#18 ブラッド、アンド、スタート
「え、ええと、て、てんこーせーの、むっ、武藤、リリィ、だっ」
「…………だ、だけ?」
「う、うむっ!」
そんな短い自己紹介の途中。
盟夜紗江は、こう思っていた。
ーーー武藤。アンタ、だいぶ辛そうだな、と。
そして。
ーーーーーまた新しい女か!!
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「よ、よろしくたのむっ!」
顔を真っ赤にした銀髪の少女は、なんとかそれだけを言いきった。恥ずかしいのか、ばっと武藤銀次の背に隠れた。ぎゅうう、という擬音が目に浮かぶように身体に手を回す。
ただ、彼はなんか死にかけて立つのもやっとという状況なので、リリィと名乗った少女が二人羽織の種明かしのように銀次を支えているように見えた。
血、血が……と虚な瞳で繰り返す銀次はちょっと怖い。
転校生のインパクトが武藤銀次によって吹き飛ばされていた。
「ええと、リリィさんは武藤君の遠い親戚にあたるそうです。やむを得ない事情がありまして、この針川聖学習院に転校して来ました。外国の育ちだそうですが、日本語は話せるそうです。皆さん仲良くしてくださいね」
というテンプレートな教師のセリフ。
無論、リリィの本名を明かさぬための方便である。その辺の話は坂町、理事長、松葉ミーナの間でとどまっている。どうやらリリィの処遇云々は銀次に丸投げされたとのこと。片腕を落としたのは、本当に彼女の前に立てるかどうかを確認したかったのだという。松葉ミーナは演技だといったが、銀次はおそらく本気だったのだろうと思っている。
その一連の行動が、まるで子を守る母親のように見えたのは、あるいは間違いではないのかもしれない。
リリィと言う少女と、その裏に存在する事情。
思ったよりも、双方の繋がりはわかりやすいのかもしれないーーーーと、銀次は思っていた。
血が足りなくなるまでは、ね。うん。
「先生、武藤君が血を求めてリビングデッドしてるんですが」
「トマトジュースでも点滴しておきなさい」
そんな冷たい、およそ教師が放ったとは思えない一言で、クラスの大多数の人間が我にかえり、そしてリリィを目にした途端、いきなり意識がトリップする。
あれ?
やべ、なんか可愛くね? てか最早美しくね?
「やっほおおおおおおおうう!! 女子だぁぁぁぉぁぁぁぁ!!!」
「うるせえぞ遠藤!」
「うわぁ、綺麗………」
「つか、胸のでけえ………」
もう狂喜乱舞。
ぐるっぐるである。
聞こえた賛辞に、リリィはますます顔を赤くする。
そんな中、香月と紗江だけは冷静だった。
「ぎ、銀次っ!」
ガタンと音を立て、香月が銀次に走りよる。遅れて、紗江もついていく。
理由は言わずもがな、銀次が心配だったからである。
まためんどくさいことになりそうだなあ、と紗江は思った。
「ぬ? カヅキではないか。今朝方ぶりだな」
「う、うん。 リリィちゃん、転校生だったの?」
「うむ、よくわからんがそう言うことらしい。 これでギンジとどこでも一緒だ!」
「へ、へえ…………」
なんか大胆なことを言ってるリリィさん。
ちなみに当の銀次は血を求めて異世界行きである(精神が)。
………え、ていうか何があったの?
「リ、リリィちゃん、その銀次のことなんだけど……….」
「む? 」
そこで気付いたのか、リリィは目を丸くした。
生気の抜けた(アンデットに生気と言うのもおかしな話だが)銀次を見て、一言、爆弾を放り込んだ。
「大丈夫だ。ギンジは我の色気に溺れているだけだからな!」
「…………………え?」
ぽかん、と香月が目を見開く。
クラスメイトが、動きを止めた。
遠藤は、心臓の拍動がとまっていた。
盟夜紗江だけは、正常な脳思考回路を保っていた。
……うん。なんかまた面倒なことになってきたなあ。
「……えっと、質問いいですか転校生さん」
「む、許そう!」
「武藤君とはどういったご関係で…………?」
「名字の通りだ!! 我が銀次のものならばその逆もまたしかり!!」
「…………ん?」
その言葉の意味をどうとったかは、人それぞれである。
ただ付け加えるなら、その銀髪の少女は、唯一浅間香月への対抗馬として、名が知れ渡ったという。
リリィさんは基本照れ屋。
だけど攻めに回ると基本お嬢様系。
受けになると弱い。




