第14話 文化祭(前編)
夏休みが明け、秋だというのに残暑が厳しく夏がまだ続いているのではないかと疑うこの頃、私はいつものように里奈は目を輝かせながら近づいてきた。
「2学期といえば、文化祭に運動会、ハロウィンにクリスマス。色々なイベント待ち遠しです」
「その中だと文化祭が一番近いね。確か、今日のHRで出し物を決めるんじゃなかった?」
「ええ。劇でも模擬店でもどーんと来いです」
「ははは。里奈が料理を作ったら、全部塩味になりそう」
「それのどこが悪いのです? 素材の味を一番生かせるのは塩です。最近はショーユというのも捨てがたいですが」
「醤油は向こうにないの?」
「似たようなものはありますが、風味が違うんですよね。ショーユを向こうで売れば大ヒット間違いなしなのですが、王女である私が密輸まがいのことをするのはさすがに……」
「まあ、こちらに来た時のお楽しみということでね。ところで、向こうにも文化祭とかハロウィンみたいな祭りごとってあるの?」
「近くだと狩猟祭がありますね。ここの暦だと……」
里奈がカレンダーをめくり、指をさす。そこは都合よくシルバーウィークと重なっていた。
「学校が無いなら、里奈も祭りに出れそうだね」
「いや~、私、王族ですよ。高名な貴族とあいさつ回りをしないといけないので、そういう暇無いんですよね」
「そうか。残念。私が向こうに行けるなら、案内役として頼んで、一緒に回るなんてできそうだけど……」
「……良い案かも」
「へっ?」
「私も自分の世界で屋台をめぐりたいんですよね。これはアリかもしれません」
「でも、向こうに行けるのは勇者限定でしょ?」
「異世界交流とか異文化交流といえば問題ありません」
「公私混同」
「いいえ、違います。『私』しかありません」
「そっちの方が問題だよ!」
ときどき、突っ込みが追いつかない時がある里奈をみて、「きっとこれ、行く羽目になるんだろうな」とここの中で思った。でも、里奈や他の人の話を聞いている限り、魔王討伐後は家庭内トラブルを除けば、平穏そうだから、楽しみにしておく。
HRでは文化祭の出し物について話し合っていた。やはり一番多い意見は2年生になってから解禁される模擬店だ。となれば、模擬店は良いが、他のクラスとどういう点で差別化を図るが焦点になる。
「このクラス、可愛い子が多いからメイド喫茶にしたほうがいいと思います」
「ちょっと男子、それ、あんたが見たいだけじゃないの」
「それのどこが悪いんですゥ?」
「むかつく顔ね!」
キャーキャーと竹内くんと栗原さんの言い争いを私は巻き込まれないように傍観する。いやだって変に肩入れしたら、どっちからも嫌われそうだもの。
「よし、ここは公平にじゃんけんで決めて貰う。先生に最後まで勝ったのが男子なら男子の意見を聞く。女子なら女子の意見を聞く。それで良いか」
「……まあ、それなら平等だよな」
「女子の方が若干人数少ないけど、運も絡むしまあ……」
「よし、決まったな。みんなの拳に正義を宿せ!ジャンケン……ポン!!」
じゃんけん大会の結果、田中くんが生き残り無事メイド喫茶をすることが決まった。だが、いくら公平とはいえ、反対していた栗林さんの顔はすぐれない。
「だが、女子の意見も一理ある。いくらメイド喫茶とはいえ、女子ばかりにやらせるのは不平等だろう。というわけで男子からもメイドの格好をしてもらう」
「嘘だろ!」
「ざまぁみろ」
栗林さんがうれしそうな顔をして、竹内くんと数名の男子の顔が青ざめていく。ゴリラみたいな森くんのメイド姿は見たい物好きはいないのか、男子たちは小柄な人たちを選出していく。私としてはギャップさや奇天烈さを期待していたんだけどなぁ。
そうこう決まっていくうちに私の腕を誰かが挙げた。
「私、お姉さまと一緒に売り子でしたっけ? やってみたいです」
「ちょ、ちょっと……」
「里奈ちゃんがメイドさんをやってくれるなら、売上げアップ間違い無しね」
「私の意見は?」
「愛華、今のあなたに人権ないわ」
「ひどくない!?」
私のツッコミを無視し、委員長が次から次へといけにえの女子を決める。最後の一人を決めていく中、余裕をこいて大あくびしている真央を見つけた。
「最後は真央で」
「? べつにかまわないけど」
「待った!なぜ、私がしないといけないのよ」
「バランスとるためにネクラ系オタクキャラを入れたほうが良いわ」
「異議あり!私はそこまでオタクでは……」
「異議あり!嘘こけ、あんたがタブレットで創作活動しているのは知っているのよ。はい、決まり。はい、決定。これはフォースの意思なので覆りません」
「異議あり!お前も相当な……」
「異議を却下します」
ハンマーでたたくふりをして裁判長、もとい委員長が有罪判決を下した。真央は口は悪いけど、根は真面目だから余計ないざこざを起こすようなまねはしないだろうし、いざというときは里奈のフォローに回ってもらうよ。
「次はメニューを決めて貰う。だが、必ず火を通すこと。生だと食中毒になる可能性があるからな。言うまでもないがジュースやお茶は別だぞ」
色々と意見が出ていく中で、大多数の人間を相手にしやすい焼きそばをメインにすることになった。作る人が違っても、そこまで味に大差ないのも採用の理由の一つだ。
「でもカフェで焼きそばだけってのもあれよね」
「鉄板があるならパンケーキもよさそうじゃない」
「良いわね。あれなら失敗すること少ない」
女子主導により、サブメニューとしてパンケーキも採用が決まる。卵はあまりそうなら、焼きそばのトッピングメニュー(プラス50円)として登場させ、廃棄を減らす作戦だ。
「メイド服は外注するにしても、看板やメニュー表とかは作らないとね」
「じゃあ、俺が描くよ。それなりに絵はうまいからな」
「三浦くんだけだと大変だから、真央、あんたも入りなさい」
「まあ、絵くらいなら簡単よ。人間どもに給士する屈辱よりかはな」
「ん? 何か言った?」
「いえ、別に。食いしんぼう万歳にならないよう里奈もこちらに来てもらうと助かるわ」
「誰が食いしん坊ですか!」
「マスターのまかない料理を食べた後、家でも同じくらい食べているって聞いてるわよ。それに少し太ったんじゃない?」
「うっ、最近、ドレスがきつく感じて……」
「散々コキ使ってやるから覚悟しなさい」
真央が悪そうな顔で涙目になっている里奈に良い放つ。食欲の秋というだけあって私もお気に入りの服がきつい。これは文化祭当日までダイエットをしないといけない。私はそう心の中で誓った。
そして、各々の役割分担が決まっていき、私と里奈は文化祭1日目の当番に決まった。
「里奈、ダイエットよ」
「ダイエット……私の場合、食事のときだけ向こうに戻って食生活を変えるだけでやせそうな気が……あっ、でも毒対策は面倒」
「そうよね。だから地獄に付き合ってもらうわ」
「うう、異世界の料理に慣れてしまった自分が憎たらしいです。あれだけ油と砂糖を使えば美味しいに決まっているじゃないですか!」
「だから、毎日運動するのもそうだけどその分食べたら意味がない。よって、今日から文化祭までおやつ抜き!」
「これが人間のやることですか!」
「そうよ!」
「こ、これが文化祭……ヒロインたちはあの華やかな舞台の裏でこんな努力をしていたのですね」
里奈がおよよといった感じで泣き崩れる。いくら泣いたからって私たちの肥えた体重は1kgも変わらない。文化祭までに太った分、やせないといけないという使命感のもと、私たちは毎朝のジョギングを続けることになった。
「昨日、デザインの素案を描いてみたが、これでどう?」
真央がスケッチブックに描かれた看板のデザインをみんなに見せる。そこにはバックに炎とデフォルメされた先生が焼きそばを持ちながら、ジャスティスと描かれていた。
「良いんじゃない。私たちのクラスだってすぐにわかる」
「赤色系統が多くなりそうだから、遠くからでも分かるのもいいな」
「じゃあ、俺が看板に下書きを描くよ。他の人は小道具の準備を頼む。さすがに看板だけだと味気ないから、店に飾る道具を作ってくれ」
「分かりました。それでは、お姉さまもやりましょう」
「うん、もちろん。折り紙で一緒に飾り付けを作ろう」
「はい。お願いします」
私たちは文化祭に向けてリングや切り絵を次から次へと作っていく。作った飾りは段ボールの中に入れて、文化祭の前日に飾りつけをする予定だ。クラス一丸となって文化祭の準備を進めていくうち、ついに文化祭の日となった。




