水の魔法使い
ウェルは何事かと思ったが、クレフとは顔見知りだし、傷を治してもらったこともある。サーラやフレドも世話になったようだ。何かできることがあればしてあげたい。内密に何か聞きたいことがあるのだろうか。
「会議に出ている騎士達はわかっていないが、僕は君こそ、この戦いの主力だと知っている」
ウェルは驚いた。が、エアリア、フレド、トードにも同じような事を言われた、と答えた。だが自分で力を使えていないことも伝えた。
「ということは、君が実力を発揮できるようになるまで時間稼ぎをし、君を守らないといけないね。エアリアさんもそう考えているだろう」
僕はね、とクレフは自分のことを話し始めた。クレフはカーミラが師匠だったが、カーミラに親兄弟家族全部殺されたらしい。しかもそれを長く知らなかった。
「カーミラは僕を弟子にした後、うちの家を賊に襲わせていた」
「どうしてそんなことを」
「わからない。ただ、問うたら、私は知らないと。でもお前に家族など必要ないだろうと言った」
クレフはカーミラの弟子になった後、自分の意思で水の国の騎士団にも属していた。自分の力を役立てたいという思いからだった。魔法で騎士達をサポートするだけでなく、作戦や戦術の検討に加わることもあった。魔法使いが参謀も兼ねているような役割だったらしい。
ある時捕らえた盗賊の尋問をした際に、その賊が以前にクレフの家を襲撃していたことを自白した。信じられないことにその黒幕はカーミラだと言い出した。クレフは自分と関係のある事件ということで、取調べにも立ち会ったのだが、盗賊がとんでもないことを言い出したので、とりあえず口止めをしておいた。
盗賊の言っている事以外に証拠はなく、その盗賊の証言が信じられるようなものでもないのだが、どう考えてもそんな嘘をつく理由はなかった。クレフはカーミラにそのような証言をする盗賊がいることを伝えた。だがカーミラの答えからは、はっきりした結論は出てこない。賊はその後死刑になった。
クレフはカーミラを信頼していたのだが、その時からカーミラを疑うようになった。カーミラの経歴や生い立ちを調べ始めたのもその後だ。
カーミラは元々水の国の商家の娘だったが、水の国の悪徳貴族に家を潰されたらしい。その後奴隷として売られている。売られた先の貴族の家でも虐待を受けていたようだ。後にその悪徳貴族の家は、悪質な盗賊に襲われ、女子供はみな行方不明。当の貴族は無残に殺されている。カーミラが買われた先の貴族の家も同様に滅んでいた。カーミラはある時、前代水の賢者にその魔力の潜在能力を見抜かれて、買い取られた。だが、クレフの調べによると、前代賢者の死もカーミラによるものだという。これもクレフの問いに対する答えは、変態ジジイに引導を渡してやっただけのこと、というものだった。
クレフの考えでは、カーミラは水の国や貴族に恨みを抱いており、復讐の対象として見ているらしいということだ。水の国の裏社会ともつながっており、犯罪にも絡んでいるようだった。禁制品の輸入などにも関わっていたらしい。クレフはカーミラを断罪するべきという結論に達したが、その後まもなく水の国はチェイニの支配下に入ってしまった。
カーミラはじわじわと水の国の貴族や有力者の悪事を暴いたり、でっちあげたりして粛清していっているらしい。それに抗おうにも、水の国にチェイニに対抗できるような武力はない。
水の巫女ミーシャは自分の一族の助命や水の国の存続を条件に、チェイニの元へ行った。クレフにはどうすることもできなかった。
「水の巫女ミーシャは、僕がカーミラの弟子になり、賢者候補になってから同じ学校に通っていた幼馴染だ。どうしても助け出したい。彼女は水の国の人質だ。水の国の王族や国を救うため囚われてしまった。もし邪法の犠牲になったのなら、無事では済まないかも知れない」
クレフの表情は険しくなる。ウェルは思った。クレフには戦う理由がある。ウェルにはあまりにもチェイニと戦う動機や決意がなさすぎるのではないか。クレフはさらに言った。
「実はカーミラは殺す算段がついている。後は僕の張った罠にカーミラをおびき寄せるだけでいい。その事をエアリアさんにも伝えておいて欲しい」
「会議で言えばいいことじゃないのか」
「ティーナさんには完全に信用されている訳じゃないだろう。僕がカーミラを殺すために策を練っていたことは伝えていない。僕は・・・多分治療要員として連れてこられただけさ」
「何故エアリアに」
「君が主力なら、あの会議で最も知恵があり、策も使えるのは彼女だから。信用もできる」
姉がそのように評価されているのをウェルは少し意外に思った。信用はともかく策を使うイメージがウェルには浮かばな・・・と・・・そういえばフレドのところで何かしていたのを思い出した。
こんなことを言ったら悪いけれど、とウェルは言った。
「少しクレフがうらやましい。俺だって、みんなの役に立ちたいと思ってるんだ。でもどうしていいかわからない」
クレフは少しぽかんとしていたが、笑ってウェルの腕に触れて言った。
「大丈夫だよ。いずれ力を出せる時が来るさ」
クレフは部屋へ戻っていった。そろそろ会議も再開される。ウェルも部屋へ戻った。
ウェルは会議の席で、先ほどクレフに言われた内容をメモしてエアリアに渡しておいた。エアリアはさっと読んでたたみ、うなずいた。
午前中に大体重要な話は終わったようで、後は連携してどのようなことができるかだろう。巫女を守るための対策も、結局各国毎ですることになる。サーラについてはエアリア達が責任を持って守る、ということになった。エアリアはチェイニやベルゼフの能力について質問されている。簡単に言えば空魔法は何でも消せて、何でも出せる魔法だ。特にチェイニはその魔力のキャパシティがとんでもない。レイドも消されているし、ここにいる誰も敵わないだろう。しかも邪法によってその魔力をさらに増やしているかもしれない。質問するほど、会議は重苦しい雰囲気に包まれていった。ただエアリアとクレフ、サーラは絶望的な戦いだとは思っていないようだ。
次の休憩時間はフェイと話をした。
「ウェル、どうやら君が最後の希望のようだね」
「どうしてそんなことを思う」
「話を聞くに、どう考えても我々の敵うような相手ではない。でもエアリアやサーラは、なんとかなると思ってるようじゃないか」
「そうだね。どうしようもない、とは考えてないようだね」
「すると、チェイニの力に対抗できる可能性があるのは、理屈で言って君しかいないからねえ」
ウェルはフレドやトード、クレフにもそんなことを言われた、と明かした。
「なるほど・・・君はぼ・・・私を騎士に欲しいと言ったけど、どのみち私は君を守らないとね」
「今言いかけたよね」
「危ない、危ない。今のはいいでしょ」
「マイも狙われているようだから守らないと。ああトード早く帰ってこないかなあ」
ウェルもそう思った。休憩後に会議室に入ると皆凍りついていた。そこには薄ら笑いを浮かべた青い魔女と髭面の騎士がいた。カーミラとベルゼフだ。




