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私だって、できることなら愛されたかった  作者: 負けうさぎ


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私は四つの運命を見た。


学院にアメリアが現れる事。

私とルーカス様の婚約が破棄される事。

ルーカス様とアメリアが結ばれる事。

そして、今年中に私は死ぬという事。


耐え難い苦痛を孕んだ未来。

夢のはずなのに、私を殺した感触はどれも鮮明に残っていて、そんな夢を何度も繰り返し見たせいで今ではそれが、夢で見た未来の出来事なのか、経験してきた過去の記憶なのか...いつしかわからなくなって



きっとそのせいだ……


記憶の混濁とも呼べる今のオリヴィアの状況、しかもそれが数多の死の記憶ともなれば普通でいられるわけがなかった。


そっか……私はもう...


夢のどれとも違う出来事や人に困惑し、対応するのに忙しかったお陰で気づくことの出来なかった自分の精神状態。


私はもう、とっくにおかしくなっていたんだ...



そうじゃなければ……



「私との婚約を解消して頂けませんか」


…………こんなこと言えるわけないもの




「あ…………オリヴィア」


伸ばした手は彼女に届くことはなく、扉を閉ざされたことで部屋にいる他の生徒会メンバーの視線が全て僕の方に向き居た堪れない気持ちになる。


オリヴィア・カロリーヌ、僕の一つ年下の婚約者。

清廉潔白で頭も良くマナーやダンス果ては交渉術まで全てを完璧にこなす……そう、一言で言えば完璧な子だった。


僕はそんな彼女に一ヶ月ほど前から避けられている。


原因はわかってる。あの日オリヴィアが生徒会に入ることが決まった日の帰り道でのことに決まっている。

オリヴィアがあそこまで感情を表に出した姿を見たのは初めてだった。

しかもそれが自分の軽薄さのせいと気づいてあの日の夜はやってしまったという気持ちで中々寝付けなかった。


ライラに話があると言われていた事と無視をされたショックのせいですぐに追いかける事が出来なかったが、やはり今すぐ追いかけて謝らなければ...


...そうしなければもう二度と会えない気がする………!


ライラには謝って話は後日にしてもらおうと振り返ろうとした時、今まで黙っていた(黙らされていた)ユーベルが口を開いた。


「ふん、相変わらず失礼な女だ。ルーカスが呼んでやったと言うのに振り返りすらしないとは。おいルーカス、やっぱりあいつとは婚約破棄した方がいいぞ!」


「ユーベル、馬鹿な事を...」


「あら、私はむしろ清々しましたけどね。この最低男のこんな滑稽な姿が見られて」


先程のオリヴィアが部屋を出た際の様子にユーベルは怒っているようでそれをたしなめようとした時、横からいきなりライラから嘲りの言葉が飛んでくる。


「どういう意味だ」


「どういう意味もなにも、そのまんまだけど?なんなら付け足してあげましょうか?貴方みたいな男にオリヴィアちゃんは勿体ないって」


「おい、口には気をつけろ。」


どこか剣呑な雰囲気を纏ったライラに何故かユーベルが噛み付く。


睨み合う二人を余所に考える。

ライラが何故こんなにも僕に強く当たって来るのか分からない……いや、彼女はオリヴィアに僕は勿体ないと言った。つまりライラはオリヴィアとなにか僕の話をしたのか?

もしかしたら、オリヴィアが僕に対しての不満をなにか漏らしたのかもしれない。それならそれをライラから聞き出しえ改善すればオリヴィアに謝る際の糸口に繋がるかもしれない。


「ユーベル落ち着け。それよりライラ、オリヴィアから僕の事を何か聞いたのか?聞いたならなんて言っていたか教えて欲しい」


「オリヴィアちゃんから貴方の話は何も聞いてないわ。私が聞いたのはオリヴィアちゃんの話だけよ」


「なら一体何をそんなに僕に怒っているんだ?」


オリヴィアが何も僕のことを話していないなら、そこまでライラが僕に怒ってる意味がわからない。


「私からも聞きたいんだけど、貴方オリヴィアちゃんの事どう思ってるの?」


どう思ってるか?そんなことわざわざ言わなくても知っているだろ。


「大事な婚約者だ。」


「大事...ね」


一々含みを持ったように喋り、腕を組むライラに少しばかり苛立ちを覚える。こっちはすぐにでもオリヴィアを追いかけたいというのに。


「言いたいことがあるならさっさと言ってくれ」


苛立ちを見せないように一つ息を吐いて落ち着いて話す。しかし、それも次のライラの一言で無意味になる。


「じゃあはっきり言うわ。貴方オリヴィアちゃんとの婚約は破棄しなさい。あの子は家うちで...シュバリエ家が貰い受けるわ」


「は?……ふざけるな、そんなこと許すわけないだろ!」


あまりにもふざけた事を言うライラに、一瞬思考が停止してしまったがすぐに我に返りライラを睨みつける。しかし、ライラはそんな僕に怯むことなく、それどころか近づいてくると僕の真正面に立つ。


「ふざけるな、それを言いたいのはこっちの方よ。ルーカス、あんたがまさか婚約者を蔑ろにしてるなんて夢にも思わなかったわ。しかもあんなに良い子を」


……は?


「蔑ろ……?何を言って...」


「まぁまぁ、落ち着きなよ二人とも。ライラも、いきなりそんなこと言われても僕達には話が見えてこないんだ。ちゃんと説明してくれ」


睨み合う僕とライラの間にポワリエが割って入る。

ポワリエによって僕とライラは強制的に距離を取らされる事になりライラの方はアメリアが宥めていた。そのお陰でカッとなっていた頭が少し冷えた。

一つ息を吐いて自分を落ち着かせると、ライラを宥めていたアメリアが口を開いた。


「あの、私も聞きたいことがあるんですけどいいですか?」


「あ、あぁ」


「それじゃあ、ルーカス様が最後にオリヴィアさんと話したのはいつですか?」


「……君と一緒に初めて生徒会室に来たあの日だ」


「大体一ヶ月以上前ですね。どうしてそんなに会ってないんですか?」


「………あの日の帰り少しオリヴィアを怒らせてしまってそれ以来避けられているんだ。」


自分で言ってて悲しくなる。なにが悲しくて古くからの友人や新しい後輩の前でこんなことを言わなければならないんだ。


「それじゃあその前は…………いえ、ルーカスさんが最後にオリヴィアさんと婚約者らしい会話をしたのはいつですか?」


真っ直ぐと僕の目を見ながらそう問いかけてくるアメリアに「それなら」と答えようとしたところで言葉に詰まってしまう。


………………あれ?


そういえば最後にオリヴィアとお茶会をしたのはいつだった?

確か、学年が変わる際の長期休暇の前に一度して、そこからは色々あって忙しくてお茶会はしていなかった。


…………いや、そもそも...いつから僕はオリヴィアとお茶会でしか会わないようになったんだ?

幼い頃はもっと……


遅れて気づいた自分の過ちに全身の血の気が引いていくのを感じた。


急に顔色の悪くなった僕をライラは驚いたように見る


「は?あんたまさか無自覚だったの?」


ライラのその言葉に僕はゆっくりと頷くことしか出来なかった。そんな僕の様子を見たライラは呆れたような顔をしながら頭を抱え込む。

その横では常に余裕の笑みを絶やさないポワリエですら目元を手で覆い隠し空を仰ぎみてる。


……本格的にこんな所にいる場合じゃなくなった


急いで部屋を出て廊下を走ってオリヴィアを追いかける。後ろの方から「ルーカス?!」と叫ぶ声が聞こえるが今はそんなこと気にしていられない。


オリヴィアが部屋を出てから二十分程度が経っていた。急がなければオリヴィアが寮に着いてしまう、そうなればまた暫くは会うことが出来なくなってしまう。


走りながら一体いつからオリヴィアと会う機会が減っていたのかを考える。僕達の婚約は生まれて直ぐに決まったもので交流は幼い頃から沢山あった。

それこそ、僕が十歳くらいまではよく彼女と遊んでいた記憶がある。

あの時は、婚約者というのがよく分からなくてオリヴィアの事は妹のように思っていた。


『貴方、オリヴィアちゃんの事どう思ってるの?』


ライラに言われた言葉がフラッシュバックする。


大事な婚約者だ。

そう答えたのは自分だ、そこに偽りはない。

だがそれは、妹として大事に思ってるのか?

……いや、昔はそうだったが今は違う。



急いで走り学院の校門を出た後、意外とすぐにオリヴィアを見つけることができた。


オリヴィアは道脇にあるベンチに横をむくように座っていてこちらに背を向けている状態で僕がいることにはまだ気づいていない。

オリヴィアがこっちを見る前に、乱れた髪や服を整えて話しかけようとした時、オリヴィアの向いている方に人がいることに気づいた。


しかも、その人物は男だった。


あのオリヴィアが歳の近い男と話している。

楽しそうという訳ではないが、かと言って取り繕ってる様子もない自然体で……


しかもあろうことかオリヴィアの隣に座っている男はオリヴィアに直接手でお菓子を食べさせた。


あまりの出来事に呆然とその場で立ち尽くしていると、オリヴィアの隣に座っている男と目が合う。


彼は……ジョルジュ・クワイン?


直接話したことは無いが、生徒会の仕事柄生徒の書類を目にする事が多く、特に優等生や問題児の名前と写真は見る機会も多いため覚えてる人物も少なくない。

ジョルジュ・クワインもそのうちの一人で問題児として記憶している。


僕がオリヴィアに用事があると悟ったのか、彼は立ち上がるとオリヴィアに別れの言葉を残して去っていった。

その後、僕は何とかオリヴィアの許可を貰い隣に座ることができた。


謝らないと、その気持ちはある。


しかし、どうしても先程のジョルジュのことが気になってしまう。いつから仲良くしているのか、普段からこうして会っているのか...一度気になってしまうとどうしても考えてしまう。


…………謝る前に、軽い世間話として聞いてみよう。


「...彼とはよく会うのかい?」


「……いえ、別に約束をしている訳では無いので」


「そうなんだ、よかった……オリヴィアが他の男と喋ってるのは初めて見たから驚いたよ。」


言い終わってから、しまったと思った。

これではまるで不貞を疑っているようではないか。

それはオリヴィアにも伝わってしまったのか、オリヴィアの声のトーンが少しだけ下がる。


「……疑ってるんですか?」


「いや、すまない。そういう訳じゃないんだ」


「……私だって話しかけられれば答えるくらいします」


オリヴィアは顔を背けながら答えた。

しかし、その一言が妙に僕の心に突き刺さる。


「話しかけられたら答える……か。それは僕に対してもかな?」


自分の思っていた以上に低い声が出てしまう。僕の声を聞いたオリヴィアは背けていた顔をぱっとこちらに向ける。


そういえばこうやって面と向かって喋るのも久しぶりだな、なんて考えているとオリヴィアの口が小さく開く。


「どういう、意味でしょうか」


「いやなに、オリヴィアは婚約者の僕にもそんな感じだよね。僕が話しかけてそれにオリヴィアが淡々と答える、僕達のお茶会はいつもそうだったなって」


こんなことを言いたいわけじゃない……


「僕と話すのはつまらないかな?いっつも黙ったままお茶してたよね?」


そうじゃない……!

オリヴィアが僕と会話をしなくなったのも、次第に会う頻度が少なくなったのも全ての元凶は僕だった。

幼少の頃、僕はオリヴィアの事を妹のように思い沢山の日々を彼女と過ごした、しかし教育が始まると彼女は可愛い妹からどんどんと大人の女性へと変わっていった。

いつしか、立派な女性へと成っていた彼女にどう接したらいいのか分からなかった僕は自身の勉強や剣の稽古で忙しいことを理由に彼女と会うのを避けていた。

そしてそれを忘れて、会うのは元々このくらいの頻度だったと錯覚していた。


避けていたのはオリヴィアじゃない……全て僕だったんだ……


謝りたい。

そう頭では思ってるのに口が勝手に動いてしまう。


「オリヴィアにとっては僕も他の男達と変わらない存在って事なのかな?」


やめろ、そんな訳がない!


オリヴィアが僕を慕ってくれているのは、誰よりも僕がわかってるじゃないか!

たとえ会う頻度が落ちていても彼女の僕を見つめる瞳にはいつだって熱が籠っていて、そんな君に応えたくて僕はたくさんの努力をしてきたんだ!


「そ…んなこと……」


僕の言葉に俯いてしまったオリヴィアは、悲しいのかそれとも悔しいのか両手を強く握りしめていた。


「ねぇ、オリヴィア」


やめろ……!


……それ以上は言うな!


いつの間にか、口だけではなく身体中を思うように動かすことができなかった。

意識ははっきりとあるのに、まるで別の誰かが僕の体を使っているような……


「オリヴィアは僕の家柄が必要なだけで僕の事はどうでもいいんでしょ?」


これが夢ならまさしく悪夢だ。夢なら早く覚めて欲しい……

そうでないなら…止まってくれ……


目の前でオリヴィアの肩が小さく震えている


これ以上……彼女を…

オリヴィアを傷つけないでくれ…………!


何処からかパキッとガラスにヒビが入ったような音がした。僕から聞こえたものかそれともオリヴィアから聞こえたのか……


オリヴィアが俯いていた顔をゆっくりと上げる。

彼女が今どんな顔をしているのか見るのが怖くなった。それでも自由の効かない僕の体はオリヴィアから目を逸らさない。


……顔を上げたオリヴィアの瞳にはもう何も映ってはいなかった。

オリヴィアはそのまま直ぐにその全てを諦めたような顔でただ一言僕に願った。


「私との婚約を解消して頂けませんか」


「そっか、じゃあ…」


それ以上は……絶対にダメだ!!!


バキッ、バキキ…バキン!


自分自身に叫ぶように動かない口のまま否定を叫ぶと、頭が割れるような音が辺り一帯に響き渡った。その瞬間、激しい頭痛が僕を襲った。ただそれと同時に思考が軽くなり、身体が自由に動くことを瞬時に理解した。


身体が動く!自分で喋れる!

だとしたら、僕が今するべきことは……!


隣で絶望を宿した瞳を真っ直ぐこちらに向けているオリヴィアの両肩を勢いよく掴んだ。


「…きゃっ!?何を………!」


「オリヴィアすまなかった!今僕が話したこと……いや、今までの僕のことは忘れてくれ!」


突然の僕の変わり様にか、いきなり両肩を掴まれた事にか、それともその両方に対してかオリヴィアは驚いた顔をする。

そのお陰でオリヴィアの瞳に光が戻る。


「婚約破棄はしない……絶対に。それからオリヴィア今度一緒に街に行こう」


「……………………………は、ちょっと……え?」


僕の言ったことに思考が追いついてない様子のオリヴィアの顔が次第に赤くなっていく。


「デートに行こう、オリヴィア!」


赤くなった愛しい婚約者を見ながら僕はその日誓った。


もう僕は何があってもオリヴィアを幸せにする事を諦めない。

逃げたりしない

遅くなってしまい申し訳ありません。



今回も読んで頂きありがとうございます。

どんな評価、感想でも励みになりますので良ければお願いします。


ブックマークもして頂けるとちょて頑張れるので何卒ーーm(_ _)m

次回も是非よろしくお願いします( ´ ▽ ` )

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