第六話 極限状況はどこにある?
翌日の草壁はため息もつかず、パッと見は前よりまともそうだった。
「無藤、今日の放課後は空いてる? といってもどうせ空いてるのはわかってる。私は行きたいところがある。なので行く」
俺と目があった途端、声をかけてきた。予定を速やかに決められていた。強引だが、元気なのは何よりだ。
「なあお前ら、昨日もどっか行ってたよな」
三田が割って入ってきた。俺の家に来たとか、バレるといじられそうでめんどいな。
「ええ。昨日は無藤の母上と話した」
普通にバラされたし。
「そ、そうなのか……てかよく考えたら、前からずっと、お前ら毎日一緒に帰ってるよな。あまりに自然だからつっこまなかったけど」
「今更だが、そうだな」
普通に帰ってたわ。もはや途中から、というか最初から全然隠す気なかったな。
「……ずっと気になってたんだけどさ」
三田は神妙そうな顔つきで、俺と草壁を見て、言う。
「二人、付き合ってんのか?」
その言葉にクラスがちょっと静かになる。みんなが聞き耳を立てているのがわかる。
「はあ……」
俺はため息をつく。何回聞かれるんだこれ。伊達先輩にも等々力にも聞かれた。今まではボケて乗ってやってたが、いい加減スッパリ否定したい。
草壁がふぅっと息を吐いて、口を開く。否定してくれるのだろう。
「ええ。私は無藤と、付き合ってる」
「「「「え?」」」」
三田が、クラス中が、等々力が、そして俺が、全員のえ?が重なった。
「付き合うの定義次第だが、私と無藤の特殊な関係を考えれば付き合ってると表現できる」
「う、嘘だろ? なんでこんなやつと」
三田がショックを受けている。
俺も合わせて言う。
「お、俺たちいつの間に付き合ってたんだ」
「なんでお前も驚いてんだよ」
だってそれが正直な感想だ。誤解を解かねばならない。俺は冷静に告げる。
「いや、毎日休み時間に密会してるけど付き合ってはないんじゃないか?」
「それ付き合ってるやつの行動だろ!」
「たしかに二人で一つのイヤホンで音を聞いたりしたが……」
「だから付き合ってんじゃねえか!」
「草壁が腋毛を抜いてそれを俺に渡したりとかしてるけど」
「付き合ってるとか超えてんだろそれ!」
もしかして付き合ってんのかなあ。
「って付き合ってねえわ! おい!」
全然まともじゃねえじゃねえか!
★
放課後、草壁とともに教室を出る。そんな俺たちの背中に、たくさんのひそひそ声が振りかかる。
「おい、無藤と草壁さん……」「そっか、無藤の趣味で……だから腋毛を……」「調教……悪堕ち……」「武田弘光……」
噂がどんどんエスカレートしてる。腋毛も俺のせいになってるし、めちゃくちゃだ。
「おい草壁。なに考えてんだ」
思わせぶりな態度が一番めんどくさい。直接聞くことにする。
「腋毛見せびらかしたと思ったらカウンターでショック受けて、悩んで早退したり俺の家に来たり、挙句の果てには付き合ってるとか言い出してみたり。なにがしたいんだお前」
最近の流れ、どう考えてもおかしい。感情が揺さぶられすぎておかしくなってる。
「……ついてきて」
草壁は少しの沈黙のあと、真顔でそれだけ言って歩き出した。
「どこ行くんだ?」
「ちょっとね」
「毎回それやめろ。まともなところじゃないだろ絶対」
「行ってから。そこで全て説明する」
ずんずんと歩を進める。
学校を出て、駅まで進む。
そのまま電車に乗る。吊り革に捕まってがたごとと揺られる。
「もう既にちょっととかじゃないだろ」
スルーされる。沈黙が続き、電車は俺の最寄駅を通り過ぎる。目的がある顔をしているので着いていくが、非常に困った状況だ。
「極限状況」
いきなり、単語がつぶやかれた。
「なんだって?」
「目が覚めたら知らない建物に連れ込まれてて、変なキャラとかに今から生き延びるためのゲームをしてもらいますみたいなやつ。極限状況」
電車の中でなにいきなり物騒な話してるんだ。
「閉鎖空間で人間の本性を見たい……そういう話、よくある。性善説とか性悪説とか言い出すデスゲーム」
え、怖っ。なにこの流れ。俺、今から監禁されるの? こんな人力でのっそり連れてかれることあんの?
「これを着て」
草壁は鞄から丸まった服を取り出す。それはシマウマのような白と黒のストライプが入ったTシャツ、囚人服だった。
「こんな堂々と着替えさせることあんの!?」
怖いが仕方ない。ワイシャツの上から着る。隣を見ると、草壁も似たようなのを着ていた。連れてく側も囚人なのかよ。
「人間に負荷を与えたら平時とは違う一面を見ることはできる。
でもそれは人間の本性と言えるのだろうか。
無限の金を持ってだらだらしてる姿も本性かもしれないし、周囲からの影響を受けていない幼児のころが本性かもしれない。
性善説とか性悪説とか言うけど、なにが善でなにが悪かもはっきりしない曖昧な概念。本当の自分とは、そんなところには見つからない……」
ぶつぶつと呟いている。ダメだ。このモードになったらもう会話が全然通じない。
しばらくすると、電車を降りる仕草を見せた。
前に等々力と三人でデートした駅だ。慌てて俺も後を着いていく。
ずんずんと歩いていく。
駅前の活気あるエリア、そこを少し離れる。そして暗い裏道を抜ける。
刺激される記憶があった。
俺はこの道を知っていた。前に来たことがある。どこに行くかわかる。
「ここに来たかった」
草壁が足を止める。目的地に到着した。
以前は夜でネオンが灯っていた建物。
今は昼で地味だ。だが妖しい雰囲気は消えていない。
それはまさに、高校生にとっては極限的な場所。
ラブホテルだった。




