第13話 プールでの決戦!(後編)
私がプールを眺めていると、1人のフードをかぶった男性が宙に浮いた状態で現れ、その足元にはプールが渦巻いていく。あのひとがシャドーマンだということが一目でわかった。
「ほう、懐かしい顔ぶれがそろっているな」
「そろそろ正体を現したらどうです?」
「正体か……ククク。我は魔王だ」
「ふん。お前が父上のはずがない。父上は戦場で華々しく散った」
「そうです。かつてお仕えしていた主を騙る者は私たちが許しません。その罪、貴方の血で償わせてあげましょう」
「貴方が誰であれ、平和を脅かすなら私たちが許しません」
「「「コール、セットアップ!」」」
三人が聖騎士、悪魔っ子、黒騎士姿に変身する。それを見たシャドーマンが足元の渦から、ゴブリンやサイクロプス、オーガなどのゲームや漫画ではおなじみの魔物を繰り出してくる。そんな中、フラフラと男性が近寄っていく。
「すげー、まるで本物みたいだぜ」
「離れて!」
「はぁ~、離れるも何もキャストだろ」
里奈が逃げるよう促すも男性は気にせず、サイクロプスの群れに飛び込む。そして、振りかざされた棍棒に押しつぶされ、つぶれたトマトになった彼を見て、私は思わず先ほどのジュースを吐きそうになった。
これが映画の中の世界ではなく現実で起こったことだと理解するまで、一般客に理解するまで数秒の時間がかかった。
そして、起こる暴動。一目散に出口に向かうが、そこはコアを破壊しない限り、開かない扉。近くに合った椅子をたたきつける人もいるが、自動ドアは壊れる気配を見せない。いらついた群衆は早くしろと近くに居たスタッフや赤の他人に殴りかかる。そんな暴動に巻き込まれないよう、私は離れた場所に居た。
「みんな頑張って」
私には応援することしかできない。勇者でも聖女でも魔王でもないから。しかし、里奈たちはそれに応えるかのように魔物を次から次へと葬り去っていく。
「1対多数は得意ですけど、タイマン勝負はあまりやってこなかったので、できればシャドーマンを真央さんか黒騎士さんに頼みたいんですけど」
「私はさほど強くない。黒騎士、お前に任せる」
「それが一番ベストでしょうね。私の技は多数向けではありませんから」
黒騎士が跳躍し、シャドーマンに斬りかかる。だが、シャドーマンはそれをよけるそぶりもせず、刀身を2本の指で挟み込み、その攻撃をピタリと止めた。それを見た黒騎士は兜の中から、愕然とした様子で目を見開く。
「その程度か」
小蝿のように振り落とされた黒騎士は小手先では話にならないと、己の魔力を剣に込めていく。黒光りする剣を携えて、再度シャドーマンに襲いかかる。
「この刃、防げるものなら防いでみろ、ダークスラッシュ!」
黒騎士が繰り出すは自身が得意とし、長年磨き上げてきた剣技。その黒い閃光は相手が最高位の鎧を着ていたとしても、中身ごと一刀両断する切れ味を持つ。受け止めることができない一閃を放った黒騎士は勝利を確信していた。
だが、その刃は胴に当たったところで突如止まってしまう。
「馬鹿な……」
「受け止める必要もなかったわ」
シャドーマンに首根っこを掴まれ、地面に叩きつけられる。鎧を着ていたことで身体へのダメージは小さかったもの、彼への精神的ダメージは計り知れなかった。
だが、粉々になったプライドもすぐにかき集め、シャドーマンに襲いかかれたのは前魔王を守り切れなかった経験があったからだろう。だからこそ、目の前の魔王を騙る男が許せないのだ。
シャドーマンに振り回されている黒騎士を見た里奈たちもすぐに応援に駆け付けたい気持ちを抑えながらも、目の前の魔物退治に専念していた。だが、倒しても倒しても魔王の下にあるゲートから魔物が湯水のように湧いて出てくる。
「終わりのないディフェンスなど、やりたくないぞ」
「いくら魔王といえどもゲートを長時間維持するには何らかの術式は必要です。おそらくですが、ダンジョンコアを中心として、ゲートを安定化しているのではないかと思います」
「ダンジョンコアを見つけて破壊するのが、一番有効だな。だが、私たちは一般人を守るだけで精一杯。とてもじゃないが探索に手を回す余裕はないぞ」
「……1人だけいます。愛華さん、赤い宝石、ダンジョンコアの破壊をお願いします」
突如、話を振られた私は狼狽していた。
(私はただの高校生。貴女たちみたいに魔法で戦えるわけじゃないのよ)
心の中で里奈の言葉を否定した。当たり前だ。なんの力もない女子高生が死人もでた戦場を駆け巡らないといけないのか。だけど……
私は後ろを振り返る。出入り口に殺到した人たちを。子供たちは泣き、パニックから戻った大人たちはおびえている。そんな彼らを守るために、里奈が弓矢で多数の魔物を貫き、真央が黒い炎で焼き払っていく。たとえ勝ち目がなくても黒騎士は折れずにシャドーマンに立ち向かっていく。
今、この人たちを助けることができるのは私しかいない。このまま何もせずに待っていても里奈たちがじり貧になるだけ。どのみち助かる道は1つしかないのだ。
なんと私は醜いんだろう。勇気ではなく打算でしか物事を考えていない。だけど、それでも、前へと進むためには必要だった。
私は震える足を一歩前に出す。その瞬間、体の震えが止まる。やることはダンジョンコアの捜索と破壊。襲ってくる魔物は里奈たちがなんとかしてくれるはず。私は二人を信じて、椅子や机の下などを調べ始める。
ない。次はプールサイドから、プールの中を覗き見る。私の動きを見て、ゴブリンが数体近寄ってくる。今、逃げたところで、いずれは追いつかれるのが関の山だ。ならば、私のやることは一つしかない。
「里奈!」
「任せてください。指一本触れさせはしません」
里奈が襲ってくるゴブリンなどの魔物を穿ち、私はさらに進む。ぐるりと一周したけど見つからない。プールの中にも椅子やベンチの下などにもない。あと行っていない個所は……
私は天高くそびえる建造物、ウォータースライダーを見つめる。まだ行っていないのはそこしかない。私は階段を駆け上がっていく。
それを見たシャドーマンが私に向けて黒い魔法の弾を放つ。私の足もとに着弾したそれは階段を破壊する。それを見た客の悲鳴が聞こえる。
「まだ死んでたまるものですか!」
私は崩れゆく足場の中、柵を片手で掴み、気合を入れてよじ登っていく。階段からシャドーマンがいる方をみると、2発目を入れさせないよう黒騎士が射線上に入りながら、斬りつけていく様子が見えた。
彼の踏ん張りを無駄にしないためにも、壊れた柵の破片である長い鉄パイプを手に取り、階段をあがっていく。
ウォータースライダーの頂上につくと、赤いハンドボールくらいの大きさの宝石がキラキラと輝いていた。私は持ってきた鉄パイプで殴りつける。何度も。何度も。何度も。魔法がつかえないから、不格好だけど、今の私にはこれしかできない。
「一般人舐めるなぁぁぁぁぁ!」
私が気合を込めた一撃でダンジョンコアにひびが入り、ピキピキと音を立てながら崩れていく。うまくいったのか確かめるため、戦場となっているプールサイドを眺める。シャドーマンの足もとの渦は消え去り、一般客が出口から出ていく様子が見える。
「ちっ、これまでか。だが、次会うときは貴様らを葬り去ってくれよう」
姿を消したシャドーマンに黒騎士は一部が破損した兜を脱ぎ去り、もう二度と戦いたくないなと思いながらも一息入れる。
「シャドーマンの行動を抑制するだけで精一杯とは、私の腕も落ちたか。それとも……奴の腕がはるかに上か。勇者と同程度の猛者がまだ居たとは認めたくないものだな」
黒騎士はウォータースライダーから滑ってきた私と迎えに来た里奈と真央を眺めていた。
「勇者が居た異世界だけあって、ここにいる人間は馬鹿しかいないのか。けなしているわけではないぞ」
「分かっているって。私もついに勇者の仲間入りかな」
「はい。愛華さんがいなかったら、私たちは負けていました。ありがとうございます」
「私は『愛華さん』じゃなくて『お姉さま』でしょ、里奈」
「……はい、お姉さま」
里奈がうれしそうに私に抱きつく。数カ月前に一方的に出来た妹は、今日で初めて姉妹になれたと思う。そう思いながら私は妹の愛しく抱きしめた。
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