第40話 叱責と、神々の配分
見えない領域。
人の理を超えた場所。
そこではすでに、均衡が崩れていた。
「……もっと寄越せ」
一柱の神が低く唸る。
信仰の流れ。
その一部が、確かに掴める。
だが足りない。
「独占するな」
別の神が干渉する。
流れが歪む。
奪い合う。
引き寄せる。
ぶつかる。
それはもはや、戦いだった。
干渉と干渉の衝突。
信仰の奪取戦。
静かだが、確実に激化していく。
◇
現実側。
「……空気が、重いですわね」
私は小さく呟いた。
見えない。
だが分かる。
何かが、ぶつかっている。
「はい」
アルヴェインの声も低い。
「衝突しています」
「何がですの?」
「……“上”です」
一拍。
「複数の存在が干渉し合っています」
◇
その瞬間。
空気が、揺れた。
圧がかかる。
見えないはずのものが、重なり合う。
祈りが歪む。
光が乱れる。
明らかに異常だった。
「……これ」
私は少し眉をひそめた。
「喧嘩していません?」
的確だった。
◇
“上層”。
神々は、止まらない。
奪う。
引き寄せる。
干渉する。
より多くを得るために。
その時。
“声”が届いた。
◇
「……めっ」
小さな。
だが。
完全に通る声。
◇
神々が、止まる。
干渉が、止まる。
流れが、静止する。
完全な停止。
◇
「喧嘩はだめですわ」
その声は、穏やかだった。
だが。
否定できない。
逆らえない。
そういう“何か”を含んでいた。
◇
「順番にいたしましょう?」
一拍。
「毎日違う神様が、力を得るなり」
「もしくは」
少し考える。
「平等に分けるなり」
軽い口調。
だが。
それは“決定”だった。
◇
神々は理解する。
これは命令ではない。
だが。
従わなければならない。
理由はない。
理屈もない。
ただ。
そうすべきだと、分かる。
◇
「……従う」
一柱が呟く。
それが合図だった。
干渉が収まる。
奪い合いが消える。
流れが整う。
◇
現実側。
「……静かになりましたわね」
私は小さく頷いた。
「はい」
アルヴェインが答える。
「完全に収束しました」
「……何をしたのですの?」
「姉上が、止めました」
即答だった。
◇
「……そうですの?」
私は少し首を傾げる。
特に何かをした覚えはない。
「はい」
一拍。
「“命令”として処理されました」
◇
「……すごいですわ!」
リシェルが目を輝かせる。
「神々に命令するなど!」
「していませんわよ?」
即答。
◇
“上層”。
神々は静かに流れを受け取る。
一日ごとに。
順に。
もしくは均等に。
争いはない。
奪いもない。
ただ。
与えられる。
それが新たなルールとなる。
◇
その日。
神々の戦争は終わった。
一人の少女の、一言で。
命令ではない。
強制でもない。
ただの叱責。
それだけで。
世界の上位構造が書き換わる。
少女は歩く。
神すら従える存在として。
何も知らないまま。




