愛の告白
クラスで三人目の死者……だが、大きな変化はなくいつも通りの授業が進んでいく。そう、これでいい……誰か恐れて休む奴なんか出てきたら、面倒なことになるしな。
そうしていつも通りの日常を送りながら、次の標的を決めていく。別に順番なんて決めず、誰でもいいのだが……
「いっそのこと、教室に火でもつけるか……」
いちいち一人一人手を下していくのも面倒だ。この教室にもいい思い出はないし、思い出ごとこの教室を焼き尽くしてしまうのもいいのではないか。
……それは、最終手段だな。まだ、学級閉鎖とかそんな事態にはなっていない。火を使うのは、それからでも遅くはないだろう。
オレはオレをいじめていた、このクラスの人間全員がターゲットだ。他のしょうもない介入で、それを邪魔されるわけにはいかない。
そうだ……うまくやれ。考えろ。他の介入がないような、それでいてオレ自身の手で復讐を続けられる方法を。
「ねえ仮刀くん、ちょっといい?」
今、次の復讐のことを考えるので手一杯なんだが……ちっ、誰だ?
声のした方向に視線を向けると、そこにいたのは……一人の女子生徒だ。確か、このクラスのアイドル的存在だったはずだ。みんなに分け隔てなく話しかけるし、嫌味な性格でもないから人気がある。オレがいじめられる前までは、ちょくちょく話しかけてくれていたっけ。
名前は……
「緋美也……来音さん?」
「わっ、覚えててくれたんだ。うれしー!」
名前を覚えてくれていたのが嬉しいと、人懐っこい笑みを浮かべて手を叩く緋美也。……クラスメートが死んだのに、笑顔なんて浮かべられるのかこいつは。
今まで、転校生としてのオレに一対一で話しかけてくることなんてなかったが……なんの用件だ?
「ちょっと、話があって……二人きりで、話したいなって」
頬を赤らめ、緋美也 来音は告げる。恥ずかしそうにもじもじするその仕草は……まるで、告白前の緊張を表しているよう。なんでそう思うかって? 以前にも告白されたことがあるから?
……いや、告白なんてされたことはない。単に漫画の読みすぎかもしれないな。
だが、決してないとも言い切れないだろう。告白……それを、まさかオレに? いや、オレっていっても前世のオレとは関係なく、単純に仮刀 神威に惚れたってことなんだろうが……
この仮刀 神威という人間は、オレから見てもイケメンって部類に入ると思う。転校初日、クラスの女子が騒いでいたが、それは女子目線だけでなくオレ目線でも同じことだ。
「あぁ、いいよ」
だからこの女も、もしかしたらという疑いがある。が、そうでなかった可能性も考え……というかそっちの可能性の方が高いが……注意しておかなければな。
「で、どこに?」
「来てくれればわかるよ」
言って、緋美也 来音は歩き出す。目的地を告げないのは、単にサプライズだからかそれとも……
歩く彼女の後ろをついていき、よく注視する。背丈は平均男子よりも低い、細身の体、優等生らしくきちっとした服装、かといってお堅いわけではない。誰の懐にも入り、誰とも仲良くなる。俺とも、海音とも進んで話していた人物。
ただし……海音や俺がいじめの標的になってからは、まったく話しかけてこなくなった。それは単に自分もまきこまれるのが嫌だったのか……別の理由があったのか。
今は放課後だ。すでに学校には人はあまり残っていない。緋美也 来音は、どんどん教室から離れていく。それについていきつつ……道順を確認。どこへ向かっているのか、この時点で想像はついていた。
「さ、ここだよー」
廊下を渡り、階段を上り、連れてこられた扉の先には……一面の、空が広がっていた。
そう、ここは……屋上だ。
「屋上……?」
「そうだよー、入ったことないでしょ?」
そうだ、今のオレは……仮刀 神威は、屋上に来たことがない。それを演じろ。
で、この女がオレをここに呼んだ理由だが……
「そ、それでね……話っていうのは……」
屋上の扉は閉まり、緋美也 来音はオレに向き合いもじもじしている。その姿だけを見れば、今から告白が起こるという最高のシチュエーションなんだが……
なんだろう、この言い知れぬ胸騒ぎは。
「あの……仮刀くんって…………彼女とか、いるのかな」
……なん、だと。今こいつ、なんて言った。彼女はいないか、だと?
そんなことを聞くなんて……これは本当に、告白なんじゃないか? オレがこんなかわいい子に?
いやいや、だとしても。オレにとって復讐の邪魔にしかならないものはどうだっていいはずだ。それに、こいうつはオレや海音を死に追いやったクラスメートの一人。そんな奴に……
「……いないが」
……正直に答える、これでいい。告白をばっさり断るのは簡単だ……だが、それだとこいつの目的がわからない。目的もなにも、これは純粋な告白だって?
なら……それは異常だろ。なんせ、クラスメートが死んだって知らされたばかりだぞ? この女の性格だ、どれほどの親密度かまでは知らないが、亜久留 兵八とも交流があっただろう。
いや、交流の有無なんて関係ない。人が、しかもクラスメートが死んだんだぞ? なのに、その日のうちに人に告白なんかできる奴がいるのか?
「そう、よかった」
オレの答えに、ほっとした表情を浮かべるこの女、緋美也 来音がもしも、本当に告白なんかしてきたら……こいつは、相当に狂ってることになる。
さあ、次になにを言う?
「じゃあ、改めて言うね。わ、私と…………」
深呼吸し、落ち着こうとしている。しかし、緊張は抑えられないらしく、頬は赤いままだ。その小さく潤いが渇いていたであろう唇をなめ、空気を吸い込む。
そして、ついに、言う。緋美也 来音は、オレになにを……?
「私と……私の、協力者に、なってほしいの」
「…………は?」
第一候補は告白、もしそれをすればこいつは狂っている……しかし、出てきた言葉はあまりにあっけにとられるもので。意味を理解するのに、時間を……いや、時間があってもわからないだろう。
告白だといろいろな意味で困るが、これはこれで……協力者だと?
「きゃっ、言っちゃった。ね、ね、いいよね? もし彼女さんとかいたら、余計な邪魔になるかもしれないしさ。仮刀くんはクラスでまだ特に仲のいい人もいない……それに、多分学校の外にもいないよね? 一人暮らししてるんだったら、結構時間もあるよね? 転校してきたばかりで不安なことばかりだろうけど、大丈夫、私が全部フォローしてあげるから。だからってわけじゃないけど、私の協力者になってくれるとすごく嬉しいな。彼女も友達も家族もいない転校生の男の子……これほど私の理想に近い子なんてそうそういないよ。だから思い切って声をかけたんだけどね、えへへ緊張しちゃったな。あ、協力者になるってまだ返事を聞いてないよね。返事も聞いてないのにこんなに盛り上がっちゃて私ったら恥ずかしいなあ。あ、別に強制的に協力者になるって言わせたいわけじゃないんだけどね、こうして協力者になってって切り出したのは結構勇気が必要で、その勇気を振り絞ったんだから私としては出来ればいい返事を聞きたいなって思ってるだけで、仮刀くんが嫌ならそれで仕方ないとは思うんだ。あ、でも仮刀くんみたいに私の理想の人がこの先現れるかわからないし、もし仮刀くんが嫌って言うなら協力者になるって言ってくれるまで毎日毎日毎日毎日毎日告白するかもしれないよ。きゃ、告白って言っちゃった恥ずかしいな私ったら。でもこれも、ある意味告白と同じだと思うんだだからね仮刀くんには告白の返事としてちゃんと考えてから答えてほしいなああでも私に気を遣う必要はないんだからね仮刀くんの気持ちが一番だもんねあぁ今でも心臓ばっくばくだよねえ仮刀くん出来れば今答えてほしいけど全然急かすつもりはないからゆっくり考えてねでも誰かに話しちゃダメだよだって私の愛の告白なんだもん誰かに話されたら恥ずかしいんだからね仮刀くんだって自分の愛の告白を誰かに話されたら恥ずかしいでしょっていうか嫌でしょ嫌だよねだからこれは二人だけの秘密だからね約束だよ仮刀くんあぁ仮刀くんいや神威くんって呼んじゃダメかな神威くんってすごく素敵な名前だよねあそうだ私だけ名前で呼ぶのはフェアじゃないよね私のことも名前で呼んでいいからね覚えてるよね私の名前来音だよ来音ほら呼んでいいんだからね神威くん来音だよ来音来音来音らいねらいねらいねねえ呼んでよかむいくんかむいくんかむいくんかむいくんかむいくんねえ私いつまでも返事を待ってるからね忘れちゃやだよ待ってるからね約束だからねねえかむいくん」
…………こいつは、なにを言ってるんだ? 目が異常だ。いや、そんな問題じゃない、こいつは……
なんでオレが一人暮らしってことまで知ってる。まさか、あとをつけられてた? バカな、ちゃんと警戒してたはずだ。だいたい、協力者ってなんの協力者だ。オレの話聞く気はあるのか? 結局イエスとしか言えないんじゃ……
こいつは……緋美也 来音は、狂っている。
……どうしてこうなった?
なぜこうなった?
長文が苦手な人は、台詞飛ばしちゃって大丈夫です。後半ぶっちゃけヤンデレってるので




