噂は嘘か本当か
「はぁ……」
鞄を持ち、下校中の俺は自分でもわかるくらいに、大きなため息を漏らしていた。その理由は……今更考えるまでもない。
緋美也 来音に連れられた屋上での出来事。緋美也 来音本人の狂気を目にし、かと思えば来音さま親衛隊に目を付けられて……くっそ、次に誰を殺そうか考えていたところへ、変な厄介事が増えてしまった。
正直に言えば、来音さま親衛隊に目を付けられようがなにをされようが、しったこっちゃない。なぜなら、奴らもクラスの人間である以上、殺すことに違いはないのだから。むしろ、目をつけられたことで向こうから寄ってくるなら願ったりだ。
問題とするなら……あの女、緋美也 来音だ。俺の記憶をたどっても、あの女のあんな性格を見たことはない。いや、誰しも人には隠しているものくらいはある。現に、親衛隊を自称するあいつらだって、緋美也 来音のあの姿は知らなかったようだし。
知ってれば、わざわざあそこで狂気を引っ込める必要はない。
ということは、つまり……だ。あの女のあの姿を知っているのは、あの女に見初められたから、ということになるのか? 見初められたもなにも、俺は転校生だがなぁ。
あの姿が緋美也 来音の本性なのか、それとも……? ……いずれにしても、気になることがある。それが判明するまでは、あの女に手を出すのはやめておくか。
『私と……私の、協力者に、なってほしいの』
緋美也 来音は確かに、こう言った。協力者……か。いったいなんの?
詳細は、来音さま親衛隊が来たせいで聞くことはできなかったが……場合によっては、緋美也 来音を利用できるかもしれない。そのためにも、もう一度話さなければいけない。緋美也 来音と、二人きりで。
「そのためには……」
「よーっす転校生!」
「ぅ!?」
緋美也 来音の扱いを決めている最中、突如背中に衝撃。どうやら、誰かに背中を思い切り叩かれたらしい。いてぇ。
まったく誰だ。その人物を確認するために、振り返ると……
「……えっと……歩乃咲 結可里さん?」
「そうそう、良かった覚えられてたー。覚えられてなかったら今の、完全に不審者じゃんね!」
そこにいたのは、クラスメートの女子。名前は今言った通り、歩乃咲 結可里と言う。褐色の肌をした活発系少女。さらに地毛という金髪は、一見不良を思わせるがその実生活態度は真面目だ。
成績も、悪くない……どころか、学年でも上から数えた方が早い。曰く、こんな見た目だから学業を頑張らないと偏見持たれる、実際にそんなこと何度もあった……とかなんとか。
また、その活発な性格から彼女の周りには男女問わず人が多く、モテる。緋美也 来音が清楚系アイドルなら、歩乃咲 結可里は活発系アイドルってくらい、この二人は次元が違う。
むしろ、こうして誰にでも気さくに話しかけてくる分、歩乃咲 結可里の方が人気が高いまである。誰にでも話しかけてくれるのは緋美也 来音も同様だ……その点では二人は似た者同士かもしれないが、違うのは距離感だ。
ひとしきり話しかけておきながら、清楚な印象からこちらから話しかけるのはためらわれる緋美也 来音と違い、歩乃咲 結可里は誰でも話しかけられるような、そんなオーラがある。俺でさえ、そうだったんだから。
ま、本人は、別になにも考えてなさそうだが……
「なーなー今帰り? なら、途中まで一緒に行こーぜ」
頭いいのにちょっとバカっぽいところ、さっぱりした口調、なによりこの距離感が人気の秘訣なんだろう。美少女に近寄られて嫌な男子はいないし、嫌味がないから女子受けもいい。
そんな彼女は、転校生である俺に話しかけてくるのも例外ではないらしい。
「あぁ、もちろんいいよ」
ここにきて、獲物が向こうから寄ってくるとは……やはり、転校生ってのは悪くない。
悪くないのだが……今は、ちょっとそっとしておいてほしかった。先ほどまでの件のせいで、ちょっと頭痛くなってきたまである。
それに、この女……とある噂を聞くのだ。それは仮刀 神威になってからではない。もっと前から、だ。俺でも知っているのだ、真偽はともかく、噂については少なくともクラス中の人間は知ってるんじゃないか。
「いやー、こうして二人になるなんて今までなかったよねー。せっかくなんだから、いろいろお話しよーよ」
その、噂って言うのが……
「……ね。どこか、二人きりになれる場所で……さ。私の家か、それとも……ホテル、行く?」
男を取っ替え引っ替えしているのではないか、というものだ。それは誰かと付き合う……というものでなく、身体の関係というもの。
口端をつり上げ、意味深に身体をくっ付けてくる。それなりに豊かな身体であるため、いろいろ当たってしまっている。しかし、本人は気にしてない……どころか、自分から押し付けている。
噂の真偽は、わからない。だが、目撃者の証言としては……クラスメートだったり他のクラス、学年、はたまた全然知らない男を、ちょくちょく家に連れ込んだり、ホテル街に共に消えるということらしいのだ。
それは、今の様子を見ると認めざるをえない。常にこんなやり口なのかわからないが、唐突ではあっても……男であれば、この誘いは断れまい。
そこに、どんな狙いがあったとしても。噂は所詮噂で、他の狙いがあるのか。それとも噂は本当か……
「ね、行こーよ。てんこーせーくん」
色っぽい笑みを浮かべ、彼女は誘う。その誘いに、俺は……小さく、頷いた。
ちょっと誘うまでが急展開すぎるかな?とは思いつつ、まあここで長いやり取りしても仕方ないかな、と
なんなら、次話にそういった噂の話を書こうかなと!




