第11話 開き直り。
(そっか。責任取ればいいんだ。うん、そうだな)
二日酔いと寝不足で目は開けにくいが、ハインツはなんだか気分はスッキリしていた。
カーテンを開けると朝日が眩しい。
ここのところうじうじと悩んでいたことが、パッと晴れた気がした。
オレリアの父親に自分の家の状況も説明して、必ずカタをつけるから、その時にはオレリアにプロポーズしたいと、酔った勢いもあって宣言して来た。いかに自分にオレリアが必要なのかと熱弁をふるってしまったのは、酔ったことにしようと思う。
後は…宰相殿の言う<黒幕>を突き止めるだけ。
(まあ、それが一番難しいことなんだけどな)
そう思いながら、ハインツは宰相宅にお邪魔するために着替えを始めた。
***
「弟がね、急に、自分を見つめ直したい、と言い出したらしくて、辺境伯軍に志願したらしいのよ。お父様の話ではね、少なくとも3年は休暇もないらしいのよ」
「へええ」
久しぶりに時計台の下にオレリアを誘ってお昼ご飯にした。
家から持ってきたサンドウィッチを一つ俺に渡して、オレリアは12月にしては晴れ渡った青空を眺めていた。
「気が抜けちゃった」
「で?お前はどうしたいんだ?あの…クレマンと…その…まだ結婚したいか?」
「え?弟がしでかしたことは無くならないしね。申し訳ないと思いながら一生暮らすのも無理かな。それに…クレマンはどうもあなたの婚約者のリリアーヌ嬢といい仲みたいだし。お似合いよね、あの二人」
俺はオレリアの話にうんうんと頷きながら、顔が緩みそうになるのを我慢する。
実はあの後、違法賭博場の黒幕も特定できた。
30年ほど前の、フール国と領土問題から起きた小さな戦争。そこで大活躍した<英雄様>があの支配人だった。決め手はオレリアが見た背中の刀傷と、利き腕の傷。宰相殿と殿下の調べによると…その戦争で英雄と称えられた男は一代限りの男爵位を貰ったが、大けががもとで剣が持てなくなって田舎に隠居した。年金も十分に貰っていたが、賭け事にはまっていったらしい。賭け事で何もかも無くした男が王都に出てきて頼ったのは、平民の自分を盾代わりにして功績をあげた当時の将軍。それで、将軍は自分の引退後の遊ぶ金欲しさに賭場を始めたらしい。そんで、そいつに資金提供して共同経営者になったのは金の匂いに鼻が利く現財務大臣。
芋づる式に大物を次々に釣り上げて、王城は大忙しらしい。雑魚はこの次の舞踏会でまとめて拘束するらしい。
俺は…18歳になるには半年足りない。
12月の舞踏会で代理である父親が拘束されれば、領地は国に没収されることになる。
(それこそ、オレリアが言っていたように、王城にでも就職するか…でもそうしたら俺の身分は平民。伯爵家令嬢のオレリアを嫁に欲しいとは言えなくなってしまうな)
詰んだな。ここまでか。
そう思っていたら、殿下が声をかけてくださった。
「ハインツが18歳になるまで、君の領地は王家預かりにしてあげるからさ」
「……」
(さ?)
「君もこれから家の財産がらみの裁判をいくつか抱えることになるから、しばらく王都にいるしかないでしょう?僕のところに手伝いに来てヨ。レオニー伯爵家の王都の屋敷はとりあえず借り上げ社宅として僕が立て替えて買い取ってあげるからさ」
「……」
「いや。殿下。お言葉ですが、ハインツ君は私が身元引受人になりましょう。だから、私が使います」
「いやいや、宰相殿?ありがたいお言葉ですが、僕は自分の領の再建作業もありますし…」
宰相殿まで口をはさんできて、余計ややこしくなりそうだったので、精一杯お断りしてみた。
「え?そう?そのために君がオレリア嬢に領地経営を学ばせているって、エルザに聞いたけど?」
「……」
(それはち…いや、そうかもしれないけど)
「まあ、どちらにしても今度の舞踏会で、きっちり綺麗に片づけよう?ね?」
殿下がにこりと笑う。少し怖い。
「あ…はい」
***
俺にとってオレリアは、幸運の女神なのかもしれない。
こいつと知り合わなければ、一人でまだもがいていただろう。
結局、リリアーヌ嬢と結婚するしかなくなって、借金まみれでタヌキオヤジの傀儡になっていたかもしれない。
そんなことを思いながら、パクパクとサンドウィッチを食べるオレリアの横顔を眺める。もう厚化粧も必要じゃないだろうし、実家にいたかったらいることもできる。クレマンみたいなおとなしい男と結婚して、穏やかに暮らすこともできるかもしれない。
でも…残念なことに、俺はお前を離してあげられそうにない。




