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婚約破棄?どうぞご自由に。無能な王太子に捨てられた公爵令嬢ですが、父が王国を見限って独立したので私は優雅に旅に出ます  作者: 翡翠


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第19話 凱旋と、建国の光



 エーヴェルハルト公国――首都。


 城門の外から、すでに異様な熱気が伝わってきていた。


 旗がはためく。


 人が溢れる。


 歓声が、絶えない。


「……すごいですわね」


 私は思わず呟いた。


 ただ戻ってきただけ。


 そのはずなのに。


「当然ですわ」


 リシェルが誇らしげに言う。


「建国の象徴がお戻りになるのですもの」


 ……そういうものかしら。


「姉上」


 アルヴェインが静かに言う。


「視線を下げないでください」


「?」


「見られる側です」


 短い説明。


 なるほど。


 私は少しだけ姿勢を正した。


 その瞬間。


 歓声が、さらに大きくなる。


「アリアベル様だ!」


「お戻りになられたぞ!」


「万歳!」


 ……なるほど。


 これは確かに、少し違いますわね。


 城門が開く。


 隊列がゆっくりと進む。


 その間。


 途切れることのない歓声。


 視線。


 期待。


 すべてが、こちらに向けられている。


「……面白いですわね」


 私は小さく笑った。


 嫌ではない。


 むしろ。


 悪くない気分ですわね。


 城門をくぐる。


 そして。


 王城前広場。


 そこにはすでに、多くの人間が整列していた。


 貴族。


 騎士。


 官僚。


 そして、各国の使節。


 すべてが揃っている。


「……本当に、建国ですわね」


 小さく呟く。


 その最前列。


 玉座の前に立つのは。


「戻ったか」


 公王。


 短い一言。


 だが、それだけで空気が締まる。


「ただいま戻りましたわ」


 私は軽く一礼する。


 形式としては十分。


 それ以上でも、それ以下でもない。


「よろしい」


 公王は短く頷いた。


「では、始める」


 それだけだった。


 合図。


 同時に。


 鐘が鳴る。


 重く、力強く。


 建国を告げる音。


 場の全員が、膝をつく。


 ただ一人を除いて。


 ――私だけが、立っている。


「……え?」


 一瞬、間が抜ける。


「そのままで」


 公妃が穏やかに言う。


「あなたは、そういう位置よ」


 ……そういうものですの?


 理解はしていない。


 けれど。


 周囲は完全に納得している。


「本日をもって」


 公王の声が響く。


「エーヴェルハルト公国の成立をここに宣言する」


 歓声。


 爆発するような歓声。


「併せて」


 一拍。


「本国の象徴として、アリアベルを位置づける」


 空気が変わる。


 完全に。


「……まあ」


 私は小さく首を傾げた。


 そういう流れでしたのね。


 初めて知りましたわ。


「異論はあるか」


 公王が問う。


 誰も、何も言わない。


 当然だ。


 すでに決まっているのだから。


「よろしい」


 短く頷く。


 それで、すべてが確定した。


 建国。


 体制。


 そして。


 私の立場。


「……姉上」


 アルヴェインが小さく呟く。


「問題ありません」


 それだけだった。


 完全な信頼。


「アリアベル様!」


 リシェルが嬉しそうに駆け寄る。


「おめでとうございます!」


「ありがとうございます」


 とりあえず返す。


 何がおめでたいのかは、まだよく分かりませんけれど。


「……ふふ」


 セレスティナが笑う。


「本当に分かってない顔してるわね」


「そうかしら?」


「そうよ」


 断言。


「でも、それでいいんでしょうね」


 意味深ですわね。


 その日。


 エーヴェルハルト公国は正式に成立した。


 そして。


 その中心に立つ少女は。


 変わらず。


 ただ、そこにいるだけだった。

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