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最後の賢者 エレメニルの物語  作者: 山乃末子
決着とその後
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ルマの墓

 ウェルとフェイは、火の国にあるウェルの隠れ里にいる。無事だった村の人々にも会うことができた。ウェルの村の男の子、パックもウェルを見つけて大喜びだ。カノジョをつれてきたの、とかませたことを言ってウェルを困らせている。


 ウェルは村へ戻るのは及び腰だった。村の入り口に下りた後、フェイもウェルの様子がおかしいことに気付いていた。その理由は今では分かる。ルマの死を認めたくなかったのだろう。戻れば空っぽの家、いやが応にもルマの不在、かつての生活が失われたことを突きつけられる。


 村の人に聞くと、ベルゼフ達が去った後には、無残なルマの遺体だけが残されていたらしい。ルマは村の人々によって共同墓地へ埋葬された。後で参ろうと考えたウェルとフェイだが・・・ウェルの家の裏庭で二人は意外なものを見つけた。庭の隅の方だが、ありえない立派な石碑が立っている。文字も刻まれていた。


「勇者ウェルの師ルマ、この地に眠る」


 一体誰がこんなものを作ったのか・・・エアリアが考えられるが、エアリアもウェルに相談もせずに、こんな勝手なことはしないだろう。石碑の前には最近供えられた花もある。ウェルは思わず石碑に寄って、それに手を触れる。冷たい石の感触が伝わってくる。誰もいない家。もう戻れない以前の生活。二度と会話を交わすことができないルマ。ウェルは大粒の涙を流していた。


「ウェル・・・」


 フェイが優しくウェルの肩に触れる。ウェルはその場で動くことができなくなった。こんな顔をフェイには見せたくない。


「フェイ、ちょっと・・・言いにくいんだけれど、トイレに行くよ。時間かかると思うから、しばらく待っていて。」


 ウェルは片手で目を覆って、痛くもない腹を押さえて駆け出した。フェイにも泣いていることがばればれだったが、ウェルはそうするしかなかった。ウェルは確認する余裕もなかったが、家の中はきれいなものだ。村の人が管理していてくれたのだろう。いつかウェルが帰ってくる日のために。ウェルは便所にこもって泣きじゃくった。声は押し殺しているつもりで。フェイはもちろんついてこなかったが、もし心配して家の中まできていたら、ウェルの嗚咽おえつが、かすかに聞こえただろう。


 落ち着いたウェルが家の外に出ると、フェイがパックとチャンバラごっこをやっていた。ウェルが見ているのにまだ気付かずに、大げさな断末魔をやっているフェイを見て、ウェルが腹を抱えて笑っていると、フェイはついに真っ赤な顔をして怒りだしてしまった。


「もう。馬鹿にして。そんなに笑うことないじゃないか」


「ごめん。だってあんまりおかしかったから・・・」


 ウェルとフェイはルマの石碑の前にいる。今度はウェルは泣かずに、落ち着いて。ウェルは石碑の前でひざを突いて頭をたれている。ウェルが何を思っているのかフェイには分からないが、ウェルの真似をして少し後ろで膝をついている。パックも二人の真似をしていた。しばらくそうしていると、真後ろから声がした。


「気に入ってもらえたようで良かったわ。もう少し地味な方がいいかな、とも思ったんだけれど・・・」


 フェイは立ち上がって振り向きざま宝剣を抜いて構えた。空の魔法使いリマだ。


「待って。あなた達に対して害意はないわ。チェイニも滅びたことだし・・・」


 石碑を造ったのはリマだった。ついさっき空魔法で造り出したらしい。花を添えたのもリマだ。ウェルの村を探し出して、ウェルが来るのを待ち構えていたのだろうか。リマは祖父ルマの思い出を語り始めた。リマは幼い頃ルマと別れたらしい。いつも遊んでくれた優しいおじいさんが居なくなって、泣いて寝たことを覚えている。ウェルはリマからルマを奪った形になっていたことを知り、申し訳なく思った。


 その後、リマとパックも連れて4人で共同墓地を訪れた。古臭い石造りの納骨堂の中には、簡素な祭壇が設けられていた。4人は黙って祈りを捧げた。そしてウェルの家へ戻った


 ウェルは、リマからルマを奪ったせめてもの埋め合わせと思って、ルマとの暮らしを語った。ウェルの家の一階の、食堂兼居間の机で。パックも一緒に聞いていたが、あまり頻繁ひんぱんにウェルが便所に行くので、心配になったようだった。お兄ちゃんお腹大丈夫、と言っている。フェイやリマは、別にウェルが泣いたっていいと思っているのだが・・・ついに口に出すことはなかった。


「そうだ。リマに上げたい物がある」


 ウェルは二階の自分の部屋へ駆け上がった。部屋はウェルが出て行った時そのままの様に見える。たかが一月と少し前のことだが、ずいぶん昔のことにも思える。引き出しを開けると、以前にルマが出してくれた小さな水晶玉があった。以前は取るに足らない小物だったが、今ではルマの形見となった。ウェルはルマとの魔法の訓練について語り、その水晶玉をリマに与えた。


「こんな大切なもの、貰うわけにはいかないわ。あなたが持っていたらいいじゃない」


「いいんだ。俺はリマからルマを奪ってしまった。形見だってきっと貰っていないんだろう。ルマだってきっとリマのことは気にかけていたに違いないし。俺がひとり立ちしたら、リマのところへ帰るつもりだったかもしれないよ」


 リマは水晶玉を受け取った。それは小さいが、透明で、澄み切っており、表面にも全く傷がない。手の油の曇りがなければ、視認もできないような見事なものだった。リマは水晶玉を覗き込む。祖父がどんな思いでこの村で暮らしていたのだろうと思いをはせた。


 村に宿泊する予定ではなかったのだが、ウェルの家で話をしているうちに夕方になってしまった。ウェル達はパックの家で夕食をご馳走になった。ウェルの家を管理してくれていたのもパックの両親だった。ウェルとフェイはウェルの家に泊まることにした。リマはどうも近くで野営をしているようだ。ウェルがしつこく泊まって行けというのに聞かない。ついにウェルの耳元に両手を当ててささやいた。


「私もねえ、そこまで野暮じゃないつもりなのよ」


「何、どういうこ・・・」


 リマは片手でウェルの口を塞ぐ。


「じゃあね。フェイ。ウェルをよろしく。ウェルもフェイをあまり困らせちゃ駄目よ。また会うこともあるかな」


 リマはウェルが引き止めるまでもなく、文字通り消えた。その日ウェルとフェイはウェルの家に泊まった。ウェルはフェイの勧めでルマのベッドで寝た。フェイはウェルのベッドを使った。ウェルの家には来客用のベッドなどはなかったから。翌朝パックやその両親、他の村人達にあいさつした後、ウェル達はエアリアの家に向かった。村人達の見送りに手を振って。


 きっとウェルはまた帰ってくるだろう。


 感想を頂いて、書いた話です。ありがとうございます。


 リマが消えるシーンがありますが、空魔法で瞬間移動できるのかもしれませんけど、多分自分のダミーを作っておいて消えるトリックでしょう。


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