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錆び付いたシャッターにもたれて、勇気の話しを聞いた。彼のお父さんの病気の事、去年のクリスマスイブの路上ライブは人生を賭けたものだった事、そんな風には微塵も感じなかったライブだっただけに驚いた。
「色んなものを背負っていたんですね」
「30を超えると色んな事が重くて。でも、続けたいならそれは言い訳だから」
「お父さんは? どうなったんですか?」
「この間退院したよ。抗がん剤治療が始まったよ。かなり辛そうで……」
「助かったんですね! よかった!」
「とりあえずは……医者もこれからですよって言ってた」
「まだ安心は出来ないと?」
「うん。でも、あの日は本当にやばかったよ。行きの電車の中で足の震えが止まらなくて」
「凄いです。何回か聴いたんですけど、イブの夜が一番凄かったです。少し離れた場所で聴いてましたが」
「……駿さんはバンドを続けていく事も難しいと思ってるんでは?」
「……正直わからないんです。どうしたらいいか……」
どうすればいいか分からない──悲しみに浸り、悶々と日々を過ごす事は容易い。実際、何もやる気は起きない。だが、ワンマンライブの日は迫り、各イベントもあっという間にその日になるだろう。立ち止まっている場合ではないが、本当にどうすればいいか分からなかった。
「とりあえず、みんなで集まりましょう。明日にでも」
「……心や健太郎さんに言わなきゃならないのか……」
バンドコンテストで優勝し、これからだという時だった。いや、バンドの事よりも短い付き合いだったが、一つ言えば十を理解してくれる心の友を失ってしまった。
右も左も分からないこの大阪で、音楽の本質に導いてくれたかけがえのない存在──それでも前に進まなければいけない現実を心底恨んだ。
「勇気さん……」
「どうしました?」
「申し訳ないです。バラードを聴かせてもらっていいですか?」
「いいですよ。11回目ですけどね。時間も時間なんで抑え気味でやります」
「ありがとう……」
5人になってから初めて作ったバラード──幸太もこの夜空の何処で聴いてくれているだろうか。勇気の甘く切ない歌声とメロディが、心に沁みた。




