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番外編 乙女の聖戦 中編

「ぬう、う…………」


そうしてやって来た2月14日の朝。

リリィは悩んでいた。

香月や麻理鐘、蒼音と楓といっしょにチョコを作ったのはいい。

そういったことはしたことがなかったが、大切なのは心なのだという。だから頑張ったのだ。証拠に、その手のところどころには絆創膏が巻かれていた。何度か指を切ってしまったのだ。

考えることもいろいろだった。自分を助けてくれたこと、自分の変わりに傷ついてしまったこと、この家に自分を住まわせてくれていること。

あげれば感謝は尽きない。

だから頑張ったのだ。少し不格好だけれど、頑張って、銀次に思いが伝わるように、一生懸命に。


たけど、だ。

香月はいうまでもなく、料理が上手い。麻理鐘と蒼音も、香月ほどではないにしてもそれなりだ。


見劣りしている、とリリィは思わざるを得なかった。

もしかしたら銀次をがっかりさせてしまうのでは、もっと良いものをたくさんもらうのかもしれない。

なにより、銀次が喜んでくれるだろうか。



そんなもやもやを抱えたまま。

2月14日はやってきたのだった。


























□■□■□■□■



その一方で。

武藤銀次は、リリィとは真逆の悩みを抱えていた。

この日が来てしまった。

毎年毎年、銀次はこの日が苦手だった。

友人の遠藤有人のように貰えるか否か、という話ではない。既に今日は盟夜紗江、通称メイからひとつチョコレートをもらっているし、母、幼馴染、妹2人からもらうことも目に見えている。その上、今年はリリィもいるのだ。

家で渡せばいいのに、あのオナゴめらはわざわざ学校の衆人環視を前に渡してくるのである。


ぶっちゃけだいぶ恥ずかしい。


嬉しくないとは言わない。が、年々過激さを増す彼女らのパフォーマンスは銀次の許容範囲を超えている。

ほんとに怖いどころの話ではないのだ。

現に隣にいる浅間香月はこっちをちらちらと見ながらそわそわしているし、リリィに至っては顔面蒼白といったさまである。こっちのが怖えよ、何されるかわかったもんじゃねえんだ。

そもそもリリィがバレンタインなどという風習を知っていたのか、と不思議に思ったが、知らなければ香月か蒼音辺りが教えにはいったのだろう。あの2人は世話焼きなのである。


「…………………はあ」


失敗した。

もう少し時間を送らせてくるべきだった。


これから一日をどんな顔をして過ごせばいいのかーーーーと、銀次が頭を抱えたその時だった。

くい、と銀次の制服の裾が引っ張られた。


それは小さな手だった。辿っていくと、手相応に背の低い女生徒ーーーー我が妹である武藤蒼音がそこにいた。


彼女は水玉模様の包みを持っていた。

中等部の生徒が高等部にくることはあまりない。持っているものから見ても、間違いなくそういうことだろうなと銀次は勘付いていた。

もちろん、表面上は隠して。


「おはよう蒼音ちゃん」


「………おはよ、銀兄」


ちなみに先ほどもらうのに恥ずかしいとか言ったが、蒼音は別である。

だって天使だし?可愛いし?


「今年は蒼音ちゃんが最初なんだな」


「………じゃんけんで、勝った順……」


つまり、去年みたく同時に渡される心配はないということだろうか。


だが銀次はそこで気付いた。

蒼音の様子が、いつもと違うことに。

なんかもじもじしていて、顔が赤い。


クラスにいる生徒がものすごい目でこっちをみていた。


そして、


「……えっと、お兄ちゃん(・・・・・)


ふと、空気が変わる。

銀兄、というかいつもの呼び方ではない。


何をするのか、という視線のなか彼女は包みを差し出しながら、こう言った。

この世すべての人間を虜にするのではないかというくらい魅力的な表情で。





「ーーーーーーー大好き」























今年度のバレンタインデーは、武藤蒼音が大幅なリードを切ってのスタートとなった。






□■□■□■□■


昼休みになった。


持ってきた弁当さえ広げず、銀次は机に突っ伏していた。

もちろん考えていることは、朝の一件である。

バレンタインデー。

毎年いろいろなことがあったが、家族からひとつもらうだけでここまでつかれたのは今年が始めてだろう。

大好き。

その一言でここまでは心が持ってかれるとは思わなんだ。


「……………やべえよな、あの破壊力」




さて、次だ。

昼休みには、香月に呼ばれているのである。

彼女も理由は言わなかったが、まあ分かり切ったことだ。


結局、弁当は食べなかった。










「よう、香月」


「あっ、銀次………」


そこは誰もいない空き教室。もちろん、知ってて指定したのだろうが。

彼女ーーー浅間香月の背中の端から、黄色の包みが見えていた。


「こ、こにちはっ。ほ、本日はおひがらも良くっ!」


「……雪降ってるけどな」


そんなふうに荒れているのも予想通りでした。


「……雪降ってるけど、な」


「気分は晴れっ!」


「帰っていいか?」


「え? だ、だめっ!」


ぎゅう、もにゅん。

だから無防備に抱きつくなと何度言えば略。ゴールデングラブおっぱいか。


「なんだ香月。こっちも忙しいんたぞ、用件を言えさっさと」


「ふえぇ、銀次が怖いぃ……」


脅しているつもりはないが、こうでもしないと話が進まないのである。

いぢめるのが楽しいとか言うわけではない、断じて。


こほん、と香月は咳払いをした。

仕切り直しの合図である。


「えっと、銀次。今日はなんの日でしょうか?」


「2月14日だが」


「え? えっとそうじゃなくてね、その、記念日的な……」


「グラハム・ベルが電話の特許申請をした日だな」


「えっ? えっ?」


「ちなみに日本では『主婦之友』が創刊された日でもある」


「………そ、そうじゃないの……」


シュンとうなだれる香月。

バレンタインデーだけね→はいチョコレート、みたいな流れに持って行きたいのだろうが、そうはさせない。

なぜなら、浅間香月とはいじられてこそ輝く少女だからである。


「………ほ、ほら銀次! もっと世俗的なイベントがあったよね!」


「ん、そういや第一回箱根駅伝も2月14日だったなあ」


「………ううううう、そうじゃないいいいいいい!」


おお嘆いとる。

素直にバレンタインだねあげるが言えない香月はちょっと可愛いかもしれない。


「………それでなんのようなんだよ。日が知りたいならカレンダーを見ろ。遊んでるなら帰るぞ」


「うう……お願いだから待ってぇ………」


普段強気なこのエセツンデレはかえって突き返したほうが愉しめるというのも最近気付いたことである。

しばらく香月は唸っていたが、やがて諦めたのか、もういいですとばかりに、


「……うう、今日はバレンタインデース。チョコモッテキマシタ、ウケトッテクダサイ」


そんなふうにいうのであった。



………ただ、ただである。

香月ほどの女子からチョコレートをもらえるとして、嬉しくないのかと言われればそれは否である。

銀次も実はそれなりに嬉しい。


そこでクエスチョン。


例えもらうとしたら、それは最高のシチュエーションでもらったほうがいいとは思わないだろうか。

クリスマスなら綺麗なイルミネーションを見ながら。

誕生日なら星空を見上げながら、と言った具合に。

香月ににあう最高の劇、即ち。



銀次は、ギリギリまで焦らすことに決めた。




「いや、もうチョコはいらないかなあ」



「………………え?」



ピタッと、香月の呼吸が止まった。









□■□■□■□■□






すいません、後編に続きます。

女の子が多いと書くのが大変、好みの属性をすべての突き込んだのがまずかった。


でもやっぱりメインはリリィさん、あと香月。

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