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完璧なクラスメイトに、腋毛と世界が生えていた  作者: 佐竹大地
第四章 俺と不条理な笑い
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第五話 オークが好きだったあの頃

 翌日、教室に入ると草壁の姿があった。部屋から出てちゃんと登校してきているようで、まず一安心。

 しかしやっぱり、暗い。快調に元通りとはいかないようだ。

 自分の席で背中を少し丸めて、ずっと溜息をついている。昨日までの腋毛アピールと真逆のテンションの低さ。クラスメイトたちが不思議そうにしている。俺は理由もわかるから話しかけづらい。

 結局休み時間の会話も、一緒に飯食うこともなく放課後を迎えた。


「おい、帰るか?」

 俺は見かねて、草壁に声をかけた。

 昨日の早退、引きこもりから今、どういう精神状況になって、どんな返事が返ってくるのだろう。


「腋毛とはなにか……ファッション……自分探し……個性……他人との差異……」

 ぶつぶつ呟いてる。怖すぎだろ。


「ループ……世界……輪廻……救い……神……」

 やべー方向に行ってるお経を聞きながら俺達は学校を出て、通学路を歩き、駅についた。分かれるタイミングだ。


「まあなんとかなるって! じゃあな!」

「今日は私、こっちに用がある」

 テキトーに励まして別れようとしたら、俺の後を着いてきた。初めてのことだ。


「用事ってなんだ?」

「ちょっとね」

 そんなことを言いつつ共に電車に乗る。会話はない。黙ったままガタゴト揺られる。

 そして数駅で下車。俺の家の最寄り駅だ。草壁もついてきた。どうやら同じ駅に用があるらしい。

 駅前だけ栄えているような典型的なザコ駅。そこを歩く。草壁もついてきた。どうやら同じ方向に用があるらしい。

 寄り道せず5分ほど歩いたところでマンションが目の前に。入り口にオートロックとかあるが古びた雰囲気。俺の家だ。そこに入る。草壁もついてきた。どうやら同じマンションに用があるらしい。

 狭いエレベーターを降りる。草壁もついてきた。どうやら同じ階に用が……


「ついてきすぎだろ!」

 しびれをきらして、俺はつっこんだ。


「私もこっちだから」

「こっちはもう俺の家しかないからな。なんだ。俺の家に来たいのか?」

「え、いいの?」

「意外そうな顔して聞くな。なんで来たいんだ?」

 草壁は少し考えて、口を開いた。


「世界の真実を知りたいから」

「そんなものは俺の家にはない」

「あなたが私の家に来たんだから私も行って良いに決まってる」

 勝手にキレてるし。

 仕方ない。草壁から本気のオーラが漂ってる。俺は鍵を回して、家のドアを開けた。


「おかえり、あら」

 家に入ると、俺の母親が顔をのぞかせた。俺を女体化してシワを加えたような顔だ。草壁を見て、驚きつつ笑みをたたえる。


「お友達?」

「草壁と申します。突然で申し訳ありませんが、お邪魔します」

 草壁は脱いだ革靴をピシっと揃えて、ハキハキと挨拶をした。ちゃんと正気はあったようだ。そういや一応、完璧とか呼ばれてた人だった。


「これ、つまらないものですが」

 鞄から高級そうな箱を取り出した。最初から俺の家来る気満々のようだった。昨日の俺のように、ネタを仕込んできている。


「あらありがとう。気がきく子ね。なにかしら」

「外側に大量の砂糖が塗ってあるバームクーヘンです」

 完璧な手土産だ。バームクーヘンって結局、外側に大量に塗ってある砂糖が美味いんだよな。

 ……で、なにしにきたんだこいつ。


「俺の部屋は丸まったティッシュとか毛とか落ちてるから、入れたくないんだよな」

 俺は粘る。断固拒否の構えだ。


「構わない。お母様とお話させていただく」

 草壁はあっさり引いた。それはそれで嫌だな。


「お母様、私、無藤君のことが知りたいんです。しかし彼はなにを考えてるのかよくわかりません。だから教えていただきたいのです。なにか、子どもの頃のエピソードとか教えていただけないですか?」

 なんかゾワッとする質問だ。俺は聞きたくないが、母親は話し始めていた。


「うーん、私にもよくわからないのよね。産まれた時にお医者さんにも、なにを考えてるかよくわからない男の子ですよって言われたし」

「元気な男の子以外に言われることあるんですか?」

「あとはそうねえ……昔からずっと逆張りが多かったわね」

 子どもに嫌な表現すんな。


「アンパンマンよりバイキンマンの方が好きだったし、ウルトラマンよりバルタン星人の方が好きだったし、女騎士よりオークの方が好きだったわ」

「最後は逆張りなのか?」

「子どもになにを見せてるんですか」

 草壁の表情が、困惑で曇って行くのがわかる。


「だから続きは君の目で確かめてみてね」

 使えない攻略本かよ。

「は、はい……ありがとうございました」

 草壁の顔に、この親も会話が通じないのかという失望が浮かんでいる気がする。



 その後も無駄な話をして、時間が過ぎていった。

「草壁さん、夕飯食べていく? 今日はほうれん草の丸焼きなんだけど」

「いえお構いなく。切った方がいいと思います……最後にお伺いしたいのですけど」

 草壁は少し躊躇った様子で、口を開いた。


「腋毛とファッションって同じなのでしょうか」

 そんなこと俺の親に聞いてどうするんだ。


「うーん、そうねえ」

 母親は悩んであごに手を当てて言う。


「部分的にそう」

 アキネイターみたいな答えやめろ。


「では本当の自分ってどこにあると思います?」

「だから人の親に聞くなそんなもん」

 母親は少し困った表情を浮かべたあと、言う。


「そういう難しいことは、とりあえず処女喪失してから考えればいいと思うわ」

「息子の女友達に処女喪失とか言うなよ。普通に、常識ある人間として」

「なるほど、ありがとうございます。それでは、お邪魔しました」

 帰る時間になった。玄関で靴を履き替えて、草壁が家の扉を開けて、外に出る。


「また来てね」

「あんまり真に受けるなよ。じゃあな」

 別れを告げる。草壁を見送って俺は一息つく。

 急襲だったがなんとか乗り切った。部屋にも入られなかったし。

 隣で母親が笑顔を浮かべている。めんどいこと言われそうだ。


「彼女、精神不安定で厄介なこだわりを抱え込んでそうだけどいい子ね。離しちゃダメよ」

「見抜いてる感出すのやめろ」


 まあでも、いいか。

 とりあえず安心した。元気そうだったからだ。

 変なことに悩んで変な行動をするのは、いつも通りだろう。そんな草壁が戻ってきたとも言える。

 これからはまた日常だって、希望的観測があった。

 しかし、そんなことはなかった。

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