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婚約破棄?どうぞご自由に。無能な王太子に捨てられた公爵令嬢ですが、父が王国を見限って独立したので私は優雅に旅に出ます  作者: 翡翠


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第9話 帝国第三皇女という婚約者



 エーヴェルハルト公国――王城。


「……到着はいつ頃になる」


 公王が静かに問う。


「明日には国境を越え、本城へ入られる見込みでございます」


 宰相が淡々と答えた。


「護衛は?」


「帝国近衛騎士団の精鋭。加えて皇女殿下直属の護衛部隊も随伴しております」


 短い沈黙。


「想定通りだな」


 公王は小さく頷いた。


「……婚約者が来る、か」


 アルヴェインが低く呟いた。


 その声音には、わずかな諦めが混じる。


「ええ」


 公妃が穏やかに微笑む。


「あなたの婚約者であり、そして――あの子の大ファンでもある方ね」


 “あの子”。


 もちろん、アリアベルのことだ。


「……ファン、という表現は不正確です」


 アルヴェインは即座に否定した。


「崇拝に近いかと」


 断言。


 公妃がくすりと笑う。


「そこまで?」


「はい」


 一切の迷いがない。


「姉上の話題が出た瞬間、周囲の会話が成立しなくなる程度には」


「……それはそれで困るわね」


「ええ」


 アルヴェインは静かに頷いた。


「婚約者としての会話より、姉上の話題が優先されますので」


「問題は」


 公王が口を開く。


「帝国の意図だ」


「表向きは“婚約者の帰還に伴う訪問”」


 宰相が答える。


「しかし実質は、公国への接触および評価確認かと」


「当然だな」


 公王は即答する。


「帝国が動いた時点で、我が国は“観察対象”から“交渉対象”へ移行した」


 翌日。


 王城前広場。


 帝国の紋章を掲げた馬車が、ゆっくりと到着する。


 扉が開いた。


 現れたのは、一人の少女。


 銀髪。

 透き通るような肌。

 そして、完成された所作。


 帝国第三皇女――リシェル・エル・ディアノス。


「ごきげんよう、公王陛下」


 優雅に一礼する。


 その動きに一切の隙はない。


 だが。


「それで」


 顔を上げた瞬間。


 表情が変わった。


「アリアベル様は、どちらにいらっしゃいますの?」


 場が止まる。


「……あの子なら、旅に出ておりますよ」


 公妃が穏やかに答える。


「まあ」


 一瞬の沈黙。


 そして。


「それは問題ですわ」


 即答。


 迷いが一切ない。


「リシェル殿下」


 アルヴェインが口を開く。


「まずはご挨拶と――」


「後で結構ですわ」


 完全に遮断する。


「わたくし、あの方にお会いするために来たのですもの」


 真顔だった。


「婚約者としての務めは理解しております」


 一拍。


「ですが優先順位が違いますわ」


「……優先順位?」


 アルヴェインがわずかに眉を動かす。


「ええ」


 リシェルは当然のように頷いた。


「第一位、アリアベル様」


「……」


「第二位、アリアベル様のご機嫌」


「……」


「第三位、その他」


 完全に言い切った。


「……婚約者は」


 アルヴェインが淡々と問う。


「第四位ですわね」


 即答だった。


 躊躇も遠慮もない。


 公妃が吹き出す。


「ふふ……あの子らしいわね」


「……笑い事ではありません」


 アルヴェインは冷静に返す。


 だが、わずかに肩が落ちている。


「では」


 リシェルは一歩踏み出す。


「すぐに追いかけます」


 当然のように言った。


「待て」


 公王が制止する。


「理由を述べよ」


「簡単ですわ」


 リシェルは迷わない。


「アリアベル様が旅に出ている以上、そこが現在の最重要拠点ですもの」


 理屈は通っている。


 完全に通っている。


「……」


 公王が一瞬だけ沈黙する。


 そして。


「よかろう」


 あっさりと許可した。


「……父上」


 アルヴェインが低く言う。


「放置は危険かと」


「問題ない」


 即答。


「むしろ均衡が取れる」


 意味深な言葉だった。


「……行きますわよ、アルヴェイン様」


 リシェルが当然のように言う。


「私もですか」


「婚約者でしょう?」


 正論。


「姉上に近づく存在を放置する理由はありませんわ」


 にっこりと笑う。


 その笑顔は、全く穏やかではなかった。


 その頃。


「……次はどこへ参りましょうか」


 私は呑気に地図を眺めていた。


 その裏で。


 シスコン弟と。


 アリアベル至上主義の婚約者が。


 全力で追いかけてきているとも知らずに。

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