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#17 ゴッドマザー紗江ちゃん

ギンジ、ギンジ、と。

言おうと思った言葉は喉を通らなかった。

リリィは、確かに嬉しかったのだ。

武藤銀次が助けてくれたこと、前にたってくれたこと、名を呼んでくれたこと。


それが、例え。

自分を見てくれていない(・・・・・・・・)のだとしても。


リリィは、彼が愛しかった。

自分を見てくれ、などと言えるはずもなかった。

壊れてしまうだろうから、そっと、胸にしまった。


彼女は、銀次の隣に居続けようと決めた。


いつか、彼が誰かを愛せるようにと。

















■□■□■□■□■□







むぅ、と頬を膨らませながら、浅間香月は小さくうめいた。

呻く、というよりは、考えていたことがつい口に出てしまったような、そんな感じ。心あらず、である。

いつもなら、ここで言葉を挟むのは幼馴染である武藤銀次のはずだった。

しかし今ここに彼の姿はない。リリィという昨夜銀次の拾ってきた少女と共に理事長室に呼ばれていたのだ。

故に彼女の憂いもまた、ここにいない武藤銀次のことであった。

ひいては、その隣にいた銀髪の少女のことも。


「…………………むうっ」


いいや、心配してる訳ではない。

武藤銀次がいっしょにいる時点で、そんなものは杞憂だと彼女は知っていた。銀次の「強さ」は不死という特性に裏打ちされているのである。だって死んだとこ見たことないし。

そんなわけで、彼女は心配してるのではなく。


ーーー単にリリィに嫉妬してるだけなんですね。



「…………別にいいもんっ」


リリィちゃんなんて全然羨ましくないし。あんなかまってもらっていいなーとか思ってないし!

などと言い訳をしつつ、モヤモヤとした感覚が香月の胸のあたりを覆いはじめていた。

本当は、結構寂しいのである。




「………いきなりなんなのよ?」


「…うぇ?」


実はクラスメイトもその辺の事情はわかっていた。

そもそも香月の学校での立ち位置とは、やはりスタイル、容姿、性格の三拍子揃った美人さん、である。

数ある男子を前屈みにし、暴発させてきた彼女。

その唯一の欠点は、隣に銀次がいることである。これが大きい。

銀次が雨に濡れればタオルでふきふき、ほっぺにご飯がついていればぱくり、昼寝したいと言えば膝枕をする。

もう完全なお嫁さんである。


彼女の独り言に反応したのも、そんな認識をもったクラスメイトのひとりだった。

香月よりもさらに濃い茶髪が特徴的な、盟夜(めいや)紗江(さえ)である。立場は、香月の親友と言ったところか。


「………うう、さえちゃ〜ん……」


「あー、よしよし泣かないの」


ぽんぽんと抱きついてきた香月の頭を撫でながら、紗江はまたか、と思った。

この友人は、美麗な見た目に反して中身は意外とお子様なのである。転べば泣くし、突然の事態にはめっぽう弱い。大概は武藤の銀次か紗江自身が慰めることになるのだ。

人呼んで、眠れる母性、盟夜紗江。

理由は、おそらくここにいない銀次のことで決まりだろうか、と彼女は思った。


「あーもう、ほら鼻かみなさい。泣き止んで何があったか話しなさい。武藤のバカがなんかやったの?」


「う、うえぇぇぇぇ〜ん………」


図星。

ハンカチで香月の涙を拭いてやりながら、紗江はため息をついた。

ああ、めんどくさい。でもなんかほっとけないのよねえ。

そんなリフレイン。溢れ出る母性。ノットスクルージ紗江ちゃん。


「お母さ〜ん…」


「誰がお母さんよ誰が……」


この子が嫁ならわたしは母親。それは姑である。

いや、そんなことはともかく。


「……武藤がなんかしたの?」


「……そうだけど、ぎんじは悪くないんだけど、でもぎんじが〜」


「なにいっているかわかりゃしないわ!」


それにしても綺麗な泣き顔ですこと、と紗江は思った。

この女に泣かれちゃあ落ちない男はいないだろう。

そこのとこが有料物件なのに人気の理由なのだ。


「………はあ。香月、そろそろHR(ホームルーム)なんだから、話すなら早くなさい」


「うう〜……………」


「紗江お母さ〜ん」


「殺すわよ遠藤」



茶々いれたクラスのバカを黙らせ、紗江はとなりの銀次の席に座る。

時刻は9:00。

針川聖学習院では、8時登校のあと約一時間の自主訓練時間があるので、一般の学校とは感覚が異なる。最も、多くの生徒は小中高と通い続けているため、違和感を唱えるのはせいぜい編入生くらいのものである(銀次はこの例である)。

朝のホームルームまでは十五分ほど時間があった。



ーーーーの、はずだったのだが。



「はーい皆さんホームルームはじめますよー」


「……あれま」


やけに早く、担任の坂町太郎が教室へと立ち入って来た。

相変わらず寝ぐせがひどく、シャツの裾をしまえない男である。

そんな男が、こんな早い時間にくるのはいっそう驚きだった。

(ごめん香月、また後でね)

と、小さく言い紗江は席に戻る。彼女の席は、香月の通りを挟んで右後ろ、つまり銀次の一個後ろだ。

時に寝ている銀次を蹴り起こし、たまにその後頭部を見ながら眠りにつく。そんなエブリデイ。

まだ銀次は来ていなかった。だが坂町は一通り周囲を見回し、ゆっくりと、


「皆さん、静粛に」


裁判じゃねえよ、と何人かが突っ込んだ。

この教師も意外とユーモアがあって人気があるのだ。なぜだか武藤の銀次は目の敵にしているようだが。

クラスメイトのひとりが、声を上げた。


「先生なんかあったんスカ? やけにはやいご登場ですが」


「ええ、ちょっと所用がありまして」


あはは、と言葉を濁す坂町。

多分何かあったんだろうな、と大多数の人間が思った。どうせまた誰かが能力使ってケンカしたとか、そんなんだろう。

そういえば何ヶ月か前にも武藤がどでかい喧嘩騒ぎを起こしたことがあった。確か屋内訓練施設が半壊して、相当絞られたようだった。

いや、まあそんなことはどうでもいい。

さて、と坂町は前置きをした。そして、その表情を少しばかり変えた。戸惑うような、悲しむようなそんな不思議な目をしていた。

……随分と、不可解なことだ。



「皆さん驚かずに聞いてください」


「先生、武藤君がいないんですが」


「ほっときなさい」


なんでや、とまた複数人が突っ込んだ。

しかし、次の坂町の言葉が、その動揺を吹き飛ばした。




「……………………今日は、転校生の紹介をします」



「「「「「「………………………は?」」」」」」




今度は、クラス全員の口調が揃った。

十一月にもなった、今頃?


「転校生は女子ですかー?」


ただひとりバカの遠藤だけが、能天気なままであった。



「ええ、綺麗な外国の子ですよ………入ってきて下さい」



声の少しあと、遠慮がちにドアが開いた。




一部のものは、その光景に息を忘れ。

一部のものは、ほう、と感嘆の声をあげ。


…………残りのものは、クエスチョンマークを頭に浮かべた。





教室に入ってきたのは、その場にあまりに不釣り合いな、銀髪の少女。

美しい、それ以前に神々しい。

形容する言葉が、そうすることすら冒涜しているのだと思えるほどの何か(・・)を内包した、少女。







ーーーだが。


その隣には。

漆喰の如く、蒼白な顔をした少年が、ぜひゅーぜひゅーと激しく息をしている武藤銀次が。

彼女の肩を借りて、死にそうな顔で、立っていた。



「…………………んん?」



紗江は驚きのあまり目を丸くする。

あれ?転校生?

いやそれはいい、すげえ美人だとか胸もでけえとかそんなことはどうでもよろし。


ーーーーなんで、武藤のバカは瀕死なんだ?



そんな風に、誰もがインパクトに押されて混乱していると。

武藤銀次が、弱々しいながらも、少し顔を上げた。

そして、ゆっくりと、こう言った。





「……………おはようございます。転校生の、武藤銀次です………」








………。


………………。


…………………………。





「「「「「…………そういうボケはいらねえんだよ!!!」」」」」



クラスメイト は ものをなげた!


ぎんじ は しんでしまった!

ちょっとした新キャラ登場。

お母さん+お姉さん=紗江ちゃん。

彼女はこの作品でただひとりツンデレのツンがある人。


美人だが、香月がとなりにいるせいであまり目立たない。でも妬んでるとかそう言うことをしないえらい子。

だって紗江ちゃん、香月ちゃん大好きだからねー(百合的な意味合いでない。あくまで友達)。

詳しいステータスはこれから。




これからもよろしくお願いします。

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