エピローグ
昼休み、廊下で草壁と落ち合う。俺は重要なことを思い出したのだ。
「そもそも俺たち、腋毛契約の場所を探してたんだよな」
当初の目標をすっかり忘れていた。
「どこでもいいと思う」
草壁が言った。
「先輩が気づいたように、場所は重要ではない。イメージよりも大切なのは、中身」
なるほど一理ある。だが。
「そりゃ精神的な話であって腋毛契約の場所は重要だろ。人に見つかるんだから」
「大丈夫。適切な場所はもう見つかっている」
草壁の言葉、どこのことなのか、俺にもわかった。
「屋上前」
屋上じゃなくていい。少し日陰の、屋上前。俺たちはそこを得たのだ。
「せっかくだし行ってみるか」
二人で向かう。歩きながら、今までのことを思い出す。この流れ、嫌な予感がした。
「まさか先輩はいないだろうな」
「話の流れ的にいない……はず」
自信なく答える草壁。俺と同じ不安を感じているらしい。
だって屋上への憧れを断ち切った感じだったし、いないよなあ?。
階段を登る。
屋上前に出る。
そこに伊達先輩はーー
いなかった。
がらんとしている。本来のなにもない空間に戻ったのだ。そうだ、先輩は変わったのだ。そして俺たちの、腋毛契約の場所を得るというミッションも叶った。
階段を降りると、喧騒に包まれる三年生のフロアに出る。
「なあ、ちょっと見てみないか?」
先輩のクラスの前で俺は立ち止まって言った。
扉から教室の様子を覗く。悪趣味かもしれないが気になった。変わった先輩がなにをするのか興味がある。
教室の中、そこにはなんとか勇気を出してみんなの輪に入ろうとしている伊達先輩がーー
いなかった。
「あれ?」
「おや、ちょうどいいところに。君たちを探してたんだ」
後ろから声をかけられた。口調ですぐわかった。伊達先輩だ。用事ってなんだろう。
「放課後暇なら、プラネタリウムでも行かないかい?」
唐突な単語が出てきた。
「プラネタリウム? なんでですか?」
「屋上で君たちと寝転がって、空を見ただろう? それで思ったんだ」
先輩は目を細めてしみじみと言う。
「宇宙って自由だなあって」
「屋上と同じパターンじゃねえか!」
場所とかどこでもいいから自分に向き合う感じじゃなかったのか!?
「どうして宇宙が自由なんですか?」
草壁の疑問に、先輩は堂々と答える。
「高いし広いから」
「バカの回答だ」
「その通りさ」
また肯定されたし。
「バカと煙は高いところに登りたがると言っただろう?」
「それがどうしたんですか」
「ボクはもっとバカになろうと思ってね。天才ぶるのはやめたのさ」
先輩は笑いながら言った。結局、変わったのかどうか、よくわからない。
「だからこれからもよろしくね」
ただ確かなこと、俺たちは、変な友人を得たのだった。




