勇者の帰還
トードはついさっき帰ってきたようだ。王城へ報告に行き、現状はおおよそ知っているらしい。
「マイと地の巫女がさらわれてしまったのですね。火の巫女も危ないとか」
「サーラは無事でクレフと水の国のアジトにいる。あとカーミラはクレフが倒した。レイドとエアリアは俺が元に戻した。今ベルゼフを追ってもらっている。それでチェイニの拠点がわかると思う。できればすぐにでもレイド達と合流したいところなんだけれど・・・」
「わかった。話はそちらへ向かいながらしよう」
トードは庭へ出た。ウェル達は続く。トードが一度目をつぶり、また開くと、周辺に風が巻き起こる。だがトードとウェルたちの周辺には風はない。トードを中心として風が止まっている。そのまま5人は空へ浮かび上がった。透明な乗り物に乗っているような感じだ。ウェルは思わずフェイにしがみついてしまった。ゆっくり浮かんだので力はかかっていないが、グレイドはよろめいてひざを突いた。
「さすが勇者様だな。フェイのもあれはあれで面白かったが」
ランドは楽しそうだ。これはつい足元を見てしまうので、また違った怖さがある。フェイは経験済みで何ともないらしい。グレイドもあまり顔色が良くない。この飛び方は少し苦手なようだ。速度もフェイのよりかなり速い。
「そんなに怖いのかい」
「・・・苦手だね」
フェイはあきれている。ウェルは両手でフェイの手にしがみついたままだ。
「それで水の国のどこへ向かえばいいのかな」
「クレフのアジトかな。もしレイドとエアリアが戻っていなければ、私達も追跡をしないといけないかもしれない」
フェイが地図のおおよその位置に印をつけてトードに渡す。
「わかった。私の方の成果も説明しておこう」
トードは賢者セトの密命で、もしセトが死んだり、チェイニによる脅威にさらされた時は、某所にある隠された書物を調べるように言われていた。それは歴代風の賢者が残した蔵書だ。トードが出発時に目的を言えなかったのは、風の賢者の蔵書には、賢者本人か特にその許可を得たものしか触れてはならないことになっているからだ。そんなことをする者はいなかっただろうが、万一尾行されて場所が割れてはまずい建前だ。トードは一通りすべて調べた結果、今回役に立ちそうな魔法を二つ見つけた。4属性の合成魔法と空の魔法の封印だ。
エレメニルではひとりの魔法使いは4属性魔法のうち一種しか使わない。多くの場合ひとつの属性しか適性はなく、他の魔法は使えたとしてもほとんど役に立たないというのもあるし、他の属性の魔法を使うようになると、自分の適性属性の魔力が弱まり、最悪魔法が使えなくなると言われている。
ただ、複数の属性の魔法を何人かで合成することはできる。これは秘密でも秘術でもないが、エレメニルでも魔法使いは希少であり、各国間で合同で何かすることもほとんどなかったため、歴史的にも使われたことは少ない。勇者ジロはエレメニルの四賢者と共に外の国の魔王を倒したが、その時でも合成魔法が使われたという話は聞かない。書物にはあるが、それも2属性までだし、現在やってみたことがある魔法使いもほぼいないだろう。
「4属性を合成すると、ちょうど空の魔法と同じ効果が得られるのです。・・・ただ・・・これは4属性がそれぞれ同じくらいの魔力を合わせなくてはいけません」
風はトード、火はサーラがいる。水はクレフがいるが、魔力はトードやサーラにはさすがに及ばない。地の魔法をつかえるのはグレイドとランドのみで、足し合わせてもクレフの半分の魔力もない。地の賢者のガルドがいれば一応使えるだろうが、現在条件がそろわなそうだ。
「空の魔法の封印については、空の賢者、空の巫女、空の騎士の三人で、封印を望む空の魔法使いの魔法を、完全に使えなくしてしまう秘術がある、という記述がありました」
「具体的にどうやるのかわかりませんが、空の一族のあなた方ならわからないでしょうか」
実は空の賢者も秘密の書庫というか倉庫を持っていた。それは風の賢者のように、どこかの森だか山だか洞窟だかに隠しているのではない。建物ごと消し去って、意識の中からどこにいてもアクセスできるようになっている。倉庫にはよく分からない道具や武具、書庫にはぎっしり本が詰まっている。もう一人のウェルが覚醒するのと一緒に、ウェルは空の賢者の倉庫の存在も知った。ウェルは書庫をさがした。周りの者は、ウェルが目をつぶって何をしているのだろう、と思っている。
「ありました。なるほど・・・チェイニに対して使うことはできないだろうが・・・トード、助かりました。これで何とかなるかもしれません」
「そうですか。役に立ったのなら良かった。クレフのアジトはこのあたりではないかと思うのですが」
「そこの山の斜面だよ」
5人はクレフのアジトへ降り立った。奥の部屋へ行くと、クレフとサーラ、レイドとエアリアも帰ってきていた。




