クレフのアジト
クレフの拠点は山の斜面にある洞窟の中だった。空や周りから見てもわかりにくいところにある。周辺の森も、とても歩きにくい。道がないのでフェイが剣でひらいてくれている。洞窟の前でウェルはクレフの魔力を感じた。ウェルも、少しずつ魔力がコントロールできてきているのかもしれない。以前は人の魔力を感じることは全くなかった。
「結構広いようだし、分岐しているね」
「だがクレフの魔力を感じる。フェイにもわかるだろう」
フェイは両手を上げて首を振っている。ウェルは松明を出してフェイを先導した。最奥のクレフの部屋にはすぐにたどり着いた。そこではカーミラと思われる女とクレフが倒れていた。カーミラは毒にやられたのか、見るも無残にただれ果てている。まずいことに、倒れているクレフにも同じ兆候が現れてきていた。
『頼む。クレフを助けてくれ』
『了解』
ウェルが心の中で叫ぶと、もう一人のウェルはクレフを消した。そしてもう一度クレフを出現させた。毒は消えたようで、フェイも驚きあきれている。
「う、ありがとう。ウェル、君が助けてくれたのか」
「まあね。サーラはどうした」
「すまないが、ベルゼフに連れて行かれてしまった」
クレフのアジトが割れて、ベルゼフとカーミラがやってきたらしい。火の巫女がいることも、もちろん知っていた。クレフがわざとリークした情報だ。クレフはサーラと一緒に戦うつもりだったが、サーラは考えがあるらしく、ベルゼフについてチェイニのもとへ行くと言い出した。そして、首飾りをクレフに託した。ウェルに渡して欲しいと。
その後、クレフとカーミラは戦った。攻撃力はあまりないクレフは、魔法の液状生物を作って洞窟に飼っていた。戦いの中ですべてカーミラに潰され、今はいなくなっている。クレフの液状生物は毒液で満たされており、単独ではそれなりの効果だが、全種類が合わさると、とんでもない猛毒になる。クレフを侮ったカーミラは、毒液を全種浴びて死んだ。だがクレフも、量は少ないが毒液を全種浴びて、瀕死の状態だった。
「これがサーラの着けていた首飾りだ」
フレドのところでエアリアがサーラに与えたものだ。これはどういうことか。
『エアリアとレイドを戻してくれ。完全な形で』
『了解』
もう一人のウェルはレイドとエアリアを戻した。
「ありがとう。ウェル。力を使えるようになったのですね」
「まあ一応・・・それより、サーラからこの首飾りを預かったのですが・・・」
エアリアの話によると、今までウェル達と行動を共にしていたサーラは、本物のサーラではなく、エアリアが空の魔法で造り出した偽者だった。ただ偽者を作るだけでは魔力が弱くて見抜かれてしまうので、フレドのところにあった強力な魔力を持つ火の杖をベースにしてサーラを造ったらしい。本物のサーラは、エアリアが空の魔法を使って消していた。
「その首飾りは、私が造ったサーラの記憶を保持しています。本物のサーラに渡してあげてください」
首飾りはエアリアがノレノガから譲り受けた物で、文字通り「記憶の首飾り」だった。かけた者の経験を記憶し、次にかけた者にその経験の記憶を与えるという変わったアイテムだ。記憶を与えた後は首飾りに蓄えられた記憶は消え去ってしまい、また何度でも使うことが出来る。
ウェルはもう一人のウェルに、サーラも戻してもらった。この場合エアリアの力でも戻せたようだが、エアリアはかなりの魔力を使ってしまったことだろう。空の魔法は消すよりも戻す方が魔力を要する。戻ったサーラは、ここがどこだか分からない様子だ。もちろんクレフの記憶もない。ウェルは首飾りをサーラに渡した。首飾りをかけたサーラはクレフのこともわかるようになった。
「サーラの・・・偽者はどうなるんですか」
「チェイニの火の牢に入れられて、消えて火の杖に戻ってしまうでしょう。その際にチェイニの魔力に深刻なダメージを与えます。半減させるまではいかないでしょうが」
あのサーラは偽者・・・釈然としない気持ちが残る。サーラの秘策とはこのことだったのか。
「私が造ったサーラは、ベルゼフに連れ去られる時に、魔力でしるしを残しているでしょう。それをたどればチェイニの本拠を突き止められます」
「エアリア、悪いけれど、先にレイドとベルゼフの後をつけてくれませんか」
「構いませんが、私達ではチェイニはおろか、ベルゼフにも敵いませんよ」
『レイドを魔法で一時的に、せめてベルゼフに勝てるぐらいにできないか』
『いいけど、僕が直接倒した方が早くない』
『悪いが頼む』
『わかった』
ウェルがレイドに触れると、レイドにウェルの魔力が注ぎ込まれていく。レイドの身体能力も強化され、魔力も増える。鎧や盾にも注げるだけの魔力が注がれる。特にフレドの魔剣ゾルンエルデの容量は想像以上に大きく、もはやベルゼフを倒すのに、あり余るに違いないすさまじい魔力を発している。
「レイド、あなたに力を与えました。今ならベルゼフとも戦えるでしょう。チェイニの拠点を突き止めて下さい。チャンスがあればベルゼフを討っても構いませんが、チェイニとは戦わないで。エアリアをお願いします。エアリア、俺は地の国の様子を見てきます。地の巫女は既に囚われたらしいですが、ランド達のことが気がかりなのです。フェイと共に、急いで戻ります。無理はしないで下さい。クレフ、サーラを頼む」
こうしてウェルとフェイの二人は再び空へ飛んだ。今度は地の国を目指して。




