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最後の賢者 エレメニルの物語  作者: 山乃末子
会議と別離
21/33

もう一人のウェル

 ゆっくり考えている暇はないかもしれない。クレフが、サーラが、ランド達が取り返しのつかないことになるかもしれない。だがまずリマだ。


「リマ、まず君の話はあべこべだ」


「何を言っている」


「空の賢者はこの俺だ。隠者がチェイニだ」


「嘘をつけ」


「それと二度言うが、俺と一緒に暮らしていた、唯一家族同然で、家庭教師で、剣と魔法の師匠でもあるルマを殺したのは、空の騎士ベルゼフだ」


 言いながら、ウェルは涙目になっていた。怒りがこみ上げてきているのが分かる。


「そんな馬鹿なことが・・・」


「ここに空の賢者が代々持っていた書がある。内容は簡潔にまとめると、空の魔法をみだりにつかうな、だ。お前の大将にもよく聞かせておくんだな」


 ウェルはリマの拘束を外そうとした。・・・が。


「フェイ、これどうやってはずすのかな」


「自分でやったんじゃないのかい。・・・わからん。というかこの子、解放して大丈夫なの」


「大丈夫。また暴れたり、フェイに何かしたら、もう一度拘束してやるよ。次は風の国の騎士団へ引き渡そう。国で暴れた罪状で、拷問の上死刑かな」


 それを聞いてリマは身震いしている。外し方がわからないので、ウェルが支えて、フェイが剣で叩き壊した。


「という訳だから、おうちへ帰れ。そしてご主人様に、本当はあなたが空の隠者ではないですか、祖父のルマを殺したのはベルゼフではないですか、と自分で聞いてみろ。まあ結果については責任持てないけどね」


「う・・・、こ、こんなの恩に着ないわよ」


 リマは去っていった。


「ウェル。ありがとう。助かった」


「フェイ。ひどい目にあわせてごめん」


 その後二人は王城へ報告に行った。騎士団が後の始末はしてくれるらしい。別荘が吹き飛んだので、フォーゲル邸へ久しぶりにもどった。フォーゲル卿は大喜びで歓迎してくれた。夕食で、フェイはウェルの武勇伝をフォーゲル卿に語っていた。誇らしげに、そしてうれしそうに。ウェルは時々フェイやフォーゲル卿に話しかけられた。変に思われないようにしていたつもりだったが、フェイには気取られたかもしれない。何しろ考えることがたくさんあった。


 ウェルは部屋で眠れずに、考え事をしていた。あの時俺に話しかけてきたものは一体何者か。今でもいるのだろうか。ウェルは精神を集中していく。


「やあ」


 それは現れた。それはウェルと同じ姿をしていた。ベッドから身を起こしたウェルの目の前に、あぐらをかいて笑っている。


「この方が話しやすいし、いいだろう」


「君は・・・」


「言うなればもう一人のウェル、君の中に秘められた魔力と共に、君の中に封じられた存在さ」


 ウェルは言葉もなかった。


「僕は外に出たい。君は力が欲しい。利害は一致していると思うが」


「君を外に出せというのか。俺はやり方も分からないよ」


「君が僕に許可をくれて、意識を渡してくれればいい。それだけだよ」


「そうすると、俺は眠ってしまうわけか」


 彼に任せればチェイニも倒してくれるのだろうか。しかし・・・ウェルはもう一人のウェルを見ていて思うことがあった。


「君はこの本についてどう思う」 


 ウェルは空の賢者の書をもう一人のウェルに渡した。ウェルは読んで笑った。


「そんなに面白かったかい」


「馬鹿馬鹿しいよ。君はどう思う」


「いや、同じさ。馬鹿げていると思うよ」


 ウェルは確信した。もう一人のウェルはチェイニと何ら変わらない。おそらく魔力が強い分チェイニよりもたちが悪いだろう。ウェルは力に近づいたが、チェイニよりもっと恐ろしい敵も見つけてしまったようだ。だがチャンスでもある。この機にまだ生きている者達を助けられるかもしれない。


「少し考えさせて欲しいんだ。また明日話をしよう」


「わかった。でも急いだ方がいいんじゃないかな」


 次話から章が変わります。

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