幕間 王国の再編
王国――仮王宮。
「最終案を確認する」
王が静かに口を開いた。
もはや迷いはない。
あるのは、選択の結果だけ。
「は」
宰相が一歩前に出る。
「王国は、旧王城およびその周辺のみを直轄領として保持」
「その他すべての旧王族直轄地を、公国へ譲渡」
誰も反論しない。
すでに議論は終わっている。
「対価として」
一拍。
「公国は、王国民に対する金融、経済、物流の維持を保証」
「具体的には」
「通貨流通、物資供給、交易路の開放を公国側が担います」
つまり。
王国は“維持される”。
だが。
自力では何もできない。
「……出入口は」
王が問う。
「王城外周に関所を設置」
「人員、物資の出入りはすべて管理されます」
それはもう。
国家ではない。
「……城だな」
王がぽつりと呟く。
「はい」
宰相は否定しない。
「王国は“領土”ではなく、“象徴”として存続いたします」
沈黙。
だが。
それが最善だった。
「……民は」
王妃が静かに問う。
「混乱は最小限に抑えられます」
「経済基盤は公国が担保するため、生活への影響は限定的かと」
「そう」
王妃は小さく頷く。
「それでいいわ」
一拍。
「民が生きるのであれば、それでいい」
完全に割り切っていた。
◇
「……これで」
王がゆっくりと立ち上がる。
「王国は残る」
自嘲気味に笑う。
「形だけは、な」
誰も否定しない。
否定できない。
「だが」
視線を上げる。
「それでもいい」
一拍。
「民が生き、名が残るなら」
それが、最後の矜持だった。
◇
数日後。
王城外周に関所が設置された。
兵が立つ。
通行が制限される。
かつて自由に行き来できた場所は、完全に管理された。
王国の外は、公国。
王国の中は、王城のみ。
それが現実となる。
◇
王都の民は混乱しなかった。
むしろ。
生活は安定した。
物資は届く。
貨幣は流通する。
商人は動く。
それらすべてを支えているのが、公国であることを理解しながら。
「……結局、あちらか」
誰かが呟く。
否定する者はいない。
◇
王城。
静まり返ったその場所で。
王はただ、座っていた。
何もない玉座に。
何もない国の王として。
それでも。
その名だけは、残り続ける。
――エーヴェルハルト公国の隣に。




