表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
婚約破棄?どうぞご自由に。無能な王太子に捨てられた公爵令嬢ですが、父が王国を見限って独立したので私は優雅に旅に出ます  作者: 翡翠


この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

34/44

第34話 祈りが組織になるとき



 南方交易都市。


 アリアベルが立ち寄ってから、わずか数日。


 変化は、目に見える形で現れていた。


「……増えております」


 アルヴェインが低く言う。


 視線の先。


 通りの一角。


 そこには、整然と並んだ人々がいた。


 祈っている。


 静かに。


 統一された動作で。


「……昨日までは、あそこまでではありませんでした」


 カイルが補足する。


「組織化が始まっています」


「まあ」


 私は小さく首を傾げた。


「早いですわね」


 特に危機感はない。


 ただの感想。


「早すぎます」


 アルヴェインは即座に否定する。


「自然発生にしては異常です」


 一拍。


「誰かがまとめています」


 ◇


「……こちらです」


 案内された先。


 簡素な建物。


 だが中には、人がいる。


 多い。


 そして。


 統制されている。


「失礼いたします」


 扉を開ける。


 中にいた者たちの視線が、一斉にこちらへ向く。


 その瞬間。


 全員が跪いた。


「……アリアベル様」


 一人の女性が前に出る。


「お目にかかれて光栄にございます」


「……どうも」


 どう返せばいいのか分かりませんわね。


「我々は」


 一拍。


「“光の導き”に従う者でございます」


「光?」


「はい」


 迷いのない目。


「アリアベル様のご意思を、この世界に広める者」


 ……言っていないのですけれど。


「……誰がまとめているのですの?」


「私でございます」


 即答。


「僭越ながら」


 堂々としている。


 迷いがない。


 ◇


「目的は」


 アルヴェインが問う。


「明確です」


 女性は即答する。


「アリアベル様の御心を正しく伝えること」


「そして」


 一拍。


「人々を導くこと」


 完全に成立している。


 宗教として。


 ◇


「……姉上」


 アルヴェインが低く言う。


「危険です」


「そうですの?」


「はい」


「これは“解釈”です」


 一拍。


「姉上の意思とは無関係に、意味が付与される」


「そして広がる」


 止められない。


 ◇


「……面白いですわね」


 私は小さく笑った。


「止めますか?」


「無理です」


 即答だった。


「すでに広がっております」


「では」


 一拍。


「気にしないことにしますわ」


「……予想通りです」


 アルヴェインが小さく息をつく。


 ◇


「ご安心くださいませ!」


 女性が強く言う。


「我々は決して逸脱いたしません!」


「アリアベル様の御心に従います!」


 ……だから、何も言っていませんのに。


「……そう」


 私は軽く頷いた。


「では」


 一拍。


「困っている人がいたら、助けて差し上げてくださいな」


 それだけ。


 ただ、それだけの言葉。


 だが。


「……承りました」


 女性が深く頭を下げる。


「それが、御意思」


 その瞬間。


 空気が変わる。


 ◇


 数日後。


 “光の導き”は、急速に広がった。


 貧民街への支援。


 孤児の保護。


 治安の安定。


 すべてが、自発的に行われる。


 理由は一つ。


 「アリアベル様の御心だから」


 ◇


「……制御不能ですね」


 カイルが静かに言う。


「だが」


 アルヴェインは視線を上げる。


「結果は出ている」


 治安は改善。


 民心は安定。


 すべてが好転している。


「……利用できますね」


「当然だ」


 一拍。


「だが」


「扱いを誤れば、崩壊する」


 信仰は、強い。


 だからこそ、危険。


 ◇


「……どうかしましたの?」


 私は振り返る。


「いえ」


 アルヴェインは首を振る。


「問題ありません」


 本当はある。


 だが。


 それを伝える必要はない。


 ◇


 その日。


 信仰は、組織になった。


 個人の想いは。


 集団の意思へと変わる。


 それはもう。


 止められるものではない。


 少女は知らない。


 自分の一言が。


 制度を作り。


 社会を動かし。


 世界を変えていることを。


 ただ。


 歩き続ける。


 ――信じられる存在として。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ