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最後の賢者 エレメニルの物語  作者: 山乃末子
隠れ里と火竜
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姉との旅

 ウェルの姉を名乗るエアリアはとても美しい。長旅などの外出時には、後ろでセミロングの銀髪を無造作に束ねていた。エアリアは大柄だがスレンダーで、肌の色が抜けるように白かった。ウェルの髪の色は茶色で、色白でもなく、平凡な顔立ちのため、姉弟きょうだいと言われてもあまり似ていないようだ。ただその黒い瞳の色は同じで、唯一の共通点かもしれない。ウェルと初めて会った時には、ローブの下に飾り気のない白のワンピース、その上に銀色の金属の胸当てをつけ、護身用の剣を帯びていた。


 キャンプで一泊した次の日、エアリアとウェルは山道を移動した。山道といっても、けもの道のようなところだ。一見道などないように見えるところへエアリアが踏み込むと、確かに道がある。草や木の枝をかき分けて進まなければならないようなところだが。エレメニルには魔物の住むエリアがあり、ひとけのない山の中などがそれにあたるが、エアリアとの道中一度も出くわすことはなかった。けもの道の主にも会わなかった。


 道中エアリアと話をした。父親のこと、母親のこと、ルマのこと。ルマはウェルの遠い親戚に当たる男だった。ウェルは空の一族のひとつ、リゼル家の当主にあたり、ルマはその分家に属する。空の一族というのはエレメニルでも特殊な扱いだった。火、風、土、水の四大魔法エレメントには対応する国があるのに、空の国、というのはない。その代わりに空の里とも言える隠れ里が、エレメニル大陸全体にあるらしい。ウェルの村もその一つだった。ウェルとエアリアの母親は先代空の巫女みこだった。結婚してエアリアを産んだが、その後夫と死別した。何年かしてウェルの父親と再婚し、ウェルを産んだ。従ってエアリアとは父親が異なる姉弟ということになる。リゼルも母の姓であり、ウェルの父親は身分もなく姓もなかったらしい。


 巫女という言葉にはエレメニルにおいて特別な意味がある。どの時代にも巫女は一人しかいない。というより4エレメント毎に一人いるというのが正しい。エレメニルでは各エレメント、国毎に賢者、巫女、騎士の3人プラス勇者がいることがあった。賢者、巫女、騎士が空席のことはほぼない。世襲で継がれることもあるし、優秀な弟子が任命される場合もある。世襲が結構あるのは、魔法の才能が遺伝で継承されやすい特性だからということもあるだろう。勇者は世襲や前代による任命は許されない。よほどの実力を備えるか、異例な実績を上げたものに、賢者と巫女と騎士から贈られる一代限りの称号だった。実用的なレベルで魔法を使うことができる者は「各属性」の魔法使いと呼ばれる。武芸にも秀でていれば「各属性」の戦士と呼ばれることもある。


 賢者はそのエレメント一の魔法の能力を持つ者が、騎士は魔法に長け、武芸にも優れた者が、巫女は最も高い魔力のポテンシャルを持つ乙女が選ばれることになっている。賢者や騎士、巫女はその国の王族や貴族がなることが多かった。勇者は稀に市井から現れることもある。巫女は国によっては庶民の中から見出されたこともある。しかし基本的に、どの国でも誰が当代の賢者・騎士・巫女なのかは知っている。それは隠された情報などではなく、パブリックな常識と言える。


 空の一族に関してはその辺の事情も変わっていて、大陸中に散っている空の里の住民達は、誰が空の賢者・空の騎士・空の巫女なのか知らない。知っているのは賢者・騎士・巫女の当事者達だけだ。普通空の里の住民は、他の里がどこにあるかも知らないらしい。ウェルのように自分の住む里が空の里だと知らないこともよくある。ただ歴史と魔法を学んだ者だけが、自分の里の者が空の魔法を使うことから、察することはできる。ウェルは自分が空の魔法を使っている自覚がなかったし、たった一度ルマが使った空の魔法を手品だと思っていた。


 ウェルが知っている空の魔法とは恐るべきものだ。あらゆるものを造り出し、あらゆるものを無に帰する、という。そんな魔法が存在し得るのだろうか、とウェルは思っていた。現実の事というより神話の世界の話のようだ。ウェルは自分が空の一族であり、空の巫女の息子なのを知った。なら空の魔法が使えて不思議はない。


 基本的に魔法使いはある単一のエレメントに習得を絞り、他のエレメントの魔法は使わない。このルールを破ると魔法の力が落ちると言われているし、魔法の力が失われることさえあるらしい。魔法使いにとって他のエレメントの魔法を使うのは禁忌だ。ウェルは4エレメントの魔法の才能がないというよりも、適性が空魔法にあったといえる。4エレメントの魔法としては貧弱な炎や風は、空魔法で造り出していたのだろう。飛んでくる石を消すのも空魔法の訓練だったのか。


 空魔法は字面を見れば強力な魔法だが、燃費というかコストパフォーマンスは悪い。火や風を生み出すのに、火魔法や風魔法には敵わない。ただ、賢者や巫女、勇者など桁外れの魔力量を持つ者が使えば、並みの術者より強力なのかもしれないが。ただ魔法が使える、という魔法使いや戦士と、賢者や巫女、騎士、勇者とは魔力の桁が違う。というか別物と言われている。国中の魔法使いを集めても、賢者には敵わないらしい。


「ここまで話してきたら、もうあなたにも言わずともわかるでしょう。いえ、分かってくれなければなりません」


「どういうことでしょう。エアリア姉様ねえさま


「私があなたの里を知っていたのは、弟が住んでいる里だからではありません。空の里の所在地をすべて知っているのは、当代空の賢者か巫女か騎士です」


「ということは・・・姉様は・・・」


「そういうことです。そしてあなたの里を襲ったのは、当代空の騎士ベルゼフの手の者です」


「・・・当代空の巫女・・・」


「空の賢者・巫女・騎士は自分がその地位にあることを基本的には公にしません。身内であっても秘密にします。私が何を差し置いても、あなたに伝えなければならないことがある」


 ウェルはやや目を見開き、一瞬硬直していた。


「あなたは空の賢者に任命されました。既に他界したあなたと、私のでもある、祖父の前代空の賢者ノレノガ・リゼルによって」


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