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婚約破棄?どうぞご自由に。無能な王太子に捨てられた公爵令嬢ですが、父が王国を見限って独立したので私は優雅に旅に出ます  作者: 翡翠


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第20話 世界が見る少女



 エーヴェルハルト公国の建国は、瞬く間に各国へと伝わった。


 それは単なる一国の独立ではない。


 既存の力関係を塗り替える出来事だった。


 帝国――皇城。


「……正式に成立、か」


 皇帝が書簡を閉じる。


「はい」


 側近が一礼する。


「加えて、公国は王国に対し事実上の指導権を確立したとの報告も」


「予想通りだ」


 皇帝は静かに頷く。


「であれば」


 一拍。


「見るべきは“誰がそれを成立させたか”だ」


「……公王陛下ではなく、ですか」


「違うな」


 皇帝はわずかに笑った。


「公王は“完成させた側”だ」


 一瞬、間を置く。


「だが、流れを決定づけたのは別にいる」


 側近は理解する。


「アリアベル様、ですか」


「そうだ」


 即答だった。


「人は、理ではなく“象徴”に従う」


 一拍。


「そして今、あの公国の象徴は誰だ?」


「……アリアベル様でございます」


「ならば」


 皇帝は淡々と言う。


「結論は出ている」


 ◇


 帝国第三皇女の私室。


「……やはり、アリアベル様ですわね」


 リシェルがうっとりと呟く。


「すべてが、完璧ですわ……」


 周囲の侍女たちは何も言わない。


 慣れているからだ。


「国を動かし、人を動かし、それでいてご本人は何もしていない顔をされる……」


 ため息。


「これほど尊いことがございます?」


 誰も答えない。


 だが、否定もしない。


 ◇


 西方連合国家。


「……危険だな」


 年老いた宰相が呟く。


「軍でも、経済でもない」


「では何が問題なのですか」


「人だ」


 即答だった。


「人が集まり、人が従い、人が動く」


 一拍。


「それが最も制御できない」


「……公王ではなく?」


「違う」


 首を振る。


「娘だ」


 静かな断言。


 ◇


 王国――仮王宮。


「……どういうことだ」


 王が呟く。


「なぜ、ここまで評価が偏る」


 理解できない。


 だが。


「当然でございます」


 宰相が答える。


「王国は“失敗した側”」


 一拍。


「公国は“成功した側”」


「……それだけか」


「いいえ」


 宰相は続ける。


「成功には、象徴が必要でございます」


 沈黙。


「そして、その象徴が明確であればあるほど」


 一拍。


「評価は集中します」


 つまり。


 すべてが一人に集まる。


「……アリアベルか」


 王が呟く。


 その名を。


 重く。


 ◇


 エーヴェルハルト公国――王城前庭。


「……人、多いですわね」


 私は少しだけ顔をしかめた。


 来賓。


 使節。


 貴族。


 とにかく多い。


「当然ですわ」


 リシェルが即答する。


「アリアベル様にお目通り願うためですもの」


 ……そういうものですの?


「姉上」


 アルヴェインが静かに言う。


「対応は最小限で構いません」


「ええ」


「無理に応じる必要はありません」


「分かりましたわ」


 私は軽く頷いた。


 その程度でいいなら、楽ですわね。


「次はこちらです!」


 リシェルが嬉しそうに手を引く。


「帝国使節団の方々ですわ!」


 やる気がすごいですわね。


「……アリアベル様」


 使節の一人が深く頭を下げる。


「本日はお目にかかれて光栄でございます」


「こちらこそ」


 私は軽く微笑む。


 それだけ。


 ただ、それだけで。


 空気が変わる。


 周囲の視線が、一斉に集まる。


 期待。


 敬意。


 そして。


 どこか、信仰に近いもの。


「……不思議ですわね」


 私は小さく呟いた。


「何がですか?」


 セレスティナが聞く。


「別に、何もしていませんのに」


「それが一番おかしいのよ」


 即答だった。


 ◇


 その日。


 世界は一人の少女を認識した。


 軍でもない。


 王でもない。


 ただの公女。


 だが。


 その存在は、確実に国を動かしている。


 誰もが理解していた。


 そして。


 本人だけが、気づいていなかった。

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