第39話 神々の飢え
東方神聖圏――大神殿、最奥。
「……確認された」
高位司祭の声が静かに響く。
「光の現象は一過性ではない」
「継続的に観測されている」
一拍。
「すなわち」
「神が応答した」
その事実は、瞬く間に広がった。
人の世界だけではない。
届くべき場所へ、届いた。
◇
“上層”。
人の認識を超えた領域。
そこには、確かに存在していた。
神々。
だが彼らは万能ではない。
絶対でもない。
ただ一つ。
必要なものがある。
信仰。
それこそが力の源泉。
◇
「……何だ、これは」
一柱の神が低く呟く。
流れが変わっている。
見える。
感じる。
信仰の流れが。
一点に、集まっている。
「人の子か?」
「違う」
別の神が即座に否定する。
「媒介だ」
一拍。
「だが、強すぎる」
異常だった。
本来、分散するはずの信仰。
それが。
収束している。
◇
「……あれを通せば」
一柱が言う。
「力を得られる」
沈黙。
だが、否定はない。
「……奪うか」
「不可能だ」
即答だった。
「干渉が強すぎる」
一拍。
「ならば」
「与える」
結論だった。
◇
「神威を分ける」
「加護を与える」
「使徒とする」
言葉が並ぶ。
だが本質は一つ。
接続。
あの存在と繋がる。
それだけで。
信仰の流れに触れられる。
◇
その頃。
「……また、ですの?」
私は少し困ったように呟いた。
光が、増えている。
種類が違う。
色も違う。
質も違う。
なのに。
すべてが、重なっている。
「……異常です」
アルヴェインの声が低くなる。
「一つではありません」
「複数です」
「何がですの?」
「加護です」
一拍。
「複数の“何か”が、姉上に干渉しています」
◇
「……へえ」
リシェルが興味深そうに見る。
「面白いですわね」
「面白くありません」
アルヴェインが即座に否定する。
「制御不能です」
◇
見えないはずのものが、見える。
感じられないはずのものが、分かる。
周囲の空気が、変わる。
祈りが、より強くなる。
「……アリアベル様……」
信徒たちが跪く。
以前より深く。
以前より確信を持って。
「やはり……」
「一柱ではない……」
「複数の神に選ばれた存在……」
言葉が変わる。
解釈が進化する。
◇
「……これは」
カイルが低く言う。
「信仰がさらに集中します」
「当然です」
アルヴェインが答える。
「“唯一”ではなく“複数”」
一拍。
「ならば、なおさら価値が上がる」
逃げ場がない。
◇
“上層”。
「……流れている」
神が呟く。
信仰が。
確かに。
こちらへ。
「繋がったか」
「まだ弱い」
「だが」
一拍。
「確実だ」
だから。
次が動く。
さらに別の神が。
同じ判断をする。
◇
「……増えております」
アルヴェインが静かに言う。
「加護が」
「信仰が」
「すべてが」
収束していく。
◇
「……困りますわね」
私は小さく息をついた。
「何もしていませんのに」
だが。
止まらない。
誰も止められない。
◇
その日。
神々は選んだ。
奪うのではなく。
繋がることを。
力を求めて。
信仰を求めて。
ただ一人の少女へと。
少女は歩く。
世界だけでなく。
神々すら引き寄せながら。
――力の源泉そのものとして。




