聖女召喚に……巻き込まれなかった? 1
夜の闇の街をバスは走っていた。
東京の郊外だが住宅の灯りや午後9時台と言えばまだスーパーの電灯は明るかった。
神木玖路は隣に座る6歳年上の高科千穂美の手をそっと握り締めた。
いや、明日には神木千穂美だ。
玖路は幾分小さな声で
「後悔してねぇ?」
と呼びかけた。
自分で言いながらもドキドキと鼓動が早くなる。
彼女は24歳。自分は18歳。
いや、今日で19歳だ。
こんな成人なりたての若造がエリート家庭のお嬢さんと駆け落ち同然で結婚なんて……当然、周囲から歓迎はされていない。
だから、後悔してねぇ? と婚姻届けを出す前に聞いてみた。
千穂美は玖路のそんな問いかけに小さく笑って
「してないよ。玖路くんはしているの?」
と返した。
自分は後悔などしていない。
両親も兄も大反対したが、彼の手をそっと握りしめるぬくもりだけでこんなに幸せな気持ちになれるのだ。
後悔などするはずがなかった。
千穂美の返答に玖路は首をブンブンと振ると
「してない! 絶対にするわけがねぇって!!」
と返した。
今日の昼。
誰もいない千葉の海辺にある白い建物で二人だけの結婚式をした。
紺碧の海に青く透き通った空の間で永遠の愛を誓い合ったのだ。
祝福する人はいなかったが、それでも、これからの生活を思えば幸せだった。
玖路はバスの席に座りながら二人の間で絡めるように握り合わせた互いの指で光るマリッジリングに笑みを浮かべた。
「俺、千穂と千玖のいる街を守る鉄壁のお巡りさんになるからな」
千穂美は小さく笑って
「まだ、この子。男の子か女の子か分からないよ? 女の子なら玖美子よ」
とお腹に手を乗せた。
小さいが二人の愛の結晶が息づいている。
誕生するのを待っているのだ。
玖路はそっと触れて笑みを浮かべた。




