第21話 旅する象徴という役割
エーヴェルハルト公国――王城、執務室。
「結論から申し上げます」
宰相が静かに口を開く。
「アリアベル様の今後の扱いについてですが」
視線が集まる。
「固定するべきではありません」
「……理由は」
公王が短く問う。
「“動く象徴”であることに価値があるためです」
一拍。
「各国はすでに、アリアベル様を通じて公国を見ております」
「ならば」
宰相は続ける。
「こちらから赴く方が効率的です」
沈黙。
だが、誰も否定しない。
「……外交官か」
公王が呟く。
「いいえ」
宰相は首を振る。
「それでは弱い」
一拍。
「“旅する外交そのもの”でございます」
意味が違う。
外交をする者ではない。
存在自体が外交。
「なるほど」
公王は短く頷いた。
「合理的だ」
「はい」
「本人の負担は」
公妃が問う。
「軽微かと」
即答だった。
「従来通り“旅をしていただくだけ”で機能いたしますので」
公妃が小さく笑う。
「本当に、あの子らしいわね」
◇
「では方針を決定する」
公王が告げる。
「アリアベルは引き続き旅を継続」
「その行動をもって外交とする」
静かに確定した。
「アルヴェイン」
「はい」
「護衛および状況管理を任せる」
「承知しました」
一切の迷いなく頷く。
「帝国側は」
「同行いたしますわ」
リシェルが当然のように言う。
「アリアベル様の外交活動を全面的に支援いたします」
……完全に私物化ですわね。
「よろしい」
公王はあっさりと認めた。
◇
その頃。
「……外交、ですの?」
私は小さく首を傾げていた。
目の前にはアルヴェイン。
そしてリシェル。
「正確には違います」
アルヴェインが淡々と説明する。
「姉上はこれまで通り旅を続けてください」
「はい」
「その行動自体が、外交として機能します」
……よく分かりませんわね。
「つまりですわ」
リシェルが補足する。
「アリアベル様が訪れた国は、それだけで公国との関係が強化されるのです」
「まあ」
「お話しされれば交渉」
「微笑まれれば同盟」
「滞在されれば影響圏ですわ」
……極端ですわね。
「否定はしません」
アルヴェインが静かに言う。
「実際、その通りになっておりますので」
事実らしいですわ。
「ですので」
リシェルがにこりと笑う。
「これからも、いつも通りでお願いいたします」
「……いつも通りでいいのですの?」
「はい」
「それが最適解です」
即答だった。
◇
「……なるほど」
私は少し考える。
旅をする。
行きたい場所へ行く。
見たいものを見る。
それだけ。
「簡単ですわね」
結論は出た。
「はい!」
リシェルが嬉しそうに頷く。
「非常に簡単です!」
……楽しそうですわね。
「次はどちらへ?」
セレスティナが聞く。
「そうですわね」
私は地図を広げる。
「せっかくですもの」
一拍。
「まだ行ったことのない国へ行きましょうか」
「承知しました」
アルヴェインが即座に動く。
「ルートを再構築します」
「護衛も増強いたします!」
リシェルも乗り気だ。
「楽しみですわね」
私は小さく笑った。
ただの旅。
ただの移動。
だがその一歩が。
国を動かし、世界を動かす。
本人は気づかないまま。
少女は進む。
――旅する象徴として。




