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最後の賢者 エレメニルの物語  作者: 山乃末子
隠れ里と火竜
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エレメニルの危機

 ウェルはあまりにもたくさんの驚くべき話を聞かされて、そろそろ頭もパンクしそうになっていた。理解はしているつもりだが、心が追いつかない。ウェルの母が先代空の巫女、祖父が空の賢者、そしてエアリアが姉で、空の巫女で、ウェルが空の賢者・・・それに、何かが引っかかる。何なのだろう。


「今エレメニルは存亡の危機にあります。それはある人物がエレメニル全土の制圧に動き出したからです」


 その人物は神帝を名乗っているが、空の一族らしい。覇道で新しい、正しい秩序を作ることを掲げ、各国の有力者の一部も取り込んでいっている。さらにエアリアの推測では、邪法によってより強大な魔力を得ようとしているようだ。それはエレメニルを大陸ごと滅ぼしかねないものらしい。


「その神帝なる人物は空の勇者なのでしょうか」


 エアリアは悲しそうに首を振る。


「いいえ。違います。空の勇者は先代が初代で最後、当代の空の勇者は空席です。4エレメントに5番目のエレメントがあった様に、エレメントの称号にも5番目があるのです」


 姉の話によると、各エレメントの称号には賢者・巫女・騎士・勇者の他に、隠者というのがあるらしい。これは一般には知られていない。隠者は、簡単に言えば、賢者・巫女・騎士の本家に対して、本家が途絶えた時に各エレメントの称号を継ぐための分家として存在している。その存在は各国でも隠された機密事項だ。神帝を名乗るチェイニは空の隠者、隠された一族の中の隠者、影の中の影とも言える存在だった。しかし空の一族の場合、隠者は自分が隠者であることを知らないらしい。チェイニに自身が空の隠者であることを教えた者がいることになる。


「それを教えたのが空の騎士ベルゼフ、あなたを襲った男です」 


 ベルゼフは国を持たない空の一族の境遇に疑問を持ったらしい。そして空の一族こそエレメニルを統べるべきと言い出した。ウェルとエアリアの祖父である空の賢者ノレノガ・リゼル、母である空の巫女ミク・リゼルはもちろん反対した。空の一族は二つの派閥に割れる形となった。


「母と祖父は、チェイニやベルゼフと戦い、敗れて亡くなられたのでしょうか」


「そうではないのです。母と祖父は病気で亡くなりました。ですが、もしチェイニと戦っても負けていたでしょう」


「空の隠者チェイニと戦ったのは、先代で初代でもある空の勇者ジロと四賢者です。水の賢者カーミラの裏切りもあってジロ達はチェイニに敗れ、ジロは亡くなりました」


 当代四賢者は、エレメニルの周囲の海を越えた大陸ノースランドに現れた魔王を、勇者と共に倒した英雄だ。・・・ということは世界を救った勇者とは空の勇者だったのか。水の賢者は裏切り、風の賢者は殺され、火の賢者は捕らえられ、地の賢者は深手を負いながらも、ただ一人逃げ延びたらしい。


「勇者ジロの魔力は、母と祖父の力をしのぐ程でした。裏切りとだまし討ちがあったにせよ、チェイニの力は空の勇者ジロをも超える恐るべきものです。空の騎士ベルゼフの力も相当ですが、魔力だけなら私のほうが強いでしょう。でも実際に戦えば、どうなるかわかりません」


 勇者達が勝てなかったということは、神帝を名乗る空の隠者チェイニの力は、世界を震撼しんかんさせた魔王を遥かに凌ぐことになる。


「先ほど触れたと思いますが、ベルゼフとチェイニはある邪法と言える、他の魔法使いの魔力を取り込み、自分の魔力にする秘法を手に入れたようなのです」


 具体的にどうやっているのかはわからないが、以前にベルゼフと会った時、その魔力はエアリアに比べると数段弱いものだったらしい。しかし先日ウェルの里を訪れたベルゼフの魔力はエアリアに及ばないまでも、かなり近いレベルまで強化されていたらしい。


「通常はどうやっても、自分の持って生まれたポテンシャル以上の魔力を持つことはできません。ベルゼフの成長というか強化具合は信じられないものでした。私は邪法の使用を疑っています」


 邪法はその存在は伝説として知られているものの、具体的方法はよく知られていない。特殊な触媒が必要だとか、使い方によっては世界の破滅をもたらすとか言われている。


「邪法の件は、私の杞憂であって欲しいのですが・・・・ともかく私達は裏切り者のチェイニとベルゼフを討たねばなりません。その責任があり、もちろんそのための力もあります」


 ここでウェルは、何か引っかかっていたことをはっきりと自覚した。空の巫女のエアリアはともかくとして、いったいウェルの空魔法などが、魔王や勇者をも超えるようなチェイニに通用するだろうか。エアリアは何を考えているのか。ウェルのことを過大評価しているのだろうか。それともどこかにいる本当の弟を、ウェルと取り違えてしまったのではないだろうか。ウェルの出自も実力も信じきっているらしいエアリアにどう言い出したものか。エアリアは驚くのだろうか。それともがっかりするだろうか。


 エアリアは空の賢者に伝わる一つの古文書、言うなれば「空の書」をウェルに渡した。


「これは空の賢者が持つべき物です。あなたが空の一族を統べ、空の魔法をつかさどる者となるのです。通常は空の巫女や騎士は口伝くでんで賢者から内容を教えてもらうことになっています」


 「空の書」は短いスクロールで、内容も簡潔なものだった。「空の魔法は世界の秩序を守りバランスを保つためのもの。みだりに使用してはならない。強い力を持つ者程その責も重い。以上を理解せぬ者には大いなる災いが降りかかるであろう。二度述べる。空の魔法はなるべく使うな。できれば封じよ」魔法の奥義か、カッコいい詩文でも書いてあるかと思ったウェルは少しがっかりした。


「さて、大変失礼なことではありますが」


 エアリアはニヤリといたずらっぽい笑みを浮かべて、ここまでの旅で、冗談も言うようになったウェルに、芝居がかったしぐさを見せた。ウェルは大変嫌な予感がした。


「空の賢者様の実力を少し見せて頂きましょう。前代空の巫女の息子にして当代空の巫女の姉弟きょうだい、空の勇者の忘れ形見のウェル・リゼル様」


 エアリアの両脇に、どこからともなく弓とボウガンを持った二人の騎士が現れた。足音もなく、それまで姿が見えなかったのが嘘のように。そしてエアリアの合図と共にウェルを射た。エアリアの言葉の終わりの方の重大さを省みるいとまもなかった。


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