第41話 争う意味の消失
静かだった。
あれほど揺れていた世界が。
あれほど動いていた力が。
嘘のように、止まっている。
理由は明確だった。
誰もが理解してしまったからだ。
◇
帝国――皇城。
「……報告を」
皇帝の声は、かつてよりも低い。
「はい」
側近が一礼する。
「各国、軍事行動を停止」
「経済制裁も縮小傾向」
「全面的に緊張が緩和しております」
沈黙。
「……なぜだ」
「理由は一つでございます」
一拍。
「アリアベル様の存在です」
◇
西方連合国家。
「……気づいたか」
老宰相が静かに言う。
「何をですか」
「争う意味がないことをだ」
一拍。
「勝っても、負けても」
「最終的にあの存在に依存する」
それが結論だった。
「ならば」
「争う理由が消える」
◇
北方王国。
「……無駄だ」
王が呟く。
「何をしても、覆らない」
「力でも」
「経済でも」
「信仰でも」
一拍。
「すべて、あの方に収束する」
ならば。
抗う理由はない。
◇
東方神聖圏。
「……確定しました」
高位司祭が静かに言う。
「神々の加護が重複」
「干渉が統合されております」
「結果として」
一拍。
「単一の存在として安定」
それは。
定義される。
「……神格保持者」
人でありながら。
神として機能する存在。
◇
「加えて」
司祭は続ける。
「時間的変化が停止しております」
「……何?」
「老化が確認されません」
沈黙。
「……つまり」
「不老です」
一拍。
「現時点で、死の兆候も確認されておりません」
それは。
「不死に限りなく近い状態です」
◇
その頃。
「……少し、静かですわね」
私は空を見上げていた。
風が穏やか。
人も落ち着いている。
「はい」
アルヴェインが答える。
「世界が安定しました」
「……そうなのですの?」
「はい」
一拍。
「姉上の存在により」
◇
「……よく分かりませんわね」
私は小さく首を傾げる。
「何もしていませんのに」
「それがすべてです」
アルヴェインが即答する。
◇
「……姉上」
一瞬、言葉を選ぶ。
「変化があります」
「何ですの?」
「時間です」
「……時間?」
「はい」
一拍。
「姉上の外見、状態」
「変化が停止しています」
◇
「……そうですの?」
私は自分の手を見る。
いつも通り。
何も変わらない。
だが。
確かに。
「……変わりませんわね」
◇
「老化が停止しています」
アルヴェインが静かに言う。
「加えて」
「致命的な損傷に対する耐性も確認されています」
それは。
人ではない。
◇
「……まあ」
私は小さく頷いた。
「不便ではありませんし」
特に問題はない。
◇
「……受け入れるのですか」
アルヴェインがわずかに驚く。
「何をですの?」
「その状態を」
「ええ」
一拍。
「変えられませんもの」
合理的だった。
◇
その日。
世界は理解した。
争う意味がないことを。
勝者も。
敗者も。
すべてが同じ場所へ収束する。
ならば。
争う必要はない。
そして。
その中心にいる少女は。
変わらない。
時間にすら縛られず。
ただ。
そこに在り続ける。
――終わりのない存在として。




