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婚約破棄?どうぞご自由に。無能な王太子に捨てられた公爵令嬢ですが、父が王国を見限って独立したので私は優雅に旅に出ます  作者: 翡翠


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第37話 神の使徒という根拠



 東方神聖圏――大神殿。


「結論を申し上げます」


 高位司祭が静かに口を開いた。


「アリアベルという存在は、“神の使徒”として再定義するのが最適です」


 沈黙。


 だが、今回は反論が出た。


「根拠は何だ」


 一人の司祭が問う。


「概念ではなく、証明を示せ」


 当然の指摘だった。


 信仰は体系である以上、論理が必要となる。


「よろしい」


 高位司祭は頷く。


「では“形”で説明しましょう」


 空気が変わる。


「まず第一に、姿形です」


 ざわめきが走る。


「それは主観ではないか」


「いいえ」


 即座に否定する。


「神像の記録を参照してください」


 書物が広げられる。


 古い絵。


 彫像の写し。


「金の髪」


「整った顔立ち」


「穏やかな表情」


 一つ一つが示される。


「……一致している」


 誰かが呟く。


 否定できない。


「偶然ではないのか」


「では第二に、存在の在り方です」


 一拍。


「彼女は“何もしていない”」


「にもかかわらず、人が動く」


 沈黙。


「奇跡の定義を確認しましょう」


 書物がめくられる。


「因果を超えて結果が生じる現象」


「それが奇跡です」


 一拍。


「彼女の周囲では、それが日常的に発生している」


 反論が止まる。


「だが、それは能力ではないのか」


「能力では説明がつきません」


 即答だった。


「意図が存在しない」


「意志なき影響」


「それは人ではなく、媒介です」


「つまり」


 一人が整理する。


「神が直接動いているのではなく、彼女を通して現れていると」


「その通りです」


 肯定。


「ゆえに“神の使徒”」


 最も矛盾が少ない。


 最も体系を崩さない結論だった。


「……認めるしかないか」


 重い声が落ちる。


「排除できず、否定もできず、説明もできない」


 一拍。


「ならば位置づける」


 それが宗教だった。


「布告します」


 高位司祭が静かに告げる。


「アリアベルは神の使徒である」


「神の意志を体現する存在として扱う」


 それで決まった。


 数日後。


「聞きましたか?」


「ええ、使徒だそうです」


 街に広がる。


 違和感はない。


 むしろ納得が先に来る。


「……また増えましたわね」


 私は少し困ったように言った。


「はい」


 アルヴェインが頷く。


「今回は根拠付きです」


「根拠?」


「姿形です」


 そこなのですか。


「既存の神像と一致しているため、体系的に正当化されました」


「……困りますわね」


 私は小さく息をつく。


「何もしていませんのに」


「それが証明になります」


 アルヴェインが即答する。


「意図しない現象こそ、信仰において最も強い」


「アリアベル様!」


 信徒が跪く。


「どうかお導きを!」


「特に何も」


「そのお言葉こそ!」


 またですの。


「姉上」


 アルヴェインが低く言う。


「完全に固定されました」


「何がですの?」


「立場です」


 一拍。


「人ではなく、“使徒”として」


 その日。


 アリアベルは定義された。


 感覚ではなく、論理によって。


 姿形。


 存在。


 影響。


 すべてが積み重なり、否定できない結論となる。


 少女は歩く。


 証明された存在として。


 人でありながら、人ではない何かとして。

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