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私だって、できることなら愛されたかった  作者: 負けうさぎ


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私の人生に私の物はたった一つしか無かった。


生まれて直ぐに親に決められた婚約者に、パーティーに出席する時に家柄を見くびられないための装飾品、私とは席を一つ隔てた場所に座るクラスメイト、いつか別の女を好きになり婚約破棄を告げる婚約者、そして、あと数ヶ月しかない私の未来。


全てを自覚しても尚、全く揺るぐこともなければ薄れることもない貴方への気持ち。


それだけが私をここまで生かしてくれた。


お父様に敷かれたレールを進むのがどれだけ辛くて、痛くて、寂しかったって、貴方と未来を共にする為ならと頑張れた。


貴方がそのうち婚約破棄を告げてくると知って、どれだけ心が張り裂けたように傷んでも、せめてその時が来るまで貴方の婚約者でいようと私らしく居られた。


愛しい貴方を奪う女だとしても、貴方の未来の幸福になるならと協力することもできた。


例え……………私の最後に絶望と苦痛しかないとわかっていても生きてこられた…。


選ばれるのが私じゃなくてもいい

私を嫌ってもいい

苦しいのも、痛いのも、寂しいのも、もう慣れたから


だから……それだけは…


私の気持ちだけは、疑わないで欲しかった。


婚約破棄をすれば私の人生は近いうちに終わる。だけどそんな事はもうどうだってよかった。

私の人生の全てと言ってもいい貴方に、この気持ちを疑われて…無かったものにされたなら私の人生なんて存在しないも同然だから。




だからこそ、私は自分で終わらせることを選んだ。


「私との婚約を破棄していただけますか?」


どうせ遅いか早いかでしかない、いずれ来る運命なのだから。

違いは貴方から言うか、私から言うか。

貴方にとっては些細な違い。



それなのに……


そのはずなのに……


「婚約破棄はしない、絶対に」


どうして……?

貴方が望んでいたことじゃないの?


「デートに行こう、オリヴィア!」


どうして、こんなことになっているの………



私の肩を掴んだ手からは熱が伝わってきて、でもその熱の正体に覚えがある気がするのに分からない。ただ、その熱が私の体温をぎゅんと上げていく。


ち、近い……


真正面から私を見るルーカス様の顔が近すぎて目を背けたいのに逸らせなくて。


「……はぃ」



結局、情けないくらい小さな声を出すことしか出来なかった。






「……ィアさん?オリヴィアさん」


「……ぁ、はい。ごめんなさい、少しぼーっとしてました」


「大丈夫ですか?体調が悪いんじゃ…」


「平気です。それよりこことそこ間違えてますよ」


「あぅ……えっと」


問題用紙と向かい合うアメリアに幾つか指をさして指摘をすると、指摘された場所をゆっくりと書き直していく。


あの日のことを思い出してたせいでぼんやりしてしまっていたみたいね。

……結局、あの後はルーカス様に寮まで送ってもらったけど、帰り道で何を話したのか全く覚えていないのよね。


私とアメリアは今、私の部屋で隣合うように座って勉強している。

正確には、私の部屋で私に教えられながらアメリアが勉強している。

ルーカス様に街へ行こうと誘われてから三日、あの日伝えた通りダンスのレッスンはルーカス様が、座学の幾つかは私が受け持つことになり、今はその座学のうちの一つを勉強している。


「出来ました。どうですか?」


それからやや時間が経った後、アメリアが問題用紙を私に見せるように差し出してきた。

間違いがあれば気づいた時に指摘していたので、今見た感じでは間違えているところは見当たらない。


「問題ないですね。それじゃあ今日はもう終わりにしましょう。」


私の一言に気が抜けたのかアメリアは座ったまま大きく腕を上にあげ背を伸ばす。


「ふー、疲れました。もうこのまま寝てしまいたいです」


「行儀が悪いですよ、自分の部屋に帰ってから寝てください」


「わかってますよぅ、冗談です」


腕を上に伸ばしたままだらりと机の上に突っ伏した姿勢で話すアメリアを叱責していると扉がノックされ、すぐに開いた扉からユラが入ってくる。


「もう終わられたんですね。お茶でも用意致しましょうか?」


ユラは私達が勉強してる間、寮母の手伝いに行っていた。


「そっちの手伝いはもういいの?」


「はい、元々大した量ではないですし私にとってはオリヴィア様のお世話が最優先てすから。それで、お茶は如何されますか?」


「そうね、じゃあ一杯貰おうかしら。アメリアはどうしま…」


「わ、私もいいんですか?じゃあ貰ってもいいですか!」


アメリアがやや食い気味に答えてくる。


「……眠たいのではなかったんですか?」


「はい!なので紅茶を飲んで眠気を覚まそうかと!」


およそ眠気を感じさせない声で答えるアメリアにため息を着いて、ユラに紅茶を二杯分頼む。

ユラが紅茶の用意をしている間に、私とアメリアは勉強に使っていた筆記用具や教本を片付ける。

片付けも終わり、テーブルの上を整えた辺りで部屋の中に紅茶のいい香りと、いつの間に用意していたのかお菓子の甘い香りが漂い始めた。


「わぁ、いい香りですね。お菓子も美味しそうです」


「今日はオリヴィア様に頂いた焼き菓子を参考にして、ハーブを使ったサブレにしたので紅茶は甘めにしてますので」


言われてみれば、甘い香りと一緒にほんのりと爽やかな香りもする。

ジョルジュに貰った焼き菓子の入った缶ケースは、そのまま貰った日にユラにあげた。

手渡した後、ユラに「これはどうしたんですか?」と聞かれ「知人に貰った」と答えたら「ご主人が知人からお菓子を……!!」とわざとらしく口元に手を当てて感動したようなリアクションを取られたことを思い出す。


あの時の私は、急変したルーカス様の態度のせいで頭がいっぱいでそれに反応する余裕はなかったけど、思い返すと中々に失礼な事を言われてたわね


「頂いたものは少々甘さが強かったですが、その点は調整しましたのでオリヴィア様の口にも合うと思いますよ」


そんなやり取りを思い出してムッとしていた私にユラは笑顔でそう言う。

………まぁ、ユラの作る物はお菓子も料理もどれも美味しいからそこは心配してなかったけど。


……本当に


「態度さえ良ければ完璧なのに……」


「どうして、いきなり私は貶されたのでしょうか?」


ボソッと呟いた私の一言に、ユラはムッとした表情をする。そこで私とユラのやり取りを見ていたアメリアが声をあげる。


「やっぱり、オリヴィアさんってユラさんと話してる時だけが自然体っぽいですよね」


「いきなりなんですの?」


そんなの当たり前じゃない。ユラは昔から私のお世話をしてくれたほとんど家族の様なもの、私だって自分の部屋でくらい気は抜いている。誰だってそうだと思う。


「いえ、その…オリヴィアさんって………」


アメリアは自分から始めた話なのに何故かしどろもどろになる。


「なんですか?言いたいことがあるならハッキリ言いなさい」


「その……オリヴィアさんはどうしてクラスの人達と話そうとしないんですか……?ユラさんと話してる感じで居ればもっと馴染めるんじゃないかなーって……思ったり思わなかったり……ゴニョ」


「あぁ、その事ですか」


何を言いずらそうにしているかと思えば、学院に入った当初に散々周りから言われた事で少し拍子抜けね。


「別にそんな言いずらそうにしなくても結構ですよ。自分が周りからどう見られてるかはよくわかっていますから」


周りの人がどういう目で私を見て、何を言っているのかは嫌という程わかってる。


「だったらどうして……、寂しくないんですか?あんな風に皆から距離を取られたり変な呼称を付けられたり……オリヴィアさんから話してあげれば皆も……」


そう言いながら、まるで自分の事のように悲しそうな顔をして目を伏せるアメリア。

純粋、という言葉がこれ程似合う者もいないだろうと思う。

他人事にここまで憂いを持てるなんて、きっと彼女のこういう所もルーカス様が好んだ理由の一つなんでしょうね。


だけど、誰もがそれでやっていけるほど貴族の世界は甘くない。


だからこそ


「今の貴女には話しても分かりませんよ」


「……え?」


「貴方のそういう考え方を否定するつもりはありませんが、私には私の考え方があるのです。貴族の世界がどういうものかも知らない貴方に説明できるほど簡単なことではないのですよ」


「………」


「何も知らないまま、ろくに考えもせず自分の考えを無闇矢鱈に言うのは辞めておきなさい。不用意な発言で足元を掬われるのも貴族の世界ですから」


アメリアは私の言葉に悲しそうな、それでいて何処か悔しそうな顔をして後ろで隠した両手を強く握っているのが見える。


「……今日はもうお開きにしましょう。お菓子は包みますので持ち帰ってぜひ召し上がってください。ユラ、お願い」


「かしこまりました」


ユラはすぐに綺麗な紙袋を用意し、焼き菓子を詰めていきリボンで結んで袋を閉じる。

私はユラからお菓子の入った紙袋を受け取りそのままアメリアの前に差し出す。


「もし不快に思われたのならごめんなさい。ですが、これも貴族として知って……っ!!」


そこまで言ったところで、私の言葉を遮るようにお菓子の入った紙袋を渡すために差し出していた手をアメリアによって強く掴まれる。


……びっくりした

危うく袋を落としてしまうところだったわ……。


突然のアメリアの行動に私の両肩は飛び跳ね、全身が硬直してしまった。

しかし、そんな私の様子など知らないとばかりに私の手を掴んだままアメリアが顔を上げて口を開く。


「私、やっぱりオリヴィアさんに先生を頼んで良かったです」


「……はい?」


先ほどとは一転してキラキラとした目で私を見るアメリアに困惑してしまう。


「私、今日は帰りますね。それからお菓子ありがとうございます!ユラさんも頂きますね」


「はい。良ければ次回、感想をお聞かせください」


「分かりました!それじゃあ、オリヴィアさんユラさんおやすみなさい!」


いつの間にか私の手からお菓子の入った紙袋を受け取ったアメリアは素早い動きで私達に頭を下げた後、部屋から出ていった。


アメリアが出て行った事で部屋の中はシーンと静まり返る。

私も事態に着いていけず、ぽかんとしているとユラが後ろから一言。


「……良い方ですね 」


いい子…ではあるのでしょうけど何を考えてるのかさっぱり分からないわ……


アメリアの態度が一転した理由も、足早に部屋から出て行った事の意味もわからず、分からない事ばかりでついため息を零してしまった。


「はぁ、一体なんなの?」


今回も読んで頂きありがとうございます。

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次回も是非よろしくお願いします( ´ ▽ ` )

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