来音さま親衛隊
緋美也 来音……クラスのアイドル的存在であるこの女から、俺は熱烈な告白を受けていた。しかし、その内容は……思い返すのも頭が痛くなる内容だ。
ある意味で、愛の告白と言えるかもしれない。それほどまでに、彼女の言葉には熱がこもっていたからだ。
「ねぇ……どうかな、神威くん」
ほんのりと頬を赤くして、俺のことを上目遣いで見つめてくる緋美也 来音。この仕草は、並大抵の男ならばくらっときてしまうものだ。
俺だってもしかしたら、危なかったかもしれない。告白の、狂気じみた内容を聞いていなければ。
その、全体的に危ない告白ではあったが……要は、なんらかの協力者になってくれってことだ。それが、なんの協力者であるのかはわからないが。
それがわからないことには、はいともいいえとも答えられない。
「えっと……なんの、協力をすればいいのかな?」
緋美也 来音が言う、協力者になってくれ……その、協力というのがいったいなにを指すのか。場合によっては受け入れるだろうし、場合によっては……
「あぁ、そうだよね。協力者になってほしいって、なんの協力をしてほしいのか言ってなかったよね。私ったら大事なところ言ってなかったよ、うっかり。ええと、じゃあ言うね」
またも話が脱線してしまわないかちょっと不安だったが、今度はしっかりと落ち着いて……深呼吸を何度か繰り返し、口を開く。
「それはね……私と、クラスの……」
バタンッ!
直後に、大きな音が激しく響く。それがなんであるか……音のした方向に、視線を向ければ一目瞭然だ。
閉めていた屋上のドアは思い切り開かれ、それにより響いた音であったようだ。ドアを開けたのは、クラスの男子生徒。それも、一人ではなく三人いる。
「来音さま! ここにいましたか、探しましたよ!」
「げっ」
三人のうち一人、メガネをかけた男子がこちらへと駆け寄ってくる。その姿に、先ほど狂気の表情を見せていた緋美也 来音の顔はひきつっていた。
「ど、どうしたんですか、軽野くん……」
メガネの男、軽野と呼ばれたそいつは、立ち止まり荒くなった息を整えている。他の二人も、後ろから走ってきている。
軽野……確か、以前から緋美也 来音の親衛隊を名乗っていた男だ。後ろの二人も、同様に。親衛隊というのは、クラスの人間だけでなく、他のクラスからも所属している人間がいると聞く。
緋美也 来音を来音さまと呼び、陰ながら緋美也 来音を見守っている……らしい。今回は、姿が見えなくなったからあちこちを探していたのだろう。
「どうした、だなんて大袈裟なものではありません。来音さまの姿が見えなかったもので、心配となったもので……私どもは常に、来音さまを見守っておりますゆえ」
「は、はぁ……」
その発言だけ聞くと、完全にストーカーだな。それにあの緋美也 来音が、引いている。
軽野はペラペラと、緋美也 来音を見守っていることや素敵な人物であることをひとしきり語ったあとに、俺のことを睨み付ける。
「そういうわけで、来音さまは高貴なお方なのだ。こんな場所に連れてきて二人きりになるだなんて、ハレンチ極まりないことだよ」
「はぁ」
連れてこられたのは俺なんだけどな。てか、ハレンチって……二人きりになっただけでかよ。小学生か。
だが、わざわざ正直に話す必要もない。それに、正直に話したところで信じないだろう……お前らが崇めてる緋美也 来音が、実はものすごく狂気染みた人間だなんて。
あんな姿、俺は初めて見た。おそらくあれは、緋美也 来音の裏の顔で……誰にも、見せたことのないものなんだろう。あんな姿を見せれば、親衛隊なんてすぐに解散しそうなもんだがな。
てかこいつらもこいつらで、放課後にまで人の行動追ってんのかよ。こわっ!
「ね、ねえ、私かむ……仮刀くんとお話が……」
「あぁ来音さま! 先ほどご友人が呼んでおられましたよ! 早く行ってあげたほうがいい!」
「え? あぁ、そう……」
緋美也 来音の親衛隊というわりには、本人の話聞いてないな。だが、急ぎの用事っぽいしそれは仕方のないことなのかもしれない。
緋美也 来音も、友人が呼んでいると言われては無下にできないのだろう。俺のことをチラチラと見ながらも、小さくうなずく。
「ごめんね仮刀くん、また……」
そう告げて、去る……直前、なにかを俺に手渡してくる。これは……紙か?
親衛隊に見られないように俺に渡し、振り返らないままに屋上から去っていく。彼女がいなくなったのを確認してから、軽野は俺を見て……一言。
「調子に乗るなよ」
それだけを言い残し、他の二人を引き連れ屋上から去っていく。他の二人も、軽野と同じような目をしていた。
なるほどな……俺が緋美也 来音を連れ出したと勘違いし、そこで仲良くなろうとしたのを面白く思わなかった軽野たちが、牽制に来たってわけか。
ったく、面倒な。おかげで変な因縁はつけられるわ、緋美也 来音の言う協力者の詳細も聞けなかったし……
そういやあの女、なにを渡してきたんだろうか。握らされた手を広げ、紙を広げる。そこには……緋美也 来音のラインIDと思われる文字が、並んでいた。
 




