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完璧なクラスメイトに、腋毛と世界が生えていた  作者: 佐竹大地
第三章 等々力と不純な戦い
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第二話 ちょっと抜いてくるな

 俺たちは三人で、昨日と同じ喫茶店に向かった。飲み物はなんでもいいからテキトーに注文して、着席。目の前に等々力と草壁が並んで座っている。新鮮なペアだ。

 等々力は俺に見つかってからずっと黙っている。神妙な様子だがまだ罪は認めていない。

 いいだろう。尋問の時間だ。

 俺は水で口を潤して、威圧感のある声を発する。


「等々力、俺の作戦にまんまと引っかかったな。作戦とはだな……」


「わ、私、手紙なんか出してないです!」


「手紙なんてまだ言ってないぞ」


「あ」


 犯人が明らかになった。


「勝手に自爆してる!?」

 嘘だろおい。せっかくの作戦をドヤ顔で語るターンだったのに。


「あ、あはは」

 等々力は笑って誤魔化している。よし、聞かなかったことにしよう。


「お前を呼んだのは、草壁に脅迫じみた手紙を出した人間を探してのことだ」

「そ、そうなんですか」

「もう犯人わかったのにこの会話は必要なの?」

 必要だと信じて俺は喋り続ける。


「文面はキモい質問文だった」

「す、すいません。なるべく礼儀正しく書いたつもりだったんですけど……」

 なんでちょいちょい自白してくるんだこいつ。


「そこで俺は思った。手紙の主は明確な物証を持ってないんじゃないかとな」

「物証、ですか……」

「そう、物証だ。だから俺は草壁の席に、腋毛を置いておいたんだ」

 腋毛、その決定的な単語を、等々力の前で宣言する。


「なんでそんな回りくどい方法を……別に物証を欲しがってるって保証もないし」

 呆れる草壁。うるさいな。結果見つかったからいいんだよ。


「等々力、お前は腋毛をポケットに入れていたな」

「い、いえ、そんなことないです」

 こいつは自白したのになぜか粘ってくるし。


「身体検査することになるぞ」

「か、仮にあったとしても、わ、私の腋毛という可能性もありますよ」

「それは鑑識に回せばわかることだ」

「鑑識って一般人の持ち込みを受けてくれる機関じゃないから」


「それにな、等々力。残念だが、お前の腋毛の可能性はないんだ。お前に腋毛が生えてないことは既に確認済みだからな」

 クラス会での苦し紛れの会話。まさかあれが効いてくるとは。


「待ちなさい。等々力さんとなんの会話をしてるの?」

 草壁が怪訝な表情を浮かべる。やばい。面倒なことを言った。


「わ、私がやりました」

 等々力はなぜかここで急に素直に認めて、ポケットから手を出した。

 そこには黒くて短い毛があった。それは決定的に、等々力を犯人だと告げていた。俺はこっそり腋毛を入手して宣言する。


「これが俺の作戦、腋毛の一本釣りだ!」


「勝ち誇ってぺらぺら喋ってないで、話を進めたいのだけど」

 草壁は手紙の主である等々力に体を向ける。たしかに、ここからが本題だ。


「等々力さん、どうしてこんな手紙を出したの?」

「それは、その、草壁さんのことが純粋に気になったので……」

「そうは思えない」

 おどおどしながら答える等々力に対して、草壁は強気だ。


「そもそもあなたはどうして、私が腋毛を生やしてるってわかったの?」

 重要な疑問だ。草壁は腋毛がバレないよう、普段から慎重に行動していたはず。いったいなぜバレたのだろう。

 俺たちが見守る中、等々力は口を開く。


「体育の着替えの時に見えたので」

「めっちゃ普通にバレとるやんけ」

「そ、そう」

 草壁は目を伏せている。下ネタとかとは違うリアルな羞恥が身を包んでるのだろう。


「あとクラス会の帰りに無藤さんと二人でいなくなったり、授業中に保健室に行って帰ってこなかったり、シンプルに一緒に帰ってたりとかもヒントになってます」

 俺たちやりたい放題じゃねえか。むしろなんで他のやつにバレてないんだ。


「あの、お二人は付き合ってるんですか?」

「まあな」

「だから違う。さらっと認める風のやめて」

「お二人が仲良いのは伝わってきますが……私の手紙の質問に答えてほしいです。草壁さんはなぜ、腋毛を生やしてるんですか?」

 犯人のくせに強気に質問してくる等々力。どうしても知りたいらしい。

 んー、一から説明すんのもめんどいし、テキトーに答えよう。


「逆張り自分探し腋毛だ」

「そんな風に思ってたの?」

 睨んでくる草壁。でも実際そうだし。

 等々力は俺達を見て、じっと目を伏せて、考え込んだ様子の後、言った。


「えーっと、今までの完璧だった自分のことが好きじゃないから一見して不清潔とされてる腋毛を生やして自由になろうとしてるってことですか?」


「正解に辿り着いてる!?」

 なんであの説明でわかるんだよ!


「く、草壁さんのことを考えたからです」

 おどおどしながら意外に鋭いやつだ。


「で、無藤さんは腋毛フェチと」

「俺のことももう少し考えてくれ」

「では無藤さんは……例えば、私が腋毛を生やしたらどう思うんですか?」

 予想外の質問がきた。それは重要に思えた。

 俺は腋毛好き。腋毛は誰にでも生える。では誰でも良いのか。腋毛に個性は宿るのか。

 草壁からも緊張を感じる中、俺ははっきりと宣言する。


「養殖モノは味が落ちると思うな」


「表現がキモいにも程がある」

 そう言う草壁はちょっとだけ嬉しそうだ。かわいいやつめ。


「そうですか。では次に伺いたいのはですね……」

「どうしてあなたが質問する側になってるの?」

 たしかに。いつのまにか攻守逆転してた。


「あ、ご、ごめんなさい。でも本当に、脅すつもりはないんです。その、無藤さんと草壁さんのことが気になっただけで……なんとなくわかったので本望です、はい」

 等々力は今日何度目かわからない頭を下げた。これ以上追求しても答えは返ってこなさそうだ。

 とりあえず脅されることはなく、話し合いは終わった。

 これにて一件落着。

 とはならなかった。


 ★


 翌日の昼休み。草壁のサインがない時は三田と飯を食べている。平和な時間である。


「こないだ聖地巡礼って言葉を聞いて思ったんだが、自分の両親が行ってたラブホとか見てみたいよな」

「無藤、お前飯食ってる時キモい話以外できないのか?」

「俺にキモい話をさせるなにかがお前にあるんじゃないのか?」

「これが俺のせいになることあんの?」


「あ、あの……」

 隣の席から割り込む声があった。このおどおどボイス、等々力だ。目をやると、隣の席に座りながら体を横に傾けて、俺たちに話しかけてきている。


「その、キモい話をしてるところ申し訳ないんですけど……」

「ああ悪い、迷惑だったか。ごめんな、三田にキモい話をさせるなにかがあるせいで」

「まだ言うか」

「い、いえ、それは構わないんですけど……その……」

 相変わらずの煮え切らない口調。

 しかし話し合ってから昨日の今日だ。なんの用だろう。

 警戒心を強める俺に、等々力は意気込んだように口を開いた。


「お、お昼ご飯、い、一緒に食べてもいいですか?」

「「え?」」

 俺と三田の、驚く声が重なる。


「わ、私、お二人と隣の席ですし、その、女子グループに入れなかったので」

 態度とは裏腹に言葉は大胆だ。

 たしかに教室は既にグループ分けが済んでいてみんな各々で食べている。一人で食べるのは辛いだろう。

 だからって等々力の行動は自然じゃない。


「その……ご迷惑じゃなければ」

 声が小さくなる。少しうつむいて緊張した表情。誰が見ても、勇気を振り絞ってるのがわかる。


「お、おう! もちろんだぜ!」

 三田が面喰らいつつ、陽気に迎える。俺もなんか言わなくては。


「気をつけろよ、三田はキモい話をしないと友人とは認めてくれないからな」

「そ、そうなんですか?」

「そんなわけないからね」

「で、では私が通っていた小学校の隣にラブホテルがあって、そこから音楽の先生が出てきた話を……」

「詳しく聞かせてくれ」

「興味津々じゃねえか」

 三田につっこみつつ、俺は考える。

 咄嗟の対応はできた。一緒に食べようと言われ断る選択肢は存在しない。俺もそこまで人でなしではない。

 しかし、異常だ。

 草壁を見ると、右手を上げて腋を左手で抑えていた。

 サインだ。俺は席を立つ。


「ちょっと抜いてくるな」

「こんなあらすじだけで!?」



 教室を出て廊下で待っていると、すぐに草壁もやってきた。


「作戦会議の時間」

 草薙が宣言する。議題は当然、等々力の行動についてだ。


「食事グループは学生にとって重大なこと。まして男女で。彼女の控えめな性格を考慮するとさらに異常。昨日の私たちの会話と繋がりがあるはず。なにを企んでるのか」

 草壁は眉間にシワを寄せて考えている。言葉の端々に等々力への敵意が見える。


「話も別に面白くなかったし。ラブホテルなら私の小学校の近くにもあった」

 俺たちの会話を盗み聞きした上で張り合おうとしてる。微笑ましい対抗意識だ。


「等々力の考え、確かめる方法ならあるぞ」

 俺は自信を持って言う。盗み聞き、その単語から閃くものがあった。


「草壁のスマホを貸してくれ」

「え、それは……」

 躊躇う様子を見せる。不安はわかる。


「安心しろ。スマホを投げて遊ぼうってわけじゃない」

「全く考えてないことを配慮されるの怖い」

 おそるおそる手渡される。

 草壁のスマホ、白いカバーがついた簡素なものだ。

 起動して素早い手つきで画面をいじる俺を、草壁は怪しみながら見ている。


「なにをしてる?」

「俺の電話番号を登録したんだ」

「え、ど、どうして?」

 今まで電話アンチだった俺の急な行動に驚いてる様子。俺は笑みを浮かべて言う。


「明日、再び俺の作戦を楽しみにしててくれ」


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