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5コイチ  作者: 稲田心楽
120/123

その先にあるもの

 

 ワンマンライブ当日、メンバー全員で幸太の部屋を訪ねた。自分以外のメンバーは、幸太に会っていなかったし、今後について話し合った事を幸太に報告する必要があった。



 心と健太郎は、変わり果てた幸太を見て泣き崩れた。この中では、健太郎が幸太と一番長い付き合いだ。色々と思う事もあるだろう。メンバーの涙に、枯れ果てたと思っていた涙がとめどなく溢れた。



「マジやん。こんな小さなってるやん……」



 心は幸太に花を買ってきていた。『勿忘草』という花らしい。心は、白い花瓶をリュックから取り出して、キッチンに向かった。



「皆さん、お忙しい中ありがとうございます」



 幸太の親父さんは、無精髭を綺麗に剃り落とし、白髪混じりの長髪もばっさりと切り、まるで別人のようだった。



「なかなか来れずで申し訳ありません」


「いえいえ、対応に追われていたでしょうし。バンマスをやっていたのでわかります」



 幸太の親父さんも、メジャー時代は、バンマスをやっていたらしい。全員で話し合い、ドラムレスで当面は乗り切ろうという結論に達した。ロックバンドでドラムレスは致命的だが、彼のドラムを感じながらプレイしようと誓った。彼より優れたドラムなどアマチュアの世界では存在しないし、無理にクオリティを下げてまで5人編成にする必要もないと思った。



「幸太? 綺麗やろ? 勿忘草やで。花言葉は、『私を忘れないで』。綺麗やろ…… 」



 幸太の横に花を飾る心の背中は、とても寂しそうだった。仲の良い2人だったし、心が冗談で呼び捨てにしても、にっこり微笑む優しい男だった。



「駿さん……」



 あまりにも辛すぎて立っていられなくなり、隣にいた勇気の肩に顔を埋めてしまった。



「ごめん……勇気さん、やっぱり辛い……辛すぎるよ」


「幸太君、広瀬です。寂しいよ……別れの言葉一つ言えないなんてさ……」



 勇気が初めて涙を見せた。最初に幸太の事を告げに行った時も、みんなで集まった時も、涙は見せていなかった。1番歳上だから我慢していたのだろうか? 彼の涙を見た健太郎はむせび泣いていた。



「無理やわ。駿……こんな状態で今日のワンマン無理やわ……」



 心も幸太を抱きしめたまま動かない。勇気までも声をあげて泣いている。みんな練習の時も気丈に振る舞っていたが、抑える事が出来なくなっていた。



「……皆さん、話しがあるんですが……」



 この押しつぶされそうな空気の中、幸太の親父さんが口を開いた。

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