ティーナの死
フェイとクレフ、地の騎士達は一度風の王城へ戻った。ウェルとサーラは念のため別荘に残った。会議が行われていた部屋は、格闘が行われた形跡があり、椅子や机が散かり、壁や床に傷が出来ていた。また、カーミラかティーナが出したのだろう、水でずぶぬれになっていた。おそらく毒性もあるのだろう。クレフは風の国や地の国の者たちに、水に触れないように指示した。部屋の毒は後でクレフが除去した。ティーナの死体を確認したクレフだが、それが本物でないことに気付いた。
「これはティーナさんではない。とすると連れ去られたか、あるいは・・・」
クレフは部屋を飛び出して隣の部屋の戸を空けた。そこにもティーナが倒れていた。クレフは駆け寄り治療を始めた。一命を取り留めたティーナだが、傷は治ったはずなのに立つこともできない。城の一室に寝かされた。
「エアリアさんは・・・カーミラにやられた私を・・・逃がして、自分は・・・ベルゼフやチェイニに・・・利用されないように、自らを・・・消したようです。・・・ベルゼフとカーミラの会話を聞きました」
エアリアは目くらましをかけて、その隙にティーナの複製を作り、本物のティーナは隣の部屋に転送したらしい。そして自分自身を消した。ベルゼフの魔力がさらに増加していて、エアリアでは敵わなくなっていた。ということは、あの場で逃げる判断は正しかったと言える。ベルゼフ達はエアリアの消滅の後、帰っていったようだ。おそらくチェイニが風の巫女マイを確保したので、最優先の目的は達したということだろう。マイがチェイニの変身に気付かなければ、ウェルとサーラも危なかったかもしれない。
ティーナはカーミラに水の呪いをかけられていた。急速に生命力を奪われていく猛毒で、解くにはカーミラを殺すしかない。クレフの力では治癒はできない。
「クレフ。水の国を頼みます。あなたこそ次代の・・・」
クレフの心にあった、もしかするとスパイとして疑われているかもしれない、といったわだかまりは完全になくなっていた。消え入りそうなティーナの手を、少し強すぎるかもしれない程両手で握り締めて、辺り構わずぼろぼろ涙をこぼしながらクレフは言った。
「ティーナさん、カーミラは生かしておきません。必ず、この命に代えても」
ティーナはその日の内に亡くなった。地の騎士たちは既に風の国を発っていた。葬儀にはウェルとサーラも参列した。非常事態でもあり、ウェルとサーラを狙ってまたチェイニ達が来る可能性もあるので、城内でひっそりと行われた。
「国葬にしたかったがのう、今はこれで許して欲しい」
風の国の王はクレフに言った。
「とんでもありません。我々は国を追放された亡命者のようなものです。このような暖かいお心使い、感謝致しております」
クレフはカーミラを殺す策があると王に告げ、一旦水の国へ戻ります、と言った。
「私も一緒に行く」
サーラが言った。クレフは驚いている。サーラは続けた。
「ウェルに聞いたよ、あなたの罠にはカーミラをおびき寄せるためのエサが必要でしょ。私だって戦力として来ているんだよ」
それに、とサーラは言う。チェイニに一撃を加える秘策もあるんだよ、と。ウェルはフレドのところへ戻った方がいい、と説得したが、サーラは聞かなかった。
「ウェルは来なくてもいいよ。魔法も剣もへっぽこなウェルは、役に立たないからいらない」
少し笑いながら手厳しいことを言う。サーラは自分のとろうとしている行動が、いかに危険かもちろんよく理解している。覚悟の上で行くのだろう。サーラもクレフもティーナも、エアリアも・・・どうして。
クレフとサーラは、翌日サーラの転送の魔石で水の国へ行った。水の国にクレフのアジトがあるらしい。そこでカーミラが来るのを待ち伏せるつもりのようだ。結局フォーゲルの別荘に残ったのはウェルとフェイだけだった。
「ぼ・・・俺は一体どうすればいいんだろう」
「それもこれから何か罰則を設けることにしようか。私が聞きたいぐらいだよ」
「ただ待っていても時間が過ぎていき、ベルゼフやチェイニの力は強大になっていくだけ。トードは帰ってくるだろうけど・・・それでも何とかなるかは未知数。フレドは回復するだろうけど、多分ベルゼフにも敵わないかもしれない」
「うだうだ考えているのが一番よくない気がするね。稽古でもしようか」
フェイの攻撃はいまだかつてないほど激しかった。ウェルは何度も強烈な一撃を食ったが、それほど痛いとも思わなかった。
「ずいぶん頑張れるようになったね。うちの騎士団の見習いよりも、よほど骨があるよ。騎士団に推薦しようか」
フェイはうれしそうに笑っている。
その夜ウェルは眠れなかった。やっと寝付いて見た夢が、もう一人の自分に、さんざんにこき下ろされて馬鹿にされる夢だった。次の日からウェルは、朝夕フェイと稽古して、それ以外の時間は屋内でずっと瞑想をしている。そしてエアリアの部屋でやった実験を、ウェルの魔力でレイドを戻すことを試みている。
フェイはそんなウェルに付き合って、ウェルの瞑想を眺めたり、自分でもやってみたりしていたが、時折出かけた。風の国の騎士団はマイの行方を探っていた。チェイニの拠点は水の国にあるらしいことはわかっている。場所がわかれば救出に向かうつもりらしい。チェイニは風の国の王へ、風の巫女を人質にとって降伏するように伝えてきていたが、王は拒否したらしい。チェイニは再び風の国へ攻めてくるのだろうか。
「こちらが絶望的に不利に思える中に、二つだけアドバンテージがある」
フェイが言った。そんなものがあるのだろうか。
「君が無事だったことと、チェイニ側が君の重要性を過小評価していると思われる点だね」
確かにウェルはチェイニと遭遇した。にもかかわらず、チェイニはウェルを見逃してしまったのだった。風の巫女マイの確保を優先して帰ってしまった。ウェルの感覚からすると別に違和感のない行動だ。チェイニにしてみればウェルなどいつでも消せるということか。
「もちろん私にも分からないけれど・・・チェイニには君の潜在能力は見えていなかったのかもしれない。あるいは・・・見落としたのか」
ウェルにも分からないが、自分の能力が弱いため、見逃されたように思われる。ウェルが自分の潜在能力を使えるようになっても、チェイニには敵わないのかもしれない。そうすると逃げ延びることができたのも、良いことに思えなくなってくる。この隠れ家も捨てて、チェイニの目の届かないどこか遠くへ逃げ出した方がいいのだろうか。だがウェルにはそれはない選択だった。フェイ達を見捨てて逃げても行く先などありはしない。
そんな日が一週間ほど続いた後、どうして見つかったのか、チェイニの配下が別荘を包囲していた。その指揮官は空の魔法使いリマを名乗った。
新キャラは名前からお分かりでしょう。あの方の関係者です。




