聖女召喚に……巻き込まれなかった? 2
車内には空席があるがそれでもパラリパラリと人が乗っている。混んでいたら二人の甘々空気に『リア充爆発しろ!』などと思った人間がいるかもしれない。
だが、今は玖路と千穂美に気を向ける人はいない。
かすかな談笑と僅かに漏れる携帯動画鑑賞の声がフワリと広がる。
ずっと、この光景が続くと思っていた。
いや、そんな事すら考えることがないほど当たり前だと思っていた。
全てが一変したのは……後10分ほどで駅に着くという少し寂れた商店街の入口に差し掛かった瞬間であった。
バスは激しい光に車内が包まれると爆音を立てて既に電灯が落ちていた商店街の側に建つ整備工場へと突っ込んだ。
目も眩むような光の中で玖路は咄嗟に隣にいる千穂美を守ろうと抱きしめかけた。
「千穂!」
名を呼び、腕を伸ばした。
自分の命よりも。
彼女を守りたかった。
そして、彼女の中に芽生えた命を守りたかった。
「玖路くん……」
彼女が伸ばす腕が光りながら泡となって消えていくのが目に入った。
千穂! 千穂! 千穂!
激しい衝撃と身体を打ち付ける痛みに玖路の意識は暗転し、気が付くと闇の中で呻き声が響いていた。
マジか?
マジか?
嘘だろ!?
玖路は車内通路の真ん中で倒れ落ちながら顔を歪めた。
ガラスの破片が飛び散り、僅かに外から入ってくる光の中で拉げた椅子が浮かんで見える。
周囲では呻き声が座席や外からも響いている。
「千穂……千玖……」
朦朧とする意識の中で周囲を見回したものの彼女の姿はない。
これは夢なのか? 現実なのか?
玖路は痛みを堪えながら携帯を出すと救急に電話を入れて
「事故、です……直ぐに……ぶんきょ……」
というとそのまま意識を失った。
場所は何処ですか? しっかりしてください!
携帯の向こうからの声がこの時、玖路の聞いた最後の声であった。
東京の一角で起きたバス事故。
それでもまだ世界を巻き込むほどの事故には思えないこの事故が世界を巻き込む大事件の発端になるとはこの時誰も考えたりしていなかった。




