もう一人のウェル
ゆっくり考えている暇はないかもしれない。クレフが、サーラが、ランド達が取り返しのつかないことになるかもしれない。だがまずリマだ。
「リマ、まず君の話はあべこべだ」
「何を言っている」
「空の賢者はこの俺だ。隠者がチェイニだ」
「嘘をつけ」
「それと二度言うが、俺と一緒に暮らしていた、唯一家族同然で、家庭教師で、剣と魔法の師匠でもあるルマを殺したのは、空の騎士ベルゼフだ」
言いながら、ウェルは涙目になっていた。怒りがこみ上げてきているのが分かる。
「そんな馬鹿なことが・・・」
「ここに空の賢者が代々持っていた書がある。内容は簡潔にまとめると、空の魔法をみだりにつかうな、だ。お前の大将にもよく聞かせておくんだな」
ウェルはリマの拘束を外そうとした。・・・が。
「フェイ、これどうやってはずすのかな」
「自分でやったんじゃないのかい。・・・わからん。というかこの子、解放して大丈夫なの」
「大丈夫。また暴れたり、フェイに何かしたら、もう一度拘束してやるよ。次は風の国の騎士団へ引き渡そう。国で暴れた罪状で、拷問の上死刑かな」
それを聞いてリマは身震いしている。外し方がわからないので、ウェルが支えて、フェイが剣で叩き壊した。
「という訳だから、おうちへ帰れ。そしてご主人様に、本当はあなたが空の隠者ではないですか、祖父のルマを殺したのはベルゼフではないですか、と自分で聞いてみろ。まあ結果については責任持てないけどね」
「う・・・、こ、こんなの恩に着ないわよ」
リマは去っていった。
「ウェル。ありがとう。助かった」
「フェイ。ひどい目にあわせてごめん」
その後二人は王城へ報告に行った。騎士団が後の始末はしてくれるらしい。別荘が吹き飛んだので、フォーゲル邸へ久しぶりにもどった。フォーゲル卿は大喜びで歓迎してくれた。夕食で、フェイはウェルの武勇伝をフォーゲル卿に語っていた。誇らしげに、そしてうれしそうに。ウェルは時々フェイやフォーゲル卿に話しかけられた。変に思われないようにしていたつもりだったが、フェイには気取られたかもしれない。何しろ考えることがたくさんあった。
ウェルは部屋で眠れずに、考え事をしていた。あの時俺に話しかけてきたものは一体何者か。今でもいるのだろうか。ウェルは精神を集中していく。
「やあ」
それは現れた。それはウェルと同じ姿をしていた。ベッドから身を起こしたウェルの目の前に、あぐらをかいて笑っている。
「この方が話しやすいし、いいだろう」
「君は・・・」
「言うなればもう一人のウェル、君の中に秘められた魔力と共に、君の中に封じられた存在さ」
ウェルは言葉もなかった。
「僕は外に出たい。君は力が欲しい。利害は一致していると思うが」
「君を外に出せというのか。俺はやり方も分からないよ」
「君が僕に許可をくれて、意識を渡してくれればいい。それだけだよ」
「そうすると、俺は眠ってしまうわけか」
彼に任せればチェイニも倒してくれるのだろうか。しかし・・・ウェルはもう一人のウェルを見ていて思うことがあった。
「君はこの本についてどう思う」
ウェルは空の賢者の書をもう一人のウェルに渡した。ウェルは読んで笑った。
「そんなに面白かったかい」
「馬鹿馬鹿しいよ。君はどう思う」
「いや、同じさ。馬鹿げていると思うよ」
ウェルは確信した。もう一人のウェルはチェイニと何ら変わらない。おそらく魔力が強い分チェイニよりもたちが悪いだろう。ウェルは力に近づいたが、チェイニよりもっと恐ろしい敵も見つけてしまったようだ。だがチャンスでもある。この機にまだ生きている者達を助けられるかもしれない。
「少し考えさせて欲しいんだ。また明日話をしよう」
「わかった。でも急いだ方がいいんじゃないかな」
次話から章が変わります。




