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最後の賢者 エレメニルの物語  作者: 山乃末子
隠れ里と火竜
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ウェルの村

 10月22日加筆修正しました。

 ウェルは今年で15になる。どこにでもいる普通の少年だと自分では思っていた。彼はある山奥の村に住んでいた。それは火の国の一部だったが、あまりにへんぴなところにあるため、火の国も自分のものだと知らないし、村自身もどこに属しているのかわかっていないようだった。彼には父親も母親もいなかった。事故で死んだと聞かされていた。彼を育てたのは一人の老人だったが、ルマと名前を呼ばせていたところをみると血縁ではないのだろうか。彼の唯一の家族とも言えるのはルマであり、他数名の村人がいるのみだった。たまによそから流れ者が来ることはあったが、ウェル自身が応対したことは一度もない。


 ウェルはルマに色々と教えられた。後で思えば町の学校で教えられるような内容だった。読み書き、算術、エレメニルの歴史。そして剣術と魔法の勉強。剣術は運動兼護身術といったところか。ルマは木剣で素振りをさせ、型を教えただけだった。結構な年だったし、ルマが剣を振っている姿を見たことはない。というかウェルの村に本物の剣はなかった。


 ウェルはあまり魔法の才能がない様だった。魔力のあるものは4属性いずれかの適性があるが、ウェルの魔法はどれも似たり寄ったりで、しかも弱かった。ウェルも風を使って空を飛んだり、びっくりするような炎の柱を作り出したりしたかったが、ウェルがどれほどがんばっても、出るのはマッチほどの火と、そよ風だかなんだかというところ。魔法は天賦の才が物を言う。ウェルは自分は魔法に向いてないと思っていた。しかし妙なことにルマが最も熱心だったのが魔法の訓練だった。


 ルマは魔法の訓練を始めた頃、何でも好きなものを出してみろと言った。もちろんウェルがどう念じても、何も起こりはしなかった。ルマがやると握りこぶしから小さな水晶玉のようなものが出てきた。ウェルは驚いたが、ルマはウェルにもできると言っただけだった。ルマが魔法らしきものを見せたのはこの時だけだった。ルマの手品、ルマの冗談だろうとウェルは思っていた。


 本格的にやった魔法の訓練は、相手の魔法等を相殺するためのものだった。魔法使いは攻撃だけでなく、相手の撃ってきた魔法を反らすなり散らすなりして、防いで身を守らなければならない。基本的に自分の得意な適性属性はコントロールしやすいので、相手の攻撃魔法が自分の適性属性だとダメージを受けにくい。自分の適性属性でないと、そらしたり散らしたりするのはより難しくなる。ウェルのよくやっていた訓練は、最終的にはルマの投げる石を分解して身を守るというものだった。次第に石の大きさは大きくなっていった。ルマの投げる石なので小石ではあったが。ウェルはこの訓練は意外なほどできた。ルマが本気でウェルに石をぶつけても、連続して投げても、後ろから投げても、ウェルが飛んでくるのに気づいていれば、まず当たることはなくなった。


 ウェルはこうして田舎暮らしをしていたが、ルマのおかげでそこそこ常識も学び、剣術や魔法の座学もある程度習得していた。村にはパックという一人の男の子がいたが、ウェルよりはかなり小さく、時々遊んでやったりはしたけれど、同年代の友人は居なかった。苦難の果てに世界を救ったエレメニルの勇者の話は好きだった。もう少し幼い頃には、一人で勇者ごっこをやっていた。そうした日常がいつまで続くはずだったのか。いつかはウェルも村を旅立つ日が来たのだろうか。


 ウェルの村での日常は突然終わりを迎えた。ある日自分の部屋で自習をしていると、下の階でルマの叫ぶ声がした。何だかわからなかったが、多分ウェル、逃げろと言ったのだろう。3人の騎士と思われる者が部屋まで上がってきた。


「お前がウェルか」


「そうですが」


「一緒に来てもらおうか」


 その瞬間窓から二人の騎士が飛び込んできて、一人は3人の騎士の方へ切りかかり、もう一人はウェルを抱えて窓から飛び降りた。


「逃げるぞ」


 裏庭の側にも騎士や従者がいたが、ウェルを抱えた騎士はお構いなしで、とても人間業とは思えないほど跳躍して、裏庭に面する森の木に飛び登った。重そうな鎧を身に着けているにもかかわらず。木に登った騎士はひとたび周りを見た。騎士や従者がこちらへ集まってくるのが見える。そして従者たちが弓をつがえるより早く、木のてっぺんから大きく跳躍して、遠く木から離れた地面へ降りた。着地後信じられない速さで駆けた。ウェルを助けた騎士はあまりしゃべらないようで、ウェルが尋ねるまで一言も話さなかった。人間離れしたスピードとバネ、スタミナで夜まで走り続けた。


「どこへ行くのですか」


「エアリアのもとへ。あなたの姉です」


「あなたはどこの国の騎士ですか」


「私は騎士のような姿をしていますが、どこの国の騎士でもありません」


「ルマを置いてきたけれど、大丈夫でしょうか」


「ルマ様はあの場で斬られ、お亡くなりになりました」


 ウェルはルマの死を悲しむ余裕もなかった。いや、後で思えばウェルはルマの死を認めていなかったのかもしれない。ただ突然の出来事に戸惑うばかりだ。とんでもないことが起こっているのはまちがいない。騎士はキャンプにたどり着いた。焚き火の前に旅装束のローブをかぶった女性が一人居た。ウェルを連れて来た騎士は闇に解けるように消えた。


「はじめまして。私はエアリア、あなたの姉にあたる者です」


「あなたの隠れ里がついに襲われて、ルマも失ってしまいましたが、ウェル、あなたは生き延びなければなりません。あなたのことは私が守ります」


 ウェルがルマの死を悼む場面というのは作中なかったのですが、後半(最終盤;)に追加することにしました。ウェルはルマの死を認められていない、というかルマの死と向き合うことからなんとなく逃げている、ということにしていたつもりだったのですが、再度読んでみるとそのようになっていません;加筆修正しました。ご指摘ありがとうございます。

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