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婚約破棄?どうぞご自由に。無能な王太子に捨てられた公爵令嬢ですが、父が王国を見限って独立したので私は優雅に旅に出ます  作者: 翡翠


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第30話 敗者の選択と、跪く国家



 北方王国――臨時会議室。


「……限界です」


 財務官が力なく言った。


「市場は完全に停止」


「流通は断絶」


「備蓄も三日と持ちません」


 沈黙。


 誰も反論しない。


 できない。


「……他国は」


 王が問う。


「支援は?」


「ございません」


 即答だった。


「すべての国がヴェルに依存しております」


「我が国を助ければ、自国が影響を受けます」


 つまり。


 見捨てられた。


「……では」


 王はゆっくりと顔を上げる。


「選択は一つか」


「はい」


 宰相が頷く。


「公国へ正式に使節を送り、関係修復を求める他ありません」


「……違う」


 王が低く言う。


「相手は、公国ではない」


 一拍。


「“あの女”だ」


 空気が変わる。


「……アリアベル様、ですか」


「そうだ」


 断言だった。


「通貨も」


「市場も」


「すべて、あの女を中心に動いている」


「ならば」


 拳を握る。


「頭を下げる相手は決まっている」


 ◇


「準備しろ」


 王が命じる。


「最上位の使節団を編成する」


「目的は」


「謝罪と、関係修復」


 一拍。


「条件はすべて受け入れる」


 完全な降伏だった。


 ◇


 数日後。


 エーヴェルハルト公国近郊。


「……本当に、ここでよろしいのか」


 北方王国の使節が周囲を見回す。


 山間の街道。


 豪華な会場など、どこにもない。


「はい」


 案内役が答える。


「アリアベル様は現在、旅の途中でございますので」


「……」


 王が、自ら来ている。


 それほどまでに、追い詰められていた。


「……来たか」


 アルヴェインが静かに現れる。


 その視線は冷たい。


「北方王国国王陛下、および使節団と確認」


「……ああ」


 王は頷く。


「アリアベル様は」


「こちらです」


 短く案内される。


 ◇


「……?」


 私は地図を見ていた。


「どうかしましたの?」


「来客です」


 アルヴェインが淡々と告げる。


「北方王国の国王陛下です」


「……まあ」


 少しだけ驚く。


「どうして?」


「謝罪および交渉です」


 ……大げさですわね。


「通してもよろしいですか」


「構いませんわ」


 特に断る理由もない。


 ◇


 王が、入ってくる。


 その瞬間。


 迷いなく。


 膝をついた。


 完全に。


「……この度は」


 頭を下げる。


「我が国の無礼、深くお詫び申し上げる」


 静寂。


 周囲の空気が固まる。


「……顔を上げてくださいませ」


 私は少し困ったように言った。


「事情を聞かせていただけます?」


「……は」


 王はゆっくりと顔を上げる。


 その表情には、誇りも何もない。


 ただ。


 生き残るための意思だけがあった。


「我が国は、誤りました」


 はっきりと言う。


「敵対すべきではない存在に、敵対した」


「その結果」


 一拍。


「国が崩壊寸前にございます」


 事実をそのまま並べる。


「ですので」


 再び頭を下げる。


「どうか、御慈悲を」


 完全な懇願。


 ◇


「……そうですの」


 私は小さく頷いた。


 よく分かっていないけれど。


 困っているのは分かる。


「では」


 一拍。


「仲良くいたしましょうか」


 それだけだった。


 条件も。


 交渉も。


 何もない。


 ただ一言。


 それだけで。


 空気が変わる。


「……は?」


 王が固まる。


「それでよろしいのですわよね?」


 私は首を傾げる。


「え、ええ……?」


 理解が追いつかない。


「では決まりですわ」


 にこりと笑う。


 その瞬間。


「……成立です」


 アルヴェインが静かに言った。


 ◇


 その日。


 一つの国が救われた。


 交渉も。


 条件も。


 駆け引きもなく。


 ただ。


 一人の少女の気まぐれで。


 国家は生き残る。


 その価値の重さを。


 本人だけが知らないまま。

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