その先にあるもの
ワンマンライブ当日、メンバー全員で幸太の部屋を訪ねた。自分以外のメンバーは、幸太に会っていなかったし、今後について話し合った事を幸太に報告する必要があった。
心と健太郎は、変わり果てた幸太を見て泣き崩れた。この中では、健太郎が幸太と一番長い付き合いだ。色々と思う事もあるだろう。メンバーの涙に、枯れ果てたと思っていた涙がとめどなく溢れた。
「マジやん。こんな小さなってるやん……」
心は幸太に花を買ってきていた。『勿忘草』という花らしい。心は、白い花瓶をリュックから取り出して、キッチンに向かった。
「皆さん、お忙しい中ありがとうございます」
幸太の親父さんは、無精髭を綺麗に剃り落とし、白髪混じりの長髪もばっさりと切り、まるで別人のようだった。
「なかなか来れずで申し訳ありません」
「いえいえ、対応に追われていたでしょうし。バンマスをやっていたのでわかります」
幸太の親父さんも、メジャー時代は、バンマスをやっていたらしい。全員で話し合い、ドラムレスで当面は乗り切ろうという結論に達した。ロックバンドでドラムレスは致命的だが、彼のドラムを感じながらプレイしようと誓った。彼より優れたドラムなどアマチュアの世界では存在しないし、無理にクオリティを下げてまで5人編成にする必要もないと思った。
「幸太? 綺麗やろ? 勿忘草やで。花言葉は、『私を忘れないで』。綺麗やろ…… 」
幸太の横に花を飾る心の背中は、とても寂しそうだった。仲の良い2人だったし、心が冗談で呼び捨てにしても、にっこり微笑む優しい男だった。
「駿さん……」
あまりにも辛すぎて立っていられなくなり、隣にいた勇気の肩に顔を埋めてしまった。
「ごめん……勇気さん、やっぱり辛い……辛すぎるよ」
「幸太君、広瀬です。寂しいよ……別れの言葉一つ言えないなんてさ……」
勇気が初めて涙を見せた。最初に幸太の事を告げに行った時も、みんなで集まった時も、涙は見せていなかった。1番歳上だから我慢していたのだろうか? 彼の涙を見た健太郎はむせび泣いていた。
「無理やわ。駿……こんな状態で今日のワンマン無理やわ……」
心も幸太を抱きしめたまま動かない。勇気までも声をあげて泣いている。みんな練習の時も気丈に振る舞っていたが、抑える事が出来なくなっていた。
「……皆さん、話しがあるんですが……」
この押しつぶされそうな空気の中、幸太の親父さんが口を開いた。




