表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
完璧なクラスメイトに、腋毛と世界が生えていた  作者: 佐竹大地
第三章 等々力と不純な戦い
20/40

第三話 別に、耳で綱引きするみたいなアレだ


「よし、今日も三人で食うか!」

 翌日の昼休み。等々力が参加して三田がウキウキの様子だ。そこに俺は申し訳なさそうに言う。


「俺、今日は学食で食うから。パンを買い忘れた」

「なんだ、珍しいな」

「俺という潤滑油がいなくなって気まずいだろうが、二人で思う存分話してくれ」

「ほんと嫌なことしか言わないなお前」

「は、はい。がんばります!」

「がんばるってのも違うからね」

 等々力とすれ違い様に肩を叩いて別れを告げる。そのまま草壁をちらっと見て廊下に出る。

 すぐに着いてきた。不思議そうに口を開く。


「学食に行く、それが作戦?」

「無論それだけじゃない。スマホを見てくれ」

 草壁がスマホを取り出す。画面には着信の表示が浮かんでいた。


「俺の電話番号だ。出てくれ」

 草壁は首を捻りながら通話ボタンをタップし、スマホを耳に当てる。

「話したりはしなくていい。そのまま移動しよう」



 学食に来た。混み合ってるが隠れるにはちょうどいい。テキトーな飯を頼んでテキトーな席に向かい合って座る。


「通話状態ではあるけど。なにがしたいの?」

 ハテナマークを浮かべる草壁に、俺は説明をする。


「俺のスマホは今、等々力のポケットに入ってるんだ」

 すれ違って別れる時に、ポケットにスッと入れてきた。やってみたら意外とできた。


「これで等々力の周囲の音声、例えば教室での会話や俺たちがいないところでの本音を聞くことができるというわけだ」

「よくあの手この手で人の裏側を知ろうとする手段が思いつくもの」

 褒められてると解釈しよう。


「いざとなったらこっちから大声を出してビビらせることもできるぞ」

「それは全く意味ないから」

「じゃあ早速聞くぞ」

 俺はポケットからイヤホンを取り出して片耳を装着。

 そしてもう片耳分を草壁に手渡す。


「こ、ここで!?」

 高い声を出して固まっている。恥ずかしがってるな。新鮮な反応だ。


「そうしないと聞けないからな」

「で、でも……そ、そうね」

 草壁はぎこちない動作でイヤホンを耳にはめる。羞恥を受け入れたようだ。有線のケーブルを通じて、俺たちは繋がっている状態になった。

 耳に意識を集中する。教室のざわざわ音、その奥にちらちらと声が聞こえる。三田と等々力のものだ。


『……等々力さん、弁当美味そうだな。自分で作ってるの?』

『あ、はい……一応、そうです』

『へー、すごいな』

『い、いえその……ありがとうございます』

 予想通り気まずそうな会話だ。いきなり二人きりにしたのだから当然だろう。


『等々力さん、その、なんで俺たちと食べようと思ったんだ? いや全然嬉しいんだけどな! ただほら、男子と食うって珍しいじゃん?』

 三田が核心的な質問をする。いいぞ。話題に困ってる時こそ本音が聞けたりするのだ。


『そうですね……無藤さん、クラス会で私の席に来てくれたんです』

 会話の中に俺が登場した。


『みんは草壁さんの席に行ってて、私もお話ししたいなと思ってたんですけどできなくて、私は一人になってて、それで、話しやすくて』

 俺めっちゃいいやつじゃん。


『ふーん、そんなことあったのか。へー』

 三田のこのリアクション、俺に嫉妬してるな。ざまあ。


『それで、またお話しできたらなと思って……すいません、自分語りしてしまって』

『いや、無藤と違って会話が通じるから全然楽しいよ。あいつ変なことしかしないし』

 俺の評判下げようとすんな。


『ふふ、でもお二人の会話、聞いてると楽しいですよ』

『そ、そう? てか今までも聞いてたのか。恥ずいなあ』

『いえいえ……あ、ちょっと、トイレに行ってきます』

 会話が終わった。トイレに行くらしい。この後も色んな音が聞こえるかと期待したが、草壁が通話を切ったので現実に戻る。


「感動したな」

 正直な感想を言う。盗聴の結果、わかったことがあった。


「三田、俺がいなくてもちゃんと女子と会話を頑張ってるじゃないか……」

「どこに感動してるの。問題は等々力さんだから」

 そう、等々力だ。本音が聞けたように思えた。友達がほしい、やはりただそれだけの純粋な思いだったんだ。


「疑って盗聴なんかして申し訳なくなってこないか?」

「しかし今の会話は……彼女、無藤のことを……」

 草壁はあごに手を当ててなにやら考え込んでいる。まだ疑ってるようだ。やだねえ素直に受け取れない人は。


「あの、なにしてるんですか?」


「いやちょっと考察を……って、え?」

 草壁がすっとんきょうな声をあげる。


 見上げると、等々力がいた。

 なぜだ? トイレに行ったんじゃ……と言うわけにもいかない。俺は冷静に振る舞う。


「草壁も弁当を忘れてな。一緒に食べることにしたんだ」

「そ、それはいいんですが、お二人はな、なにをしてるんですか?」

 等々力の視線の先には、俺と草壁を繋ぐイヤホンがだらんと垂れていた。


「え、あっ」

 顔を赤らめて動揺する草壁。

 まずい。盗聴がバレないよう誤魔化さねば。


「別に、耳で綱引きするみたいなアレだ」

「どんななにですか?」

「等々力はなにしに来たんだ?」

 強引に話題を逸らした。よし、セーフだな。


「あ、その、飲み物を買いに来たんです」

 そう言って自販機に向かった。ちょっと迷った末にお茶を買っている。

 取ってつけたような行動に思える。トイレ行くって言ってたし。

 でもまあ、大したことではないだろう。飲むのも出すのも逆の行動ってだけでそんな変わらん。

「疑って悪かったな」


「え、なにがですか?」

 俺は等々力の隣に行き、肩を叩いてそっちに注意を向けつつ、ポケットに入ってるスマホをそっと回収した。手際よくできた。癖になりそう。


「無藤さん、毎日コンビニのパンなんですか?」


「ん、まあな。楽だし」


「そうですか、わかりました」

 どうでもいい会話をしながら、俺は満足感に包まれていた。結局、盗聴がバレることはなかったし、等々力に下心がないことがわかった。ミッションは全て完了した。

 これにて一件落着。

 とはならなかった。


 ★


 また翌日の昼休み。前の席の三田が振り向き、隣の席の等々力が机をくっつけるフォーメーション。実に青春感があるが、等々力はソワソワしていて落ち着かない様子だ。


「そんな緊張しなくていいぞ。基本的に俺たちって、なにも考えないで喋ってるし」

「お前はもうちょい考えろよ」

「あ、あの……ど、どうぞ!」

 突然の大きい声。等々力は手を前に出して、なにかを持ってぷるぷる震えている。

 手の先を見る。シンプルな立方体。用途は一つしかない。

 

 お弁当だ。


「む、無藤さんに作ってきました。その、パンだけでは栄養が足りないと思いまして……」

 小さくなっていく声で言う。しかしその内容は衝撃的だ。


「え、と、等々力さん、マジで!?」

 三田がビビってる。


「はえー」

 俺もちょっとビビってる。


「!?!?!?!?」

 遠くで草壁もめっちゃビビってる。


「その……め、迷惑でしたら申し訳ないのですが……」

 言ってる等々力もビビってる。

 女子が男子に弁当を作ってくる。その意味をわからない人間はいない。

 だが俺はあえて、無知なフリをすることにした。


「いやーありがたい。いただきます!」

 純粋無垢なリアクションをしつつ、等々力の手から受け取る。

 二層式の弁当箱、下には米、上にはおかず、肉じゃがだった。王道で勝負しにきてる感じの組み合わせだ。


「すごいな。料理得意なのか?」

「い、いえ、そんなにです。ただ肉じゃがには思い出がありまして…」

 こっちをガン見してる草壁にちらりと目をやって、等々力は話し始める。


「私、小学校のころ給食で出た肉じゃがが食べられなかったんです」

「珍しいな」

「料理の王道ですみたいな偉そうな顔してるのがなんか嫌でして……」

 思想で給食嫌いになることあんの?

「でもある人が言ってくれたんです。苦手な食事があったら作ってみると良いって。料理とは科学的反応の積み重ねであり肉じゃがはその基礎の動作が詰まっている完璧なレシピだと。それ以来たまに自炊してたんですけど、ようやく役に立ちました」

 その解決方法もよくわからん。ずっとなに言ってるんだこいつ。


「というわけで、た、食べてみてください」

 まあいい、とりあえず俺は与えられたミッションをこなそう。

 箸を使ってじゃがいもを掴み口に運ぶ。俺のその挙動を等々力が見守っている。期待に応えよう。


「大変美味しく楽しめました。ただ事前に発送の連絡が無かったので星四つです」

「あ、よ、よかったです」

「Amazonのレビューじゃねえんだよ」

 ちょっと不機嫌そうな三田につっこまれる。なぜ俺に作ってきたのか解せないのだろう。

 そしてもう一人のキレているあろう人間、草壁の様子を見る。


「……!……!」

 腋を高速でパコパコしている。怖すぎる動作だ。


「とりあえずありがとな」

 俺はヒリヒリした空気の中、完食。

 そして教室を出た。すぐさま草壁が現れる。


「作戦会議の時間」

「これ何回やるんだ」

「ようやく彼女の目的がはっきりした。お弁当を作ってくるというのはもう明らか」

 草壁がスッキリした表情で言う。そうだな。さすがに俺にもわかる。


「食への意欲が高まり、食べる側から作る側に回ったということだな」

「あなたにアピールしてるということ」

 もうつっこんですらくれない。


「謎は全て解けた。最初からそのために私たちに近づいた。あの手紙は私を排除しようとした脅し。三田君との会話も合点がいく。彼女はずっと、あなたを求めていた」

 早口で喋り肩を上下させている。推理を披露してる快感が溢れ出てるな。


「クラス会だけで話しただけでそんな好かれるとは思えないんだが……まあ俺の魅力を持ってすればあり得ることか」

「知らない」

 冷たいリアクションだ。


「なんの話をしてるんですか?」

 話題の当人、等々力がさらっと割って入ってきた。いつのまにか隣にいたっぽい。


「あなたの謎行動について議論してた」

 草壁が直接言う。好戦的だ。


「は、はあ。どういう結論が出たんですか?」

「それは……その……」

 自分から喧嘩売ってためらってる。根が真面目な草壁に対して、等々力は明るい表情で口を開いた。


「じゃあ三人で、放課後遊びに行きませんか?」

「なにがじゃあなの?」

「親交を深めましょうよ。私、行きたいところあるんです」

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ