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婚約破棄?どうぞご自由に。無能な王太子に捨てられた公爵令嬢ですが、父が王国を見限って独立したので私は優雅に旅に出ます  作者: 翡翠


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第36話 異なる神と、交わらない信仰



 東方神聖圏――聖都。


 白い石で築かれた街は、静謐に満ちていた。


 祈りが日常であり、秩序が信仰によって保たれている場所。


「……雰囲気が違いますわね」


 私は小さく呟いた。


「はい」


 アルヴェインが短く答える。


「ここは既存の宗教体系が強固に確立されております」


「つまり」


 一拍。


「姉上の影響が入りにくい地域です」


 そう言われても、実感はありませんわね。


「歓迎いたします、アリアベル様」


 白装束の司祭が一礼する。


 動きは整っている。


 だがどこか距離がある。


「こちらこそ」


 私は軽く頷いた。


「綺麗な街ですわね」


「光栄でございます」


 形式的な応答。


 それ以上でも、それ以下でもない。


「……見ております」


 司祭が静かに言う。


「各地での動き」


「信仰の形成」


 一拍。


「そして、その中心にある存在を」


 視線が向けられる。


「……私ですの?」


「はい」


 迷いのない肯定。


「ですが」


 一拍。


「ここでは、それは成立いたしません」


 断言だった。


「……どうして?」


「すでに“神”が存在するからです」


 静かな答え。


「新たな信仰は既存の体系を崩します」


「それは秩序の崩壊に繋がる」


「ゆえに」


 一拍。


「排除されます」


「……なるほど」


 私は小さく頷いた。


 よく分かりませんけれど、理屈は分かりますわ。


「ですので」


 司祭は続ける。


「この地においては」


 一拍。


「“ただの客人”としてお過ごしください」


 それが条件であり、線引きだった。


「……姉上」


 アルヴェインが低く言う。


「慎重に」


「ええ」


 私は頷いた。


 特に何かをするつもりもありませんし。


 数日後。


 変化は、ゆっくりと現れた。


「……あの方が?」


「そうらしい」


「噂の……」


 小さな声。


 小さな関心。


 だが確実に広がる。


「……増えております」


 カイルが報告する。


「接触を試みる者が」


「信徒ではありません」


「一般民です」


 つまり外側からの浸透。


「……困りますわね」


 私は小さく呟いた。


 何もしていませんのに。


「当然です」


 アルヴェインが即答する。


「存在するだけで影響を与える」


「それが姉上です」


「……では」


 私は少し考える。


「目立たないようにいたしましょうか」


「可能ですか」


「難しいですわね」


 即答。


 その頃。


 聖都の奥。


「……報告」


 高位司祭が静かに言う。


「影響、拡大中」


「原因は」


「存在そのもの」


 一拍。


「接触を許してはなりません」


「排除は」


「不可」


 即答だった。


「象徴を排除すれば外部との関係が崩壊します」


 完全な詰みだった。


「……では」


 高位司祭が目を閉じる。


「どうする」


 答えは一つ。


「“解釈”を変えます」


 静かな宣言。


「対立ではなく」


「取り込む」


 その日。


 異なる信仰が初めて接触した。


 拒絶も排除もできない存在。


 ならば意味を変える。


 それが唯一の対処。


 少女は知らない。


 自分が神すら書き換え始めていることを。


 ただ静かに歩いているだけなのに。

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