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婚約破棄?どうぞご自由に。無能な王太子に捨てられた公爵令嬢ですが、父が王国を見限って独立したので私は優雅に旅に出ます  作者: 翡翠


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第23話 越境する民と、選別される価値


 エーヴェルハルト公国――国境線。


 関所の前には、長い列ができていた。


 馬車、荷車、徒歩の民。


 そのすべてが、公国へと向かっている。


「……想定以上ですな」


 公国側の監察官が呟いた。


「王国からの流入者、昨日比で三倍」


「止めますか」


「止めれば混乱が拡大する」


 一拍。


「通せば、公国側の処理能力を超える」


 どちらも問題だった。


「次」


 関所の役人が淡々と告げる。


 一組の家族が前に出る。


「職業は」


「農民です」


「技能は」


「……特には」


 短い沈黙。


「通行許可、条件付き」


「え?」


「農地開発区域への配置となる」


 家族は顔を見合わせる。


 だが。


「……それでも、構いません」


 答えは早かった。


 残るより、まし。


 それだけだった。


「次」


 一人の男が前に出る。


「職業は」


「鍛冶師です」


 空気が変わる。


「証明は」


 道具を差し出す。


 使い込まれたそれは本物だった。


「通行許可」


 即答。


「都市部配属」


 男の顔に安堵が浮かぶ。


 選別。


 それは露骨だった。


 だが誰も文句は言わない。


 言えない。


 選ばれなければ終わるからだ。


「……完全に流れができているな」


 アルヴェインが遠くからそれを見ていた。


「はい」


 公国官僚が答える。


「王国側からの流出は止まりません」


「当然だ」


 一拍。


「生きられる側に流れる」


 それだけの話。


「受け入れは」


「制御中です」


「だが」


 アルヴェインは視線を細める。


「限界は近いな」


「はい」


 隠さない。


「都市部は飽和状態です」


「では」


 アルヴェインは短く言う。


「基準を上げろ」


「……上げますか」


「選別を厳格化する」


 一拍。


「価値のある人材を優先しろ」


 冷徹な判断。


 だがそれが国家だった。


 その頃。


「……人、多いですわね」


 私は街を歩いていた。


 以前より明らかに人が増えている。


「流入ですわ」


 リシェルが答える。


「王国からの移住者です」


「まあ」


「アリアベル様のいらっしゃる国ですもの」


 当然のように言う。


「……関係ありますの?」


「あります」


 アルヴェインが即答する。


「姉上の存在は安全と成功の指標として認識されています」


「つまり」


 リシェルが続ける。


「アリアベル様がいる場所が正解ですわ」


 極端ですわね。


「事実です」


 また即答。


「……大変そうですわね」


 私は少しだけ周囲を見る。


 人、人、人。


 確かに多い。


「問題はあります」


 アルヴェインが言う。


「だが止める理由はない」


「そうですわね」


 私は軽く頷いた。


 来たい人は来る。


 それだけのこと。


 関所では、今日も列が途切れない。


 選ばれる者。


 選ばれない者。


 その差は容赦なく突きつけられる。


 それでも人は来る。


 その先にあるのが。


 あの少女のいる国だと、信じているから。

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