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私だって、できることなら愛されたかった  作者: 負けうさぎ


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15/17

15

「ルーカス様…………」


突然、目の前に現れたルーカスにオリヴィアは動揺を隠すことが出来なかった。

ルーカス様は驚いたように視線をアメリア、ライラ様、私の順へと移していく。

というのも、ルーカスと会うことは生徒会に呼ばれたあの日以来だが、実はルーカスからは何度か会えないかという打診がユラや寮の管理人越しに来ていた。しかし、オリヴィアはそれらに対して体調が優れないからと言ったり、予定がある等と言って毎回断っていた。その理由は単純にルーカスに会うのが怖かったからだった。

ルーカス様に怒りをぶつけた後、オリヴィアは五日間にわたってかなりの高熱のせいで病床に伏すことなった。当然その間ずっと眠っていたわけはなく目が覚めている時間もそれなりにはあった。そして、その目覚めている時間に頭の中にあったのは後悔だった。


オリヴィアは婚約破棄は免れない運命だったとしても、出来ることなら円満に別れたいと考えていた。

そうすれば、きっとあの夢で見たようなルーカス様の冷たい目も周りからの嘲りの視線も向けられなくて済むから。


ただ、それなら尚のことあの日の振る舞いは悪手という他なかった。


夢の中でルーカス様に婚約破棄される時期は決まっている訳ではなかった。大体は卒業パーティでだったけれどそれより早く婚約破棄されることだってあった。


あの時の勢い任せの行動のせいで展開が早まるのではないか……ルーカス様を怒らせてはいないか……そう考え出してからはキリがなかった。


普段なら多少なりとももう終わった事だと切り替えることが出来る物も、あの時ばかりは熱のせいもあって思考は深く沈んでしまっていた。

その時の思考と気持ちが、ルーカス様に面と向かって会うという状況から私を遠ざけた。


もちろん、いつまでも避け続けることが出来ないことは重々承知していたし、数分前にもアメリアのダンスレッスンの件もあるからそろそろ謝罪しに行かなきゃと考えていた。とは言え、このタイミングは最悪だった。忙しい、体調が優れないとルーカス様の誘いを断っておいて、まさかライラ様とアメリアの二人とお茶会してる時にばったり会ってしまうなんてオリヴィアにも想定外だった。


よりにも寄って、どうしてこんなタイミングで…………!


手のひらに滲む汗に気づかれないよう、ルーカス様から視線を逸らしたままぬるくなった紅茶の入ったカップを握る手に力が入る。

そんなオリヴィアの隣から部屋に現れた男子三人組に避難の声が上がる。


「ちょっと、レディのいる部屋に勝手に入ってくるなんて余程の理由があるんでしょうね?」


ライラ様は先程までの様子とは打って代わり目を細め不機嫌を顕にしながら三人を睨みつける。


「使ってるとは思わなかったんだよ。別にそんな怒ること無いだろ」


ただ、ユーベル様はそんなライラ様の様子を気にすることなく頭の後ろで手を組みながらあっけからんとそう答える。その返答にライラ様はさらに目を細める。その事にいち早く危機感を持ったのはルーカス様だった。


「いや、ライラの言う通りだ。すまなかった、すぐに出ていくから許してくれ」


「あら、私は謝罪を求めてるんじゃなくて勝手に入ってきた理由を聞いてるのだけど?それも答えずに許す許さないもないでしないでしょう」


「普段俺達以外にこの部屋を使う人がいなかったから掛札を見ていなかった」


「何のために使用中の掛札があるのかしらね」


「…………」


流石、王国屈指の商人だけあってライラ様より爵位が上のルーカス様を淡々と詰めていく。

ちなみにユーベル様はなにか言おうとしていたが、それを察知したリーヴェル様に後ろから羽交い締めにされながら口元を抑えられていた。

ルーカス様は反論をすることができず困った顔をし、アメリアはこの状況についていけないのかライラ様とルーカス様を交互に見ながらオロオロとしている。


はぁ、仕方がないわね…


「ライラ様、もうそのくらいにして差し上げてください。誰だって間違えることはありますから」


本当は私も黙ったままでいたかったけど、そうしたら状況がまったく進まなさそうなのでルーカス様達に助け舟を出す。しかし、それでもライラ様の表情は変わらず鋭いままだ。


「そうね、オリヴィアちゃんの言う通り間違えるのは仕方がないわ。でも、私としてはせっかく楽しい時間を過ごしていたのにそれを邪魔しておいて、何の補填も無いままというのは商人として見過ごせないわね」


見過ごせないと言っても、ルーカス様達は間違えて部屋に入ってしまっだけで、別に重要な話をしていた訳でもなく何か被害があった訳でもないんだから謝罪はまだしも補填は大袈裟だと思う。

ただ、それを伝えたところでライラ様が引き下がるとは思えないので少しだけ考えて一つ条件を出してみる。


「それなら、次回私達がお茶会をする時のお菓子を御三方に用意しておいて貰うというのでいかがです?非があるのは認めてくださってますし……その位はいいですよね?」


ライラ様の怒りを収めるのに協力してるんだからそれ位はいいですよねという目でルーカス様達の方を見ると、ルーカス様とリーヴェル様の二人はコクコクと頷いていた。ユーベル様は口元を抑えられているせいか、不満なのか頷くことはなくムスッとした目元だけが見える。

ライラ様は条件に満足したのか先程の鋭い表情から一転、嬉しそうに私を見る。


「まぁ!ということは次のお茶会も参加してくれるのね!」


「え…………はい」


え、そこ?

予想外の所で喜ぶライラ様に、一瞬言葉が詰まるけどすぐに肯定する。私達と言ったのは特に何も考えていなかっただけで、次も参加するという意思はなかったけど、ここでそれを否定すればまたライラ様の機嫌がまた悪くなりそうなので了承する。


「それなら、ここはオリヴィアちゃんに免じて許してあげましょうかね。それにどうせもうお開きの時間だったし。アメリアちゃんもそれでいいかしら?」


「え、あ、はい!私は大丈夫です!」


アメリアは自分に話が振られるとは思っていなかったようで、若干挙動不審になりながら答える。ライラ様は先程までの鋭い雰囲気が嘘のように柔らかくなる。

それを感じ取ったリーヴェル様がユーベル様を抑えていた手を話近づいてくる。


「オリヴィアちゃんも気を使わせちゃってごめんなさいね。」


「いやー、本当に助かったよオリヴィア嬢。」


「いえ、私が勝手に話に入っただけですから。それにお菓子の件も勝手に決めて申し訳ございません」


お菓子くらいなんてことはないだろうけど、一応相談無しに決めてしまった事を謝罪しておく。


「いや、寧ろそれだけで済んだことに驚いてるくらいだからその点は気にしないでくれ」


リーヴェル様からの許しも得た事だし、これ以上私が言うことはないわね、と思った時、ふとアメリアのダンスレッスンの件を思い出す。後々ルーカス様に相談する予定だったけど、今ここで言うのが丁度いいかもしれない。ルーカス様から許可が貰えた後はリーヴェル様にも許可を貰いに行くつもりだったのでその二人とアメリアがいるこのタイミングが最も適してる。


「あの、ご相談があるのですがよろしいでしょうか」


「ん?なんだい?」


「アメリアのダンスレッスンの件についてですが……」


それから私はアメリアのダンスを私一人で見続けることに限界があるためそろそろ次の段階の為にルーカス様にアメリアのダンスを見て欲しい事、必要なら座学を幾つか受け持つことを提案した。

その結果は、


「うん、教えてる君が言うのだからそれでいいと思うよ。座学の一部を肩代わりするという事でルーカスの事もしっかり考えられてるし二人もそれで構わないかい?」


リーヴェル様の問いかけにルーカス様とアメリアの二人が頷き了承する。

よかった、これでまた後で許可を貰いに行く必要が無くなった。


部屋の雰囲気もすっかりお茶会という感じでは無くなったので今日は解散ということになった。

元々いい時間ではあったしこのまま結果だけを見ればルーカス様達が部屋に入ってきてくれていい方向に進んだ。

使ったカップ等を部屋の端に纏めて片付けをする。ライラ様やアメリアはリーヴェル様に話があるからと引き止められていた。その上幸いな事にライラ様が用事があるとルーカス様を呼んでいた。

部屋の片付けをしている時からチラチラとルーカス様から視線を感じていたから、この後呼び止められるんじゃないかと思っていたけど杞憂で済みそうね。


いつかはちゃんと謝らないといけない...それが婚約破棄を告げられる日だとしても。

そんな事はわかってる、わかってるからこそ心の準備はさせて欲しい……。

下手に部屋にいて話しかけられてもいいことは無いのでさっさと一人部屋を出る。


「それでは、申し訳ないですがお先に失礼します」


扉の前で頭を下げるとライラ様やリーヴェル様はヒラヒラと手を振り、アメリアは軽く頭を下げる。それらに対してもう一度軽く頭を下げドアノブに手をかける。


「あ…………」


部屋を出る直前、オリヴィア……と私を呼ぶ声に肩を震わせ無いように、聞こえない振りをしながら私は急いで部屋を出た。

部屋を出てしばらく足早に歩き学院の校門を抜けた道端で足の力が抜けその場に蹲る。


やってしまった……

不自然……だったわよね。まさかあのタイミングで呼ばれるなんて思ってなくて、つい聞こえていないフリをして出てきてしまった。

まさかあれで聞こえてないなんて誰も思わないわよね……

はぁ、だってまさかあんな部屋を出るタイミングで話しかけられるなんて思わなかったんだもの…


そんなふうに道脇で蹲りながら一人で反省と自己嫌悪を繰り返していると、頭上から聞き覚えのある声がする。


「そんな所でしゃがんでどうしたの?なにか面白いものでもあるの?」


道脇で女性が一人で蹲っているというのに、そんな気の抜けたことを言ってくる人物を私は一人しか知らない。


「……女性が蹲っているのですから、まずは体調を心配した言葉を掛けるのが普通ではないですか?」


「しーちゃん体調悪いの?」


「いえ、私は何ともないですが」


「じゃあ、いいじゃん。それで、何見てたの?」


顔を上げて声の持ち主を見ると予想通りの人物がそこには立っていた。


「別に何も見ていません。少し疲れたので休憩していただけです。それより、どうしてあなたがここにいるの。ジョルジュ」


もう学院の授業の時間はとっくに過ぎてるのに。そう問うと彼はヘラヘラと笑う。ジョルジュ・クワイン。クワイン家の息子で何故か私をしーちゃんと呼び近づいてくる変わり者。


「先生に呼ばれちゃってね、居残りさせられてたんだ。でもちょうど良かった、休憩するならそこにベンチがあるから座ろうよ」


ジョルジュは少し先にあるベンチに向かって指をさす。


「……いえ、もう休憩は十分取りましたので私は先に失礼させてもらいます」


「えー、あそこで一緒に休んでくれないと、しーちゃんが呼んでた本のこと話しちゃうかも」


「………」


にんまりとした表情でそう言った彼にもう何を言っても無駄だと察した私は諦めてベンチに座ることにした。ジョルジュは私が座った事を確認した後、方が触れそうな程の距離で横に腰掛けた。


「貴方は男女の適切な距離感を学んだ方がいいわ」


「俺としーちゃんの仲だし気にしなくていいじゃん」


「貴方と私がいつどこでどんな仲になったと言うのですか」


「俺の口から言うのは恥ずかしいんだけど」


その言葉と全く合っていない清々しいまでの笑顔に再び何かを言うのを諦めてため息をつく。

ライラ様やリーヴェル様との会話はこちらの事を見透かしているような感じがして苦手だけど、この男のと会話は別の意味で苦手だ。


「それより、何か用があったのではないんですか?」


先程この男はちょうど良かったと言った。つまり私に何か用があったのだろう。


「あー、それね。ほらこの前ハーブを使ったお菓子の話をしたじゃん?気になったから買ってみたんだよ」


ほら、とジョルジュが差し出したのは表面にクッキーと植物の書かれた缶だった。


「わざわざ買ったんですか?」


「一昨日街に降りた時、たまたまあったんだよ。それでひとつ食べてみたんだけど結構味が独特なんだよね」


「はぁ」


まぁ、ハーブを使ってるんだから普通の菓子より風味は強いと思う。

ジョルジュが缶の蓋を開けると、ハーブ特有の爽やかなでもほんのり甘い香りが漂ってくる。

すると何故かジョルジュは缶からクッキーを一つ摘まむとそれを私の口元に近づけてきた。


「ほら、食べてみてよ。あーん」


「あ、あーん?ちょっとやめなさい」


「いいから、ほら」

そんな子供じみた事出来るわけがない。近づけられたクッキーを避けるように上半身を逸らしたものの、さらにジョルジュによって口元にクッキーを近づけられる。


「ジョルジュ・クワイン、こういうはしたない行いはっっ......!!」


口元にクッキーを近づけてくるジョルジュを咎めようと口を開いた所に、ジョルジュがクッキーを放り込んできた。


「隙あり!どう?しーちゃんは好き?」


ハーブの強い香りとそれに負けないくらいの甘さが口の中に広がる。

口の中に食べ物を入れた状態で喋る訳にもいかず、言葉の代わりにジョルジュを強く睨みつける。

しかし、当のジョルジュは気にした様子もなくヘラヘラと笑っている。

もうこれ以上何を言っても無駄だと悟った私は諦めて口の中にあるクッキーを味わった。


「ねぇ、どう?」


「女性は好きな人が多いと思いますよ。」


私はあまり好きではないけど。

食感はサクサクしていて、香りもいいけどやや甘さが強いため甘いものが好きな方ならいいかもしれない。

わざわざ貰ったものにケチをつけるのもアレなのでそこまでは言わず、美味しいと思いますと伝える。

するとジョルジュはクッキーの入った缶を私に渡してくる。


「そっか、ならこれあげるよ。俺あんまり好きじゃないし」


「はぁ、ありがとうございます?」


私が美味しいと言ったから気に入ったと思った見たいだ。まぁ、ユラにあげれば喜ぶかな?と考えながら缶を見ていると突然ジョルジュが立ち上がる。


「ジョルジュ?」


「それじゃあ、俺は先に行くね。本当はもっと喋りたかったけど、なんかしーちゃんに用があるみたいだし」


用がある.....?


ジョルジュが私から私の後ろの方に視線を移す。

私の後ろに誰かいるのかと、それに吊られるように後ろを振ると、視線の先に居たのは、


「…………っ!…………ルーカス様?」


思いのほか近くに立っていた私の婚約者であるルーカス様が驚いたように瞠目していた。


どうしてルーカス様がここに!ライラ様に呼ばれてたんじゃ........というか、先程のやり取りを見られた....?!


焦りと驚きで動けなくなった私を他所に「それじゃあ、またね」そう言って足早に去っていくジョルジュの後ろ姿が見えなくなった頃、ルーカス様の口が開く。


「…………彼はジョルジュ・クワインだね。彼と仲が良かったんだね」


ルーカス様はジョルジュを知っているの?

それに、ジョルジュとの仲は別にそんなに良くない


「……そう見えましたか?」


「あぁ、君が敬称無しで名前を呼んで愛称で呼ばれる事を許してる位には」


「それは…その……不可抗力です」


確かに傍から見ればそう見えるかもしれない。ただ、読んでいた本のことを黙って貰う代わりに許したんですとは説明できないため、歯切れ悪く誤魔化した。えも言われぬような気まずさから視線も徐々に下がりルーカス様を見ていたはずの視線は今や自分の膝元で握った手を意味もなく見続ける。

お互い無言が続き気まずい時間を過ごす中、ぽつりと先に切り出したのはルーカス様だった。


「隣…座っていいかな?」


「あ、はい……もちろんです」


ルーカス様はそのままジョルジュの座っていた位置に、私の横に腰をかける。


何を言われるのか分からない。


…………

...いいえ……本当はわかってる。


だって、夢で見たルーカス様からの最後の言葉は、いつだって同じだったから。

だからこそ、どうしようもなく怖い...


ここ一ヶ月の間に重ねた無礼の数々、どれを咎められても私に反論の余地はない。それに、どうせ私に運命られた終わりは決まってる。


それでも.....どうしても、そこに行き着くまでの過程を見たくなくて……………


そのために、終わりを早めるだけだとわかっていながら...それでも、いざ婚約破棄を告げられてしまうのがどうしようもないほどに怖くて、無礼をしてでもあの場から逃げ出したというのに…………どうやら運命は私を逃がす気はないようだ。

今回も読んで頂きありがとうございます。今月の投稿予定ですが、一旦は引き続き毎週金曜に投稿しようと考えております。ただ、もしかしたら月末にお休み頂くかもしれませんがその時はまた追って報告させて頂きます。



今回も読んで頂きありがとうございます。

どんな評価、感想でも励みになりますので良ければお願いします。気に入って頂けたらブックマークも是非、是非とも〜〜m(_ _)m


次回もよろしくお願いします( ´ ▽ ` )

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