6話 逆転へ
「これより、サブリナ・ド・ポリニャック公爵令嬢のフローラ・ド・アルベール殺害の裁判を始めます!」
幕が上がった。今度こそギロチン行きにしてやるわ、サブリナ。
6話 逆転へ
「私が駆けつけるとフローラが倒れており、その場にはフローラとサブリナ、ノアイユ伯夫人が。
毒で生死をさまよっていた中、ノアイユ伯夫人はサブリナが毒入りワインを勧めたというではありませんか!
これは決定的証拠です!」
聴衆がざわめく。ふふふ、殿下の言葉を疑うものなんていないもの。
「ふむ。では殿下、ノアイユ伯夫人は?」
「そ、それは……数日前から姿が見えなくて……。サブリナです!サブリナが攫ったに違いありません!」
そう。肝心の証人が足りない。ちらりとサブリナを見ると偉そうに腕を組んでふふん、と笑う。
やったわね、サブリナ。でも私はこんなことでは負けないわよ。
「ふむ。サブリナ嬢、どうですかな?」
「はい、ノアイユ伯夫人は私たちといますわ。」
なんと!自分から言うなんて、ふふふ、馬鹿な女!これで皆サブリナを疑うわ!
「しかし攫ったのではありません。ノアイユ伯夫人は保護を求めたのですわ。
聞くところによると、ノアイユ伯夫人はフローラ嬢に脅されていた様子。
本当はフローラ嬢はピンピンしていたのに嘘の証言をさせられていたのですわ。
現にその後ノアイユ伯夫人の家では強盗や曲者に襲われたとか。これこそフローラ嬢が嘘をついていた証拠ですわ。」
「なっ!」
サブリナのやつ、言うに事欠いて。確かに強盗も曲者も私が手引きしましたが、証拠がないじゃない。誰が信じるのよ。
「ふむ。ではフローラ嬢。真偽は?」
ふっ、これが狙いならとんだ甘ちゃんね。
「そんな……サブリナ様がそんな恐ろしいことを考えていたなんて……
。私は毒で死にかけていたのですわ!その私がどうして強盗や曲者を手配できますの!?サブリナ様には申し訳ないことをしましたわ!私が殿下をお慕いしたばっかりに……。でもこれはあんまりです!」
おいおいと泣いてみせる。耳を傾けると聴衆から同情の声が。
「流石にサブリナ様は酷すぎるのでは……。」
「そうだ。あんな清楚な方が曲者なんて……。」
ちょろいもんよ。私は今までずっとこうやって生きてきた。
「ではサブリナ様。」
さあ、ここからどう言い訳するつもり?
サブリナはその場にすっと立つ。
「その前に、皆様にご紹介したい人がいますわ。」
紹介したい人。何を言い出すかと思えば……!
サブリナの視線の先を追ってぎょっとした。あ、あれは……!
「ベラドンナ!」
ノアイユ伯爵令嬢。家同士が仲がいいので小さい頃から付き合いがあった。
ベラドンナ……立場が分からないみたいだから、色々分からせてあげたベラドンナ……。ふふふ、それでも甘いわ、サブリナ。あの女が今更私に逆らう気があるわけないじゃない!
「ノアイユ伯夫人がいらっしゃらないなら、家族の方に聞くのが良いですわ。どうかしら、裁判長?」
「認めます。ノアイユ伯爵令嬢。前へ。」
何も知るわけないじゃない。
ベラドンナはすうっと息を吸い込む。
「フローラはさも可憐で清楚に振舞ってますが、真っ赤な嘘です!」
「なっ!」
何を言い出すの!?あいつ!!
「小さい頃からフローラに何もかも取られてきました……。ドレスも髪飾りも殿方も!
酷いと言うとフローラはいつも悪魔みたいに笑うんです!伯爵令嬢風情が贅沢って……。曲者が入り込んだ時もフローラを問い詰めましたが、仮にそうだとしても証拠がないって!
倒れた時だって母を脅して偽装したに違いありませんわ!」
あ、あの女!!
「言いがかりだ!!王太子妃に対する侮辱罪だぞ!!」
そうよ、殿下!もっと言ってやって!
「静粛に。殿下、質問されていないことを話せば、いくらあなたでも法廷侮辱罪になりますぞ。」
「くっ……。」
ちょ、引き下がるんじゃないわよ!!なんて小さい男!!
サブリナが勝ち誇ったように笑う。
「まあ、フローラ様ったらそんなことを!?」
「じゃあいつも我々を見下してたってこと?」
「公爵令嬢でもないくせに……。」
ま、まずい!
「い、言いがかりですわ!ノアイユ伯夫人がいない以上、どうやって証明しますの!?」
「ご心配なく。ノアイユ伯夫人ならここに。」
「は!?」
奥からノアイユ伯夫人が出てくる。こ、この流れは最悪……!
「裁判長!あれは偽物ですわ!サブリナが自分を有利にするために仕立てたに違いありません!」
「フローラ嬢、静粛に。ノアイユ伯夫人、前へ。」
「なっ!?」
私に……私に黙れと!?無礼よ!!あの裁判長、この裁判が終わったら殿下に言って罷免してやるわ!
「フローラ嬢は確かに毒を飲みました。
しかしそれは極小量。少し吐き気がする程度で命に別状はありません。それをサブリナ様による暗殺だと騒ぎ立てたのは私……。
フローラ様が怖かったのです!侯爵家に逆らったら我々家族はどんな目に遭うか!」
ノアイユ伯夫人はわああっと泣き出す。
な、なんてこと言い出すの!?あれほど口止めしたのに!!これじゃ私が悪者みたいじゃない!!
「しかし!私は現に生死の境をさまよいましたわ!医師の診断があるじゃない!?それはどう説明しますの!?」
どんなに不利でもこれは事実。勝つのは難しくてもうやむやにはできますわ。
「では皆様、ここでお見せしたいものがあります。」
こ、今度は何を。サブリナは紙切れを取り出す。
「拝啓フローラ嬢。先の診断偽装の件ですが、まだ代金を頂いていません。しめて100リーブルを用立てしていただきたい。『フローラ・ガブリエル・ド・アルベール』。」
「なっ!?」
ざわめきが一層大きくなる。
「偽装ですわ!そんな手紙!」
「殿下、確認を。」
「なっ、これは……間違いなくフローラの字だ……。」
「そんな!?」
手紙をひったくって愕然とした。
わ、私の字だ。私の……。
「どうですかな?フローラ嬢。」
「あ……。」
言葉が出てこない。何も思い浮かばない。
サブリナはにやりと笑っている。
こ、こんな……生まれてから何もかも手に入れてきた、この私が……。
全部あの女のせい……あの女のせいよ……。
私は意識を失った。
――これで終わりですわ、フローラ。




