第14話 王の決断と、差し出された条件
王都――王城。
夜。
御前会議は解散したはずだった。
だが、王は玉座の間に残っていた。
誰もいない。
ただ一人。
頭を抱えたまま、動かない。
「……なぜ、こうなった」
誰に向けるでもない言葉。
返事はない。
あるはずもない。
すでに、すべては手遅れなのだから。
「陛下」
静かな声が響いた。
振り向かずとも分かる。
「……宰相か」
「はい」
淡々とした返答。
「まだ、何かあるのか」
「ございます」
短い沈黙。
そして。
「公国より、正式な書簡が届いております」
王の手が止まる。
「……内容は」
「確認なさいますか」
「読め」
力のない声だった。
宰相は一礼し、書簡を開く。
そして。
感情のない声で読み上げた。
「エーヴェルハルト公国は、王国との関係について、以下の条件を提示する」
空気が変わる。
それは、交渉ではない。
最後通告だ。
「第一。王国は、現王太子の廃嫡を行うこと」
沈黙。
「第二。王位継承権の再編、および統治機構の改革を公国主導で行うこと」
王の呼吸が乱れる。
「第三。公国は王国の上位同盟国として位置づけられ、軍事および経済における指導権を有する」
一拍。
「第四。これらを受け入れる場合、王国の存続は保証される」
そこで、宰相は読み上げを止めた。
「……以上でございます」
静寂。
完全な静寂。
「……これは」
王が、かすれた声で言う。
「……降伏ではないか」
「形式上は同盟再編でございます」
即答だった。
だが、その意味は同じだ。
「……レオルドを、切れと?」
「はい」
迷いはない。
「それが、最低条件でございます」
王は目を閉じた。
拳が震える。
「……あれは、私の息子だ」
「承知しております」
「それでもか」
「それでも、でございます」
沈黙。
長い沈黙。
やがて。
「……王妃は、何と言う」
「すでに同様の見解でございます」
答えは出ていた。
最初から。
誰もが分かっていた。
「……そうか」
王は、ゆっくりと顔を上げる。
その目には。
もはや迷いはなかった。
「……宰相」
「は」
「王太子を、廃する」
その一言は。
すべてを終わらせる決断だった。
「併せて」
王は続ける。
「公国の条件を、受け入れる」
静かに。
確定した。
◇
その頃。
「……今日はここに泊まりましょうか」
私は宿を見上げながら言った。
「いいですわね」
セレスティナが頷く。
「海も近いし、雰囲気も良いわ」
「問題ありません」
カイルが周囲を確認する。
「安全も確保できます」
「では決まりですわね」
私は軽く笑った。
ただの旅。
ただの選択。
だがその裏で。
ひとつの王国の運命が、決定された。
王が、息子を切り捨て。
国を差し出したことなど。
この場にいる誰も知らない。
ただ。
夜は静かに更けていく。




