最終話 それでも、歩いていく
世界は、静かだった。
争いは消え、奪い合いも消えた。
誰もが同じ結論に辿り着いている。
抗う意味はない。
争う理由もない。
すべては一つに収束する。
その中心にいる存在。
アリアベル。
人でありながら、神でありながら、時間に縛られない存在。
「……静かですわね」
私は空を見上げた。
青い空。変わらない景色。
変わったのは世界の方。
「はい」
アルヴェインが静かに答える。
「すべて、終わりました」
「……そうですの?」
「はい」
一拍。
「もう、争いは起きません」
「……それは」
私は少し考える。
「良いことですわね」
「はい。間違いなく」
「……ですが」
アルヴェインは続ける。
「姉上は、どうなさるのですか」
終わった世界で、終わらない存在が何をするのか。
「……どう、とは?」
私は首を傾げる。
「世界は完成しています。姉上が動く理由は、もはや存在しません」
「……そうですわね」
私は小さく頷く。
確かに、その通り。
必要はない。
理由もない。
「ですが」
一拍。
「関係ありませんわ」
「……はい?」
アルヴェインがわずかに言葉に詰まる。
「理由が必要なのですか?」
私は軽く微笑む。
「行きたいから行く。見たいから見る。それで十分ではなくて?」
「……姉上らしい」
アルヴェインは小さく息をついた。
「次はどちらへ?」
セレスティナが笑う。
「そうですわね」
私は地図を広げる。
まだ見ていない場所。
知らない景色。
「……こちらにしましょうか」
指を置く。
ただ、それだけ。
「承知しました」
アルヴェインが即座に動く。
「護衛を再編成します」
「わたくしも同行いたします!」
リシェルが嬉しそうに言う。
いつも通り。
何も変わらない。
「……ふふ」
私は小さく笑った。
世界は変わった。
すべてが変わった。
けれど。
自分は変わらない。
不老であろうと。
不死であろうと。
神であろうと。
関係ない。
歩く。
ただ、それだけ。
その一歩で世界は動く。
だが、それでもただの一歩だ。
誰もが見上げる存在。
誰もが従う存在。
誰もが祈る存在。
それでも本人にとっては、ただの旅人だった。
「では」
私は振り返る。
「行きましょうか」
「はい」
全員が応じる。
迷いはない。
少女は歩く。
終わりのない時間の中で。
終わることのない世界を。
ただ見ていくために。
それでも旅は続く。
理由などなくても。
意味などなくても。
ただそこにあるから。
――それでも、歩いていく。
七色に輝く神の花を咲かせながら――。




