徒会長が近くに居た生徒から校舎へと誘導させていく。ただ、校舎の出入り口に人が集まっていることから、距離をとらせたにすぎない。だが、すぐそばに人がいないのは心理的にも楽なのか、里奈のスピードが1段上がった気がする。
シャドーマンが右手をかざすと、上空から三日月状の隕石が里奈たちごと校舎を押しつぶさんと向かってくる。
「食らえ、ダークムーン!」
「光よ、私たちを導く閃光となれ!ホーリースパーク!!」
「闇よ、我がもとに集え!ダークネス・デッドリーウェーブ!!」
白い光のビームと黒い波打つビームが隕石に向かって放たれていくが、隕石にひびが入り、その勢いを弱めこそするものの粉砕には至っていない。
「フハハハ、我が呪文がその程度の力で止まると思ったか」
絶体絶命。みんなが上空を見上げて、落ちてくる隕石をみている。ある人は祈りをささげ、ある人は撮影をして、ある人は現実であることを受け入れずにいた。そんなときだ、地上からサンライトイエローの魔力弾が放たれ、粉砕したのは。
「……一体何が」
「この光は……勇者様の……」
「くっ……奴がこの近くにいるのであれば、ひとまず退却させてもらう。覚えていろ」
シャドーマンが捨て台詞を吐き、その姿を消す。魔力弾が放たれた方を見ても、誰がそれを撃ったのかは分からない。全員の目が隕石に向いていたのだから。
こうして、魔法を使った大げさなヒーローショーは無事終了し、大きななぞを残したまま文化祭は閉幕した。




